銀河大戦〜やる気なしの主人公が無双します〜

グルクン

帝国


         第12話 帝国


 連邦領内における特殊工作もとい特殊攻撃を最後の最後でしくじったシュトルフとシュナイダーの両名は、帝国首都星エレボスの帝国軍特殊作戦軍司令部に出向を命じられた。今回の作戦における責任者である2人は神妙な表情で司令部前まで来ていた。


 部屋の入り口前には兵士2人が立っている。シュトルフ達が来ると、中の人へ確認を取った。許可が出たらしく兵士が扉を開ける。


「失礼します。シュトルフ・ベシュタター大佐。ただ今参上いたしました」

「シュナイダー・ハウスト少佐。同じく参上いたしました」


 部屋の奥にあるアンティーク調の大きな机に座している壮年の男から、来客用にと設けられているテーブルへと案内される。

「2人とも、そこに腰かけろ」

「「はっ!」」


 2人とも緊張した趣きでソファーに座った。
男もすぐに仕事用のディスクから席を立ち、シュトルフ達の目の前に腰掛けた。

 すぐさまシュトルフが口を開く。

「閣下、申し訳ございません。ご期待通りの働きが出来なかったこと、深くお詫び申し上げます」


 しかし、その謝罪を聞いた男は、気にもしてないように大声で笑った。


「ガッハッハッ小僧めがやりやがったわ!本当にあの作戦をやり遂げるとは。それも連邦政府の大臣を巻き添えにして!平和ボケした奴らの顔が浮かぶわ」


 シュトルフ達は唖然とした表情で固まっていた。
どやされるかと思っていたのに、耳に聞こえたのは笑い声。混乱しないわけがない。


 シュトルフを〈小僧〉扱いするこの男は、帝国軍特殊作戦軍司令長官 ヴェレス・ヘルマン大将という。

 彼の見た目は筋肉隆々で、剛毅果断な性格をしている。…ちなみに毛根は残っていない。

 歳は60で、あとは若い奴らに任せてそろそろ引退しようかと考えている。

 伯爵位を持ち、ヘルマン伯爵家当主も務める。見た目から周りに恐れられており、気軽に話しかけてくる人はあまりいない。


 シュトルフ達も周りと同様、ヴェレス大将を非常に恐れていた。当部署へ配属された時、こっ酷く叱られシゴキ倒された苦い思い出があるからだ。


 いまだにヴェレス大将は笑っている。

「ガッハッハッ!最高だ!!」

 シュトルフ達は困惑した表情で彼を見つめる。
お互いの頭の中では…


((大将ってこういう人だっけ?))


