勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

救出

「もう、何なのよ!」

 ソラとポチが冒険者ギルドから出て行った後、レディアの声が室内に響き渡った。
 その大きさに酒場で騒いでいた屈強な戦士たちも思わず黙ってしまう。
 彼女は気性が荒くはないのだが、ずっと探していた父親の手がかりを見つけ、
 つい、周りを見れなくなってしまっていたのだ。

 大声を出したことにより、発散され落ち着きを取り戻した彼女は落ち着いた様子で失礼と頭を下げた。
 そして彼女はカウンターに行き、受付嬢に声を掛ける。

「依頼を出したいのだけど」

「い、依頼ですか……やめといた方が良いと思います」

 この闇精霊人《ダークエルフ》と彼女は親しい仲であるため、
 レディアがあの迷宮に行こうとしているのを察して止めた方が良いと警告をした。
 
「これは私としての言葉です。レディア、貴女は確かに強くなりました。
 ですが、あの迷宮だけは駄目です。貴女をオウーヌさんと同じ目には――」

 オウーヌ。レディアの父親が迷宮の調査に向かい、行方不明となった日から
 レディアは強くなろうと毎日必死に訓練し、確かに強くなった。
 受付嬢であるセツは友人として時間があればともに訓練をしていたため、
 彼女の成長を一番良く知っている人物なのだ。

 そして、彼女もまた、父親が行方不明になっている一人なのだ。
 
「分かってる。分かってるけど、あんな子どもとなんも鍛えてなさそうな女が行っているんです。
 幾ら依頼を受けていると言っても私は見逃せません。
 それに、あの依頼を出したのは私なのですから責任があります」

「でも!」

「大丈夫です。あの二人を保護したら戻ってきますので、
 脱出様に入り口に待機させる人員を募集する依頼を出したいんです」

 必死になってレディアの事をとめようとするのだが、
 彼女はそれでも行くと言う。
 こうなるとレディアは止まらない。ということを知っているセツは諦め、依頼を許可することにした。

「わかりました……ですが、もし、この依頼で誰かが命を落とすようなことがあれば、
 その時は貴女の責任だと思ってくださいね――私も依頼を許可した身としてそれなりの罰を受けますが」

「ありがとう、セツ」

 依頼を出す。と言っても他の依頼の様に掲示板などに貼り付けて居ては、
 時間が掛かり、間に合わなくなるかもしれない。
 その為、彼女は依頼を書いた紙を片手に酒場の方に行き、大声で叫ぶ。

「この中に私の依頼を受けてくれる者はいないですか!
 報酬はかなり弾みます。迷宮の入り口に待機して時間になったらロープを投げ入れるだけの作業です!
 誰か――」

「俺で良ければ一緒に行くぜ」

 そう言って挙手して立ち上がったのは、ソラ達と数回話をしたことがある。
 あの外見の割には物凄い優しいお兄さんだった。

「是非!お願いします!」

「ああ、任せろ」

 ポチとレディアのやり取りも聞いていた彼は、ソラ達に迷宮の位置を教えたのは俺だと
 少し責任を感じていたのだ。

「他にいませんか?」

 一人では万が一の時に対応できない為、せめてあと一人欲しいと考えるレディアだったが、
 酒場は静まりだれも目を合わせようとしなかった。
 それも仕方がない。Sランクの冒険者が数名行方不明になった場所に行く依頼なのだ。
 いくら入り口で待機と言われても怖いものは怖いのだ。
 だが、そんな中、酒場ではなく入り口の方から二人の少女が駆け寄ってきた。

「はい!」

「はい!私たちで良かったら行きたい!!」

 その二人は顔も身長も程同じの双子の少女だ。
 桃色でふわふわとしているショートヘアで綺麗な瞳をしている二人組だ。
 唯一の差は瞳の色が若干違っているというところだ。
 一人が薄い茶色、もう一人は赤っぽい色をしている。

