ひねくれマイロード

クガ

十五

 「なんで自分で戦わないのよ、ゲント!」
 ラミが怒ったような口調で問い掛ける。
 「言ったはずだろ?俺は、まだ戦える段階じゃないんだよ。」
 「どういう事?昨日はあんなに強かったじゃない。あれ程の強さなら、並大抵の人なら一捻りでしょ?ねぇ、コウメイ?」
 「残念ながら俺は、ゲントの戦うシーンを見ていないし、今久しく再開したばかりで、こいつのSKILLや称号、知らないんだ。」
 コウメイは少し困った素振りを見せた。
 「が、大体理解した。要するに、ゲントは嘘をついているんだよ。」
 「うん?嘘はついてないぞ?」
 「いや、正確に言えばついているんだよ。多分お前の戦法、相性関係の激しいものだろうし、最悪の相性関係の相手だとしてもお前のことだ。勝てるはず。」
 「…」
 「って事は、勝つというよりも、殺してしまう危険がある物でなら、勝てることになる。殺してしまうと、お前は一躍有名になり、様々な自身の情報がばれ、更に人殺しというレッテルもはられる。となると、身の回りにいる友人に対してゲントは気を使った結果。」
 「コウメイに、代理人を頼んだ…」
 ゴクリ、と、ラミは息を飲み込む。
 その教室中に、驚愕が蔓延する。今の一瞬、それだけでゲントはこの思考をしたのか、と。
 「いや、お前ら勘違いしてんなぁ。あの一瞬で俺が前々から思っていた事を、仮定だけで考えちまったコウメイこそ、流石と言える。だろ?」
 そう、コウメイが代理人となる事を了承したのは、ゲントの意図を汲んだから。
 更に、二人の
 『こいつになら任せてもいい』
 『こいつなら任せてくるだろう』
 という信頼関係の強さも疑いの余地はない。
 教室中のコウメイ以外全員が、コウメイの頭の回転の速さに戸惑い。
 また教室中のゲント以外全員が、その信じる心の強さに声が出ない。
 「それにしても、何故俺に指名したのか…気掛かりだな。」
 「ふむ、それについても予想は出来ている。」
 「「「「は?」」」」
 今度はコウメイ以外全員。
 「簡単な話だぞ?ラミと親しく話していたゲントが許せなかったのだろう。で、同じく直ぐに和解した俺も許せなかったと。だから代理人を許可した。あ、許せなかった理由は知らん。個人情報だからな。」
 「「「「…」」」」
 「さて、俺は準備があるからな。ゲント、先に行ってるから、今のうちに勝敗の条件と賭けるものチップ用意してろよ。後代理人の対価。」
 そうしてコウメイは、嵐を巻き起こして去った。
 口を開けてポカンとしていない者は、部屋にいなかった。



 「ツバキ。」
 「はっ。」
 どこから音無く現れる。影のようにぼやけて、その姿はコウメイにすら捉えられない。
 「俺の武器、取ってきてくれるか?場所はマオが知っている。」
 「了解しました。」
 また音無く今度は消える。
 廊下には笑みを浮かべた男が一人、歩く。
 
 
 

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