いずれ地に咲く

作者 ピヨピヨ

花の話 二話

白い花畑がある。
御伽話のように、ファンタジックで幻想的な場所だ。       
こんな美しいところは、初めて来た。

いや、

初めてでは、ないな。

もう、来たくないところだ。

 「あの子とはここで会ったのよ」

突然、隣から声がした。
私のすぐ近くにあの白い少女が俯いたまま立っていた。
頭には白い花の冠をかぶって、着ていた服は頭から流れた血でぐっしょりと濡れていた。

「ここの花を、冠にして私にくれたの。」

そう言って、少女は何歩か歩きだした。
なぜ彼女がここにいるのか、ということより、なぜまたこんな夢を見てるのだろう。
最近は仕事をした後、よくこんな夢を見てしまう…。
もうこんなもの見たくないのに。

「…ねぇ。」

少女が振り返る。
じっと私を見つめて、

「なんで殺したの?…」

そう言った。
なんでって…お前が殺してと頼んだのだろう?

「それが仕事だからだ。」

なんでそんな事言うんだ。
少女は血だらけの顔で、

「じゃあなんで、止めてくれなかったの?」

やんわりと笑った。
その笑顔は、ぞっとするぐらい明るかった。

「いいのかって、死ななくてもいいんじゃないかって、言ってくれていれば、私は死ななくてよかったんじゃない?」

それは…
言えなかったんだ…

「面倒だったんだよね?止めてもどうせ無駄だってそう思ったんでしょ?」

違う…そんなことない。
死ぬことが、お前の願いだった…。

「……。」

少女は黙ったまま、じっと私を見つめている。
その瞳は、真っ黒に濁っていた。
なんで黙ってるんだ。

なんで、そんな目で私を見るんだ…。

私は何も、何も悪くない。

突然に、風が強く吹いた。
足元の花が、一気に花弁を散らし目の前の少女は白に飲まれて、見えなくなった。





コンっコンっ
扉をノックする音で、私は悪夢から目覚めた。
あたりがかなり暗い、夜のようだ、わずかな月明かりを頼りにして、ランプに明かりをつける。
目覚めは悪いが、悪夢を見たせいなのか眠気が全然ない。
時間を見ると、かなり遅い時間だ。
こんな時間に一体誰が訪ねてきたんだ?
そう思って玄関へ行く、扉の向こうに何がいる気配がする、私はドアノブに手をかける。
一瞬躊躇した、あの白い少女のように私に殺されに来たやつなのかもしれない、そう思ったからだ。
しかし出ないというのは、失礼にあたるかもしれない。
私は扉を開けた。

そこにいたのは、少女だった。

茶色い木で編まれた籠を持って、頭にはボロボロの布を頭巾ずきんにしてかぶっていた、ずいぶんみすぼらしい、正直に言うと汚い少女が立っていた。
黄色の大きな瞳が、まっすぐに私に向けられている。
私はこの少女を知らない、それにこいつは人間のようだ。
なおさら私が知っているわけないだろう。

「なんだお前、何か用か?」

ぶっきらぼうにそう聞くと、少女は籠の中の布からあるものを取り出した、それは
スイセンの花だった。

「ちょっと、お兄さん、花買ってくれない?」

あぁ、そういうことか。
こいつ花を売りに来たのか、だがこういう子供は早く家に帰った方がいい。
暗い森は危ないし、良からぬものに襲われるかもしれない。
あと、その花は嫌いだ。

「いらない。」
「えー、即答…。」

少女はがっくりと肩を落とした。
しかしそれでも、しつこく花を買うように催促してくる。

「スイセンが嫌なら、クロッカスも、チューリップもあるけど?買わない?」
「買わない、いらない、早く帰れ。」
「ひどい…。」

ずいぶんと言葉をきつくして、早く帰るように言ったのだが、それでも少女は帰らなかった。
それにしても、月明かりのせいなのか、少女の肌は、とても白かった。

「いいから早く帰れ。」
「いやぁ、でも、これを売らないと…帰れないし…私帰るところ、ないし…。」

それに、と言って少女は、にんまりと笑った。そして

「お腹…すいたぁ…。」

と言って、倒れそうになった。
とっさに、手を差し出し、床への激突は防げた。
少女は随分と軽かった。

「おい、大丈夫か?」

そう聞いてみるが、返事がない、そのかわり、規則正しい寝息だけが聞こえてきた。
どうやら寝ているようで、私は少し困った。
このままここに置いても良いような気がしたが、それでは、森の怪物に餌をやるようなものだ。
どうしたものか。
どちらにしろ、家の中が安全な場所だ、ひとまず家に入れよう。
そう思ってひとまず家には入ったんだが、正直言ってこんな小さい少女を床に寝かせるわけにはいかない。
となると使わなくなったあのベットにやればいいのか、そう思って少女をベッドに寝かせた。

「…。」

少女は、安心したように眠っている。
毛布を何枚かかぶせたので、寒くはないだろう。
というか、なぜこの私が、この少女の世話をしているのだろうか。
こういうのは余計なおせっかい、というものだろう。
しかし疑問だ。
こんな暗い森の中に入って、誰も止めなかったのか?
親は、心配しなかったんだろうか。

まあ、いい。
明日には帰ってもらおう。

そう思って、寝室と帰った。

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