「是非!」

 そんな子供相手でも今はうれしい。
 迷宮の探索となれば拒否していたところだが、入り口で待機するだけのため、
 子供だろうが関係ないのだ。無事与えられた仕事さえこなしてくれれば。
 こういった依頼は大人よりも子供の方が良いのだ。

 大人は汚い考えを持っているが、子どもはまだ汚れていない為、
 お菓子などを先にあげて、ちゃんとできたら沢山報酬を上げると言い聞かせると、
 純粋な子供は必死に頑張ってくれるのだ。

 人数が集まり、彼女たちはさっそく水の迷宮へと向かうのであった。
 そんなことになっているとは知る由もないソラとポチは、
 迷宮の最奥で何時もの様に戦っているのであった。


「では、ジアさん、ルルさん、ソナさんは此処で待機していて下さい」

 水の迷宮に入った直ぐの所に、空いた穴の前でレディアはそう三人に言った。
 ジアというのは怖そうなお兄さんの事で、ルルとソナはこの双子の女の子の名前だ。
 薄茶色の瞳をした方がルル、赤っぽい瞳をしているのがソナだ。
 此処に来る道中、軽く自己紹介をしていた。

 ここからは危険で本当に帰ってこれるのかわからない為、
 レディアは覚悟を決めるために何度も深呼吸をしていたのだが
 ジアが武器の素振りを始め、気がそれてしまった。

「レディアさん、俺も中に入るぜ」

 彼の口からそう飛び出し、レディアは思わず目を見開きジアの元へ駆け寄ってしまった。
 一瞬怒鳴りそうになったが、直ぐに冷静を取りもどし落ち着いた様子で声を出す。

「ジアさん、何を言っているのですか?此処からは本当に危険で――」

「ああ、十分知っている。だからこそ俺も行くと言っている。
 あのちびっこがこの中に入っているというならそれは俺の責任だ。
 それに、そんな危険な所に女性を一人で行かせる訳にはいかないだろ?」

 彼もこの水の都にかなり長い間居るため、ここから先がどれほど危険なのかは重々理解している。
 そんな危険を知っていたのにも関わらずソラ達に注意することが出来なかった。
 それが彼にとって凄く心残りなのだ。

(もし、俺が注意していればあのちびっこは此処に入らなかったかもしれない)

 だが、現実は何時も――いや、彼らは何時も非常だ。たとえジアが注意したところで
 ポチとソラの二人はそんなの聞く耳すら持たなかっただろう。
 どのみちあの二人はこの先に行く運命だったのだ。
 だが、そんな莫迦二人組の事を詳しくしらない彼はそう後悔しているのであった。

「駄目です!貴方は此処でこの二人を護っていてください!」

 魔物で現れず幾ら安全な場所とはいえ、完全に安全とは言えない。
 この世界にも腐った人間たちは山ほどいるのだから。
 そんなことは起きないだろうが、保険だ。

「え~私たちは大丈夫だよ?」

「問題ない、レディアが思っている以上に私たちは強い」

「なっ!」

「ほらな、こう言ってる事だし、な?」

 双子の少女が言っていることは間違いではないのだが、
 彼女らの実力を知らないレディアからしてみれば子どもの発言だ。

「ほら、見て、私たちのペットだよ」

「ひっ!」

「おおう、これは……なんというか珍しいな!」

 全く信用していないレディアの姿を見て双子の少女は時空を歪め
 ペットと称した化け物を取り出した。
 それは骸。骸骨に白髪の紙が生え下半身は零体化しているものだった。
 そんな禍々しいモノをだされ、レディアは思わず小さな悲鳴を上げ、
 ジアも若干引いてきた。
 そんな二人とは裏腹に少女たちはその骸骨の頭を撫でている。

