銀河大戦〜やる気なしの主人公が無双します〜

グルクン

会議II

         第15話 会議II


 コバルトが〈連邦領侵攻計画〉の概要を説明して終わってから、小休止を挟むことになった。

 小休止中の会議に参加している将官達は、小休止中にも関わらず各々席を離れて集まり、コバルトの説明した計画について議論し合っていた。


 小休止が終わり、将官達は自分の席へと戻る。
全員が戻ったのを確認して、進行役のリャン上級大将が口を開いた。

「各々方で先程の計画を話し合われていたのは見て取れました。これより本会議に参加している全将官で〈連邦領侵攻計画〉について内容を詰めたいと思います。当計画について意見のある方は挙手をお願いします」

 リャンが言い終わると、次々と手が上がり始めた。

 それに対してリャンは階級の高い順に述べるよう宣言する。最初に意見を出したのは、第1艦隊総司令官の上級大将だった。

「今回の計画では、2回に分けて連邦領へ侵攻することになっていると、先程の説明で確認した。それを踏まえた上で、補給線をどう繋げるかが重要になる。私個人としての意見は、敵領域内へ侵入していく度に補給拠点を設けるべきではないかと考える」

 上級大将の意見に同意見だったもの達が、賛同の意を表す。それに対して否定的な意見も出た。

 次に発言したのは、第4艦隊総司令官の上級大将だった。

「私は第1艦隊総司令官の意見には反対だ。その考えだと、2回目の侵攻までに時間が掛かってしまう。それでは、いくら補給物資や金を出そうと時間の無駄になるのは明白だ。私は、最初の侵攻時に高速艦のみで構成した先行艦隊を送り込み、敵艦隊を壊滅させ前線基地まで当艦隊を帰還させた後に、全軍を以って攻め込めば良いと考える」

 第4艦隊総司令官によれば、コストばかり掛ける行動よりも、高速艦による短期決戦をした上で総攻撃を掛けるべきだとの意見だった。

 この意見に対しても同意見を持っていた将官達が賛同の声を上げる。

 またしても議場が二分されることになった。

 両陣営の議論は白熱し、進行役のリャン上級大将は場を落ち着かせようと声を上げる。それでも議場の声が止むことはなかった。

 その惨状を見ていた元帥は、それまで静かに座っていた席を立ち、声を張ってその場を静めた。

「静かにせんか!帝国軍人の将官たる者達が、子供のように喚きおって。貴様らは皇帝陛下がご座してきる場面でも、そのように振る舞う気か。場を慎め!!」

 これまで静観していた元帥が声を響かせた事により、騒がしかった議場が静寂に包まれる。

 それに納得した元帥は言葉を続けた。

「帝国軍において栄えある将官達よ、本計画は、帝国史上最大の作戦になることは承知しているはずだ。この計画を実行するとなると、多くの人命、物資、金が動くことになる。もしも失敗したりでもしたら、そこを連邦に突かれるやもしれん。人間の考えることが全て上手くいくことはない。それを踏まえた上で、大人の話し合いをしようではないか」