と、これまでの記憶を辿る。が記憶の人と今目の前にいる人の行動が一致しない。それ故、さらに混乱する。

 2人の頭が、はてなマークでいっぱいになっているところでようやく大将の笑いが収まった。


「いや、すまんな。あまりに愉快で久しぶりに笑いが止まらなかったわい」

 ヴェレス大将が2人に詫びる。

「いえ、お気に召されたのでしたら光栄でございます。」


 それに対してシュトルフが混乱しながらもお礼をいう。


 シュトルフは続けて

「閣下、せっかく用意して頂いた特殊兵器を2機共喪失してしまいました。なんとお詫びすればいいのか…」


 その言葉が気に食わなかったのか、ヴェレス大将は


「小僧。貴様はそんな事を気にしておったのか?連邦の要人と防衛艦隊旗艦と司令官を消したのだ。それの代償と思えば痛くも痒くもないわ」

と気にも留めない様子で言った。


「ですが閣下…」

「くどいぞ。道具というのは使えば壊れるものだ。まあ、今回は壊されたが正しいが、似たようなものだ。終わり良ければすべて良しだろう」

 その言葉にシュトルフは感謝の意を表した。

「閣下の慈悲深き心に感謝いたします。」


 それに対してヴェレスは呆れたような物言いで口を開いた。

「なにも慈悲深くなんてないわ。それより、この結果を軍の上層部に出したら連中はたいそう驚いておったぞ。2人の昇級を検討するそうだ」

 ヴェレスの思いもよらない内容にシュトルフは複雑な気持ちで返事をした。

「そうですか…」

「ん?なんだ。あまり嬉しそうじゃないな」

「いえ、そんなことはありません。今の階級で満足してますので…」

「そうか?お主なら軍のトップが似合っとると思うがな」

ヴェレスが、シュトルフを持ち上げるように話すため、シュトルフ自身が恐縮してしまう。

「あまり滅多な事を言わないでください。私にその様な器はございません。全てはシュナイダーの助けがあってこそです」

 引き合いに出されたシュナイダーは慌ててそれを否定する。

「シュトルフ様、私をお出しになるのはお止めください」

「おぉ、シュナイダーか。忘れておった。そういや最初から居たかな…。シュナイダーよ、お主はもっと存在感を出さぬか」

 ヴェレスからの厳しい指摘にシュナイダーは依然とした態度で言葉を返した。

「いえ、私はシュトルフ様を補佐するのが役目だと自負しております。主よりも目立つ使いがいてはなりません」

 それを聞いたヴェレスは、昔を思い出したかのように微笑みながら言葉を続けた。

「お主らは、いつまでも主従関係にあるな。最初会った時と変わらんわ」

「閣下は少し変わられましたかな」

「それはどう言う意味じゃ?」


 少し気まずい空気になったりしたが、ヴェレス大将との話は万事上手くいった。


 作戦結果の報告に来たのに、話がどんどん脱線していく。気が付いたら日が落ち始めていた。

 2人はヴェレス大将に断りを入れて部屋を出ようと扉まで来たところで、大将に呼び止められる。

「2人とも此度はよくやってくれた。上官として誇りに思うぞ。今回は楽しかった、また来てくれ。その時もたくさん話そう」

 大将は2人にそう言った。


 そして、シュトルフがそれに返事をする。

「閣下がよろしいのであれば、その時はぜひお邪魔させて頂きます」


 その返事に、大将の強面が崩れシワの多い笑顔を2人に見せた。

 2人は敬礼をして部屋を後にする。

 内心バクバクだった。鬼のヴェレスが笑顔を見せた。2人とも、その光景を初めて見たので軽くパニックになっていた。

 彼に対して苦い思い出しかなかったのに、今日報告の為に会うと終始笑顔で対応してくれていた。

 明日あたり天気が崩れるかもしれないと思う2人だった。

 司令部が置かれている建物から出た2人は、用意されていた車に乗り、街へと出かける。

 2人とも作戦中に約束した事を忘れてはいなかった。

 あまり良い終わり方では無かったが、司令長官より成功との判断が出たのだから成功って事にしておこうという考えだ。

 2人が車を停めたのは一軒の古びたお店の前。

カランコロン♪

「親父さん、失礼するよ」

 今時、店の入り口に鈴を下げる店も無いだろうと思った。でも、それが味を出している。


「おぉ!若いの、久しいですな」


 声とともに店の奥からは、眼鏡を掛け痩せた男が出てきた。


 この男は店の亭主のケルト。今年で70を迎える。
 面倒見の良い男で、シュトルフが子供の頃から知っている。


「ケルト様、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」

 シュナイダーが社交辞令の言葉をかけた。

「あら、シュナイダーじゃないか!2人して来たのか。これは良いな、とっておきのワインを持ってこよう」


「ケルト様、なぜ私たちがワインを買おうとしてるのがわかったのですか?」

「長年の感だよ。伊達に40年も店をやってないからね。あっと!チーズもいるだろ?」


 そう言うとケルトは、店の奥へと消えていった。


 彼の感というものには、さすがのシュトルフ達も苦笑いするしかなかった。


 少し待っていると、奥から手一杯にワインとチーズを抱えたケルトが戻ってきた。

 その光景に驚いたシュトルフは、慌ててそれを指摘する。


「ちょ!親父さん、こんなにはいらないよ」

 シュナイダーもシュトルフと同様にケルトに指摘する。

「シュトルフ様の仰る通り。ケルト様、さすがに多すぎます」

 2人の指摘を受けたケルトは、バツが悪そうな顔をしながら、その理由を話した。

「おっそうかい。いやぁ〜それがどれも最高の品だから迷っちまってよ…」

 ケルトの人の良さを知ったシュナイダーは呆れたという感じに口を開く。

「…それならそうといってください」

 そこへ〈最高の品〉との単語が聞こえたシュトルフが、シュナイダーへ興奮しながら指示を出した。

「シュナイダー、この中から今日の日に合うものを探し出せ」

「かしこまりましたシュトルフ様」

 その様子を見ていたケルトは、思い出したかのようにシュトルフへ話しかける。

「そうか、シュナイダーはワインの目利きができたんだったな」

「親父さん、シュナイダーの嗅覚と味覚は誰にも負けませんよ」

「ハッハッハッそのようだな」

 2人が他愛もない会話をしている間に、シュナイダーの選別が終わった。


 彼が選んだ物は、ブルニュー産赤ワインとウォッシュチーズのリヴェロだ。

ケルトはシュナイダーが選んだ品を見て、驚いた表情のまま話し始めた。

「お前さん、本当に鼻と舌が良いみたいだね。その2つは特に気を付けながら管理していた物だよ」

 褒められたのに褒め返すのがシュナイダーである。

「ケルト様が大切に管理していたおかげで、最高の状態になっておりました」

「そりゃ照れるな」

 褒めたはずが褒められてしまった。ケルトは頭を書きながら笑っている。

 シュナイダーとケルトのやり取りを黙って見ていたシュトルフは、早くワインとチーズを口にしたくてウズウズしている。


「親父さん、この2ついくら?」


 耐えきれなくなったシュトルフは、2人が楽しく会話している腰を折って、ケルトに値段を聞いた。

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