「ジアが行かないなら、私たちが行っちゃうよ?」

「っ!わ、わかりました!ジアさんの同行を許可します」

 この少女たちなら本当に行きかねないと判断したレディアはジアの同行を許可した。
 許可された彼は大きくガッツポーズを決めていた。
 
「では、ルルさんとソナさんは今から二時間後にこのロープを投げ入れてください。
 もし、それから一時間経っても反応がない場合は直ぐに冒険者ギルドに帰り
 そのことを伝えてください」

 本当ならば数分後にはロープを引き上げてほしいところだ。
 もし、ロープを使って魔物が地上に出てきてしまっては大変なことになる。
 一時間でも非常に危険だが、これが妥協時間だ。

「わかった」

「待て、取り敢えず一回入ってみて出られるかどうか確かめてみれば良いんじゃないか?」
 
「そ、そうですね!そうしましょうか!」

 迷宮の中に入った二人はまず、散らかった荷物を見て驚愕していた。
 荷物の数がこれだけあるということは被害者はこれの倍はいると見積もって良い。
 そしてすぐに背後からロープが飛んできた。

「来たな」

「はい」

 二人は緊張しながらそのロープを伝って出口に向かって歩き――

「で、出れました」

「おお、本当だったようだな!」

 本当に出られたことに一安心したのもつかぬ間、二人は再び迷宮の中に入り込んだ。
 荷物をよけながら進み、奥へと進んでいく。
 何処からか風が吹き込むような音が聞こえ、ジットリとしている。
 壁には灯りである松明が掛けられているがその光りもぼんやりとだ。
 非常に薄気味悪い場所だ。できれば長時間は居たくない所だ。

「何もいませんね……」

「警戒は怠るなよ」

「はい」

 レディアは手紙に書いてあった魔物を警戒しているのだが、
 進んでも進んでもそれらが現れることはない。
 だが――半分ほど来た時にそいつらは出現した。

「来ます!」

 壁から何体もの気味が悪い魔物が現れた。
 二人は直ぐに剣を抜き構える。

「ジアさん、こいつらは頭、四肢、心臓を一瞬で切り離さないと復活します!」

「そ、そんなにか!?流石に無理があるぞ!」

「ええ、わかってます、だから手分けをしましょうか」

「そういうのはもっと早めに言ってくれ!!!」

「ええ、すいません。私は右手右足、あた――」

「いや、俺は頭と心臓、そして左の手足をやる」

 一瞬無理だと思ったジアだったが、良い案を思いついたようで一人でかなりの部位を
 切り離すと宣言した。流石に無理だと言おうとしたレディアだったが、
 彼は既に戦闘態勢に入っており、ここで余計なことを言うのは失敗につながる可能性があると
 ぐっと抑えた。

「では、行きますよ!」

「ああ!」

 目の前の魔物に突撃し、まず先に剣が届いたのはジアの方だった。
 右側の首から胸郭に向け切り裂き、腹部まで来たところで一旦左にずらした。
 これで頭、心臓、左腕は切り離された。そして左足を大腿の付け根から切断した。
 最後に念のため、切り離れた頭を踏みつぶし、心臓を一突きした。

 その間にレディアの剣も届き、右肩から剣をいれ、直ぐに腕を切り落とし、
 最後に足を切り落とした。
 すると、魔物は復活することなく消滅していった。

「で、出来ましたね」

「ああ、だが……これだけの量どうやって対処するかだな」

 レディアはともかく、ジアは先ほどかなりの力を使った為、
 これがあと何十回も続くと流石に無理がある。

「……やれるところまでやりましょう。もし厳しい状況になったら私を囮にし――」

「危ない!」

 彼女の後ろから迫っていた魔物が襲い掛かろうとした瞬間、
 ジアは飛び出し代わりに攻撃を受けてしまった。
 一瞬にして状態異常に掛かってしまい立っているとも困難になり倒れ込んでしまった。