 元帥はそれを言い終わると、静かに席へと座り、これまで通り静観する姿勢をとった。

 元帥の言葉によって、落ち着きを取り戻した将官達は、先ほどとは違い、”凛” とした姿勢で会議を再開した。

 会議が再開したものの、将官達の意見は平行線のままだった。そこで進行役のリャン上級大将は、一度多数決を採ることを提案する。

 シュトルフ達昇級に関する裁決と同様、各将官の席にある画面に『第1艦隊総司令官の意見に、【賛成】か【反対】か』のボタンが表示された。

 各々、自分の画面上で投票していく。


 5分も経たずに結果が表示された。


【賛成】 50%

【反対】 50%


 全将官の意見が、完全に2つに別れてしまっていた。


 この結果を踏まえ、議場内で同意見者同士の少数グループに分かれての話し合いが、1時間に渡って行われることになった。



 1時間後、再び議場の各々の席に戻った将官達。それを確認したリャン上級大将は、元帥に本計画の意見を求めた。

「元帥閣下、本計画について何かご意見はございますか?」

 そう促された元帥は、席を立ち固く閉ざしていた口を開く。

「儂は、第1艦隊総司令官と第4艦隊総司令官の意見を共に取り入れた考えでいきたいと思う。まず、直接補給できない敵領域内において、補給線という生命線は必要不可欠であるのは皆も承知しているはずじゃ。補給線があるのとないのでは、我々の兵士の士気に関わる。そこで、敵領域内において補給線確保の為に、小惑星を利用しようと思う。小惑星ならば連邦もそこまで気にはしないはずじゃ。そして、先行艦隊として高速艦中心の2個艦隊を先に送る。その後続として小惑星を改造した補給基地を連邦領内へと配置していく。後方に補給線があることによって、燃料弾薬を気にせず敵に当たれる。小惑星補給基地を配置した後ろからは、帝国領内より侵攻部隊の本隊が続くわけじゃ。これなら間を置かずして、連邦を崩すことができるだろう」

 元帥が話し終わると議場にいる将官達は、その内容に呆気をとられていた。そして少し間があいてから、皆が納得した表情をしていた。

 将官達にとって、〈小惑星〉を改造し利用することは考えもつかなかったことである。それを平然と言ってみせた元帥は、皆の注目と尊敬の眼差しを一斉に浴びることになった。

 皆の目線に気がついた元帥は、軽く咳払いすると静かに席へと座った。

 進行役のリャン上級大将も、参加している将官と同じように、元帥に見とれていた。元帥から(早く進めよ)と目線で合図されて、ようやく我に帰り急いで話を進めることにした。

「元帥閣下、ありがとうございます。それでは、閣下の意見を踏まえた上で、本計画の採決を取りたいと思います。」

「本計画に賛成の方は、ご起立お願いします」


 その言葉を聞いた全将官は、一斉に席を立ち【賛成】の意思を示した。全会一致での採択である。

 ただし、ここで採決された計画は本採用ではない。

 最終決定権は、帝国内の全てを統べる『皇帝』あり、『皇帝』によって帝国の全てが決められることになっている。

 ここでの採択はあくまで、軍としての意思であり、皇帝の意思とは別のものであるという事を踏まえなければならない。

 今回、採決された〈連邦領侵攻計画〉は、帝国元帥と軍務長官、帝国軍統合作戦本部長の連名で皇帝陛下へと提出された。

 多くの帝国軍人と物資、金が動く本計画は、皇帝としても簡単に判断できるものではない。例え計画が失敗したとしても、皇帝の責任問題にはならないが、連邦に隙を与えてしまうことにはなる。

 己の生活の安定と、連邦との覇権争いを天秤に掛けなければならない皇帝の心境は、計り知れない。


 結論から言うと、当計画が採用されるまでに、3ヶ月もの時間を要した。

 計画書が皇帝へ提出された後も、元帥と軍務長官、統合作戦本部長は度々、皇帝に呼ばれ本計画についての説明及び確認が行われた。

 そして遂に、皇帝の名において本計画が採用されることになった。


 皇帝より命名された作戦名は…


《エアオーベルング作戦》


 と名付けられることになった。


 計画の採用はされたが作戦実行の準備をするため、3年間の猶予を設けることになった。

 帝国は、この3年の内に高速艦の建造、小惑星の補給基地化改造、必要物資の蓄え、帝国兵の増員等をやらなければならない。

 これより3年後、国家の威信をかけた大規模作戦が開始されることになる。

 この計画は、銀河全体を巻き込んだ歴史に残る大きな戦い《ラグナロクの戦い》を引き起こすことになる。

 ただし、その戦いが起こるまではまだまだ時間を要することになる。

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