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イヌイマロ

新たなステップを

昨日は散々な目にあったな。
うん。…
結論:女装なんて俺には100年早かった
なんて脳内で永遠にループして10分。

一也『アホらし…他にやることいっぱいあるだろ。』

メニューを開いて、情報をみると
まだボスキャラを倒した者はいなく、
皆、安全地帯に固まっていることが分かる。

一也『やっぱり…死が目の前にあると、
動けないものだな。』

死ぬのは怖い。だが、
元の現実世界へ戻りたい。
色んな気持ちが交差して
勇敢に挑むもの、
苦しみに耐えられず自殺する者で、
この1ヶ月のあいだに200もの
尊い命がなくなった。

俺はメニューを閉じ、
胸ポケットの写真を取り出した。

一也「…母さん…。」







ヒロキ「んぁ。」

カンナ「眠そうですね。ヒロキさん。」

ヒロキ「あぁ。昨日、夜遅くまで剣の手入れしてたもんなぁ。おかげでピカピカだぜ。」

カンナ「あまり無理はなさらないで下さいよ?」

和葉「あ、掲示板で噂されてる。
『大男に立ち向かった″美少女4人組″』だってさ。( 笑 )」

ヒロキ「…はぁ…。なんか複雑…。」

カンナ「しかし、一也さんの剣さばき凄かったですねー。何か習ってたんですか?」

一也「…。」

カンナ「一也さん?」

一也「あぁ。わりー。ちょいぼーってしてた。あ、なんか習ってただっけ?
あー、剣道ぐらいかな?あと空手。」

和葉「…。」





和葉「…一也。なんかあったの?」

少し外に出ていた俺に和葉が声をかけてきた。

一也「…なんもねーよ。てか、寒いだろ。
中、入っとけ。」

和葉「…嘘だ。」

一也「だから、なんもないっ…」

和葉が俺の顔に両手を添え、
近づけてきた。

和葉「だって一也、嘘をつくとき
いっつも目、逸らすもん。」

一也「…はぁーーー…お前の観察力、
舐めてたわ。」

和葉「…で、なにがあったの。」

一也「…現実世界でも冬だろ。
ちょうど母さんの命日ごろかな。
って思っただけ。」

和葉「一也…。」

一也「あー、今日は何しよっかなー。
そうだ。ダンジョンとかいいかもなー。
あ、精霊の森にも行ってみたくない?
お前、そういうの好きだろ?
あ、いっそ、モンスター討伐しにいくかっ…!?」

店の中に入ろうと、向かう俺を
和葉が後ろから抱きしめる。

一也「ちょ、和葉?…なにやってんの?」

和葉「…私は…、」



和葉「いつでも一也の味方、だからね?」

一也「あぁ。分かってる…。あんがと。」

泣きそうになって堪えている和葉を後ろから見て、俺も泣きそうになったが和葉を守りきるために、泣くのを堪えた。

ここで泣いちゃだめだ。
俺が強くないと。

泣きそうな顔を見られたくないので、
和葉を正面から抱きしめて顔を見えないようにした。

一也「…大丈夫。俺は、大丈夫だから。」

俺は昔、和葉にやってた、
頭ポンポンをやって和葉を落ち着かせた。

…そういえば、頭をポンポン叩くのいつぶりだったっけな…?

和葉「…昔は…、私がいつも慰めてたよね…。一也が試合に負けた時、よくやってたね…。
……一也、…強くなったね…。

…まだっ…、わ、私は…死にたくない…っ!
一也とっ…!っ…いつもみたいに…家でご飯食べたり…、学校へ行きたいっ…お母さんとお父さんに…会いたい…。みんなに…会いたい…っ…」

一也「…必ず…絶対元の世界へ、帰ろう…。
絶対、このゲームを″クリア″してやる。…」






その風景を見ていた、ヒロキとカンナは
ある策を練っていた。

カンナ「…ヒロキさん、あの二人って…、
両思い…なんですかね?」

ヒロキ「…お互い、関係を壊したくないから言えないんだろうな。…
くそっ…っ、こんな世の中なければっ…、
幸せな時間を過ごせたのに…。」

カンナ「ヒロキさん…。」

ヒロキ「……カンナ…。お願いがあるんだけど。」

カンナ「…はい?」








和葉はもう少し落ち着いてから店に入る、と
言ったので、俺だけ先に入った。

ヒロキ「おう。おかえり。一也。」

一也「ただいま。」

カンナ「…。」

ヒロキ「…なぁ、一也、お前、…
和葉と付き合ってるの?」

一也「へ?」

ヒロキ「お前ら、外からみると付き合って見えるんだけど…、違うのか?」

一也「…付き合ってないよ。」

ヒロキ「じゃー、好きなのか?」

一也「っ…、お前何いって…」

ヒロキ「じゃー、俺、和葉ちゃんのこと好きになっていいか?とってもいいのか?
付き合ったとしても、文句言わねーよな?」

一也は椅子を立つと、ヒロキの胸ぐらを掴んだ。

一也「…お前、さっきから何言ってんだ。」

ヒロキには、一也の目に怒り、悲しみ、嫉妬の色が見えた。

ヒロキ「…やっぱ、好きじゃねーか。」

一也「…それは…。」

ヒロキ「…どうなんだよ。」

一也「…そりゃ、ずっと一緒にいたんだ。
物心ついたときから、ずっと側にいたんだ。…ずっと好きだったよ…。
だけどっ…!!!大切だからこそ…
大切なものを独り占めすることができねーんだよ。
…昔だってそうだった。…
…俺の母さんは俺が小さい時に死んだんだよ。」

カンナ「…え?」

一也「…俺がまだ幼稚園のころ、
一人で横断歩道を渡ったんだ。
そしたら横から車が突っ込んできて…、
後ろに歩いていた母さんが…俺の背中を強く押して…弾き飛ばしたんだよ。…
自分を身代わりにして…、俺を助けたんだよ…。その時はなんとか命は助かったけど…、そのあとから、脳に障害が残って…、そしてそのまま亡くなった…。
俺のせいで…母さんは死んだ。
俺のせいで…、大切な人をなくすのは…
もう…嫌なんだよ…。
だから、…もう、人を好きになれない。…」

ヒロキ「…んじゃー、っ…俺たちのことは
大切じゃねーのかよ…。
仲間として!好きじゃねーのかよ。」

俺「たっ…大切に決まってんだろ!
こんなに大切にしてもらったのは
初めてで…、大切な人がまた出来た…。んなの…、とっても…嬉しかったに決まってんだろ…。」

ヒロキ「じゃあ、分かってんじゃん。
てめーがっ…、おめーがっ!
大切な人をなくさねー為に、戦うんじゃねーのかよっ…!」

俺「ヒロキ…。」

ヒロキ「てめぇーがそんなんなら、
俺はもうお前にはついて行かねーよ。」

そう言い残すと、ヒロキはその場を立ち去った。

カンナ「ヒ、ヒロキさん!!」

カンナ「…決めるのは…、
一也さん次第、ですよ。」

カンナはヒロキを追って走った。

俺次第、か。
なんでこんなことになったんだろう。
いっそのこと、もう一人でいた方が…
あいつらのためにもいいんじゃねーのか?
そーだ。そーだ。
…でもなんだろう。この気持ち…、
そっか…、俺は…あいつらのことが
すげー好きなんだったんだな。

…ヒロキ、カンナ…
分かったよ。
俺の今、やるべきことが。

俺は一歩踏み出した。
新たなステップを踏み出して。



















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