いずれ地に咲く

作者 ピヨピヨ

花の話 三話

「待っててね、ここにいてね。」

わかった、私、いい子にしてる。

「いい子ね、カルミア。」

うん。

「カルミア…。」

なあに?

「お母さんのこと、好き?」

…好きだよ、
世界で一番好き。

「よかったわ…カルミアならそう言ってくれると思ってた。」

でしょ…。

私、待ってるから。

だから。


だから…。


早く帰ってきて。




お母さんは





帰ってこなかった。







私はぼんやりと、目を開けずに起きた。
頭だけ起きている、そんな感じ。
でも、この時間は結構好き。
心地が良くて、なんかいつもよりあったかいなあ。

「おい、起きたか?」

誰かの声が聞こえる、誰だろう。
聞いたこと、ないなあ。
それに、今は起きたくないし…。
後、3分だけ…

「起きろ、人の家でくつろぐな。」
「んー、……。」

ベッドでゴロゴロしてたら、突然ほっぺに激痛が走った。

「い、いふぁい!いふぁい!」
「早く起きろ、お前汚いから、風呂入ってこい。」
「わ、わかったからぁ!」

強引にほっぺをつねられ、強制的に起こされる。
ばっと起きて、私のほっぺをつねっていた男をキッと睨んだ。
おもわず、1秒間たっぷり停止していたと思う。
目の前にいるのは、知らない男。
少し長めの黒髪に、不健康そうな白い肌、そして紫っぽい青い瞳、…結構イケメンだ。
でも私があっけにとられていたのは、その人の顔じゃなくて、自分が今置かれている状況だ。
あれ、ここ誰の家?
なんで私、ここで寝てんの?!
困惑する私に、男は、私がなぜここにいるのか、めんどくさそうに説明してくれた。
確かに花が売れなくて、森の中に入ったけど、寝てしまうなんて、一生の不覚。

「いいから、早く風呂入れ、それから飯、用意してやるから。」

そう言うと、男は部屋から出て行こうとした。
私は、とっさにその人の服の裾をつかんだ。
男は、まだ何かあるのかと言わんばかりに、めんどくさそうに振り返った。

「お兄さん、名前は…?」

私がそう聞くと、男は、しばらく考え込むようにしていたが、忘れ物をやっと思い出したかのように。

「カロンだ。」

そう言った。

「私はカルミア、えっと…いろいろありがとう。」
「お前の名前なんて興味ない、飯食ったら早く出ていけ。」

なんて無愛想な!
まぁ、仕方ないか、寝させてもらっただけでも、結構お世話になってるし、いろいろ言えない。
とりあえず笑ってみたら、

「今の会話のどこに笑う要素があったんだ、俺はちょっと外行ってくる、物盗むなよ。」

と言われて、男を部屋から出ていった。
物盗まないよ、さすがにそれは酷くない?
そうふつふつと考えながら、洗面所を見つけて着替えていると、改めて随分と痩せたなぁとしみじみ思った。
そういえば、まともにお風呂入るの久しぶりかも、
鏡を見るとそこには貧相な子供が私を見つめ返している。
うん、カロンが汚いって言うのも納得する。 
ちょっと、ショックかも…。
お風呂に入ると、暖かくていい匂いがして、気持ちいい…。
というか、ここ男の人の家で、しかも知らない人がの家だ、普通だったら警戒するべきだと思うけど…。

「なんだかなぁ…。」

今は別にいっか…。






「よし、これで帰れるだろ…。」

私は少し砂っぽくなった手を振った。
村につながる道までを目印をわかりやすいように、小石を置いた。
多分、あいつは私の家に偶然来れたのだろう、じゃなきゃ、あの暗い森の奥、あそこまで来れるわけない。
それに帰れないと泣きつかれるのも嫌だ。

「それにしてもずいぶんここも変わったな。」

それ言って、少しあたりを見回す。
ここまで来ると、それなりに人が来て何かしら売っていた気がするが、今ではここの道を歩いた者はあの娘以外いないようだ。
それにもう少し明るかった。
そんな気がする。
帰ろうとした時、頭上の木からコロコロと音がした。
なんだ、と上を見上げると、小さな木霊がちらっとこちらを見ている。
どんぐり帽子を被り、黒いつぶらな瞳をこちらに向けている。

「なんか用か?」
「…ヒト、ハナ、キタ…。」

木霊の言語能力は低く、最低限の単語しか話さない。
この場合はあの娘のことを言っているのだろう。

「その娘なら、今家にいる。」
「…オンナノコ…ニンゲン……オイシソウ。」

そう言って、コロコロと嬉しそうに鳴いた。
私は家へと向かう道を歩きだす。
まだコロコロと音がするところを見るに、つけてきているようだ。

「ホシイ、ナ…オイシイ…ニンゲン…ホシイ、ナ ︎」

結構しつこい、どうせあの娘目当てだろうが、あとあと仲間で来られても、迷惑だ。

「ホシイ、チョウダイ、ヤワラカイ…オニク、チョウダ…」
「あんな者、食っても腹壊すだけだ。」

邪魔だから、散らしておくか…。

「手を出してみろ、殺してやるぞ。」

うるさい木霊を睨み、静かに脅すと、木霊は一瞬、狐に見つかったウサギのようにビクっと震えた。
よくある脅し文句だか、連中が言うのと、私が言うのとは意味が違ってくる。
木霊は、小刻みに震えたまま、動かない。
私は先を急いだ。

「…ヒトゴロシ…。」

木霊はそれ以上しゃべってこなかった。

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