「ジアさん!!」

「くっ……俺の事は置いて――」

「そんな出来ま――」

 そんな彼女も押し寄せる魔物の波に呑まれて行った――


・・・・


「どうしようかな」

 この気持ちの悪い手足の集合体と戦うのは難しくはないのだが、
 管で繋がれている人間たちをどうしようかと迷う。
 あまり元気はないようだが、生きている様で呼吸をしている様子がうかがえる。
 もしこのまま戦ってしまえば間違いなくこの人間たちを巻き込んでしまい、
 確実に死なしてしまうだろう。

『なに、心配することはないさ』

「ん」

 ポチの心を読み取ってみると、確かに心配はない様だ。
 あの化け物と人間が繋がっている管。てっきり生命維持装置的な何かだと勘違いしていたのだが、
 ポチの観察によってあれは単なる人間からあの手足へ魔力送るための装置だという事が分かった。
 つまりだ、あれを断ち切ってしまっても問題はないのだ。

『どうした!怖気づいたか?』

「そんな見た目だから出来れば近寄りたくないなぁ、まぁ、それでもやるんだけどさ」

 ポチさんやい、管の切断だけ任せても良いか?

『ああ、任せろ』

 この勝負は出来れば早めに決着をつけたいと思っている。
 こんな奴の相手をしていては精神がやられてしまう。
 ポチがすべての管を切断した時が戦いの合図としよう。

「骸骨さん、ポチが管を切断したらあいつを取り押さえてくれ」

 近くにいるであろう骸骨さんだけに聞こえるような小声でそう命令し、
 俺は戦う準備をする。向こうの世界では使うことがなかった――使えなかったあの武器をつくりだす。
 あの時とは比べ物にならないほど強くなったんだ。今なら使えるはずだ。
 イメージするなら男の子ならだいたい大好きなエクスカリバーだ。

 勿論鞘付きだ。前回は重さのあまり失敗してしまったが、今の俺なら大丈夫だ。
 武器をイメージし、極限まで重さを削り代わりに流し込む魔力を倍にする。

『そっちからこないのならば、こちらから行くぞ――!』
 
「……っ」

 なかなか大きな武器をつくっている為、動くことが出来ない。
 巨大な手足の塊が動き出しかなりの速度で近づいてい来る。

『我は行くぞ』

 すると、ポチがそういって飛び出し、化け物の上下左右から伸びているすべての管を
 川に流れる水の様にスムーズに切断した。一切無駄な動きがなく美しい。
 見習いたいところだ。
 宙を舞っていたいくつかの人間の体は地面に落ちて行ったが、そこまでの高さではない為、
 ちょっとした怪我程度で済んでいるだろう。

『なに!?貴様ァ――!』

 別に俺がやった訳ではないのだが、化け物は怒鳴り散らし更に速度を上げてきた。
 だが、何も焦る必要はないのだ。俺には強力な仲間たちがいるのだから。

『ぬぅ!?』

 化け物を覆い隠す勢いで数百の骸骨が姿を現し動きを止めて地面に倒れさせた。
 そして、それと同時にエクスカリバーの具現化が終了した。

「っ」

 極限まで軽くしたというのにも関わらず、持っているのがかなりきつい。
 こんなことなら鞘なんて作らなければよかった。
 ゆっくりとだが、鞘を外し、美しい刀身が露になる。

「おぉ……これが、憧れの――エクスカリバー!」

『――!!』

 余りにも美しいため、俺は興奮してしまい魔力を大量に流し込み、
 速攻で剣を振り下ろしてしまった。
 膨大な魔力の塊が一直線に飛び、直線状のすべてを破壊していく。
 化け物は勿論、骸骨さん事――そして、地面――壁までもだ。

 此処で思い出してみよう。たしかあの手紙には壁を壊そうとすると、
 それはすべて自分に返ってくると書かれていた。
 そして、いま、俺は壁を破壊してしまった――もう、わかるな?

――パグチャッ!

 非常に汚い音をたてて俺の体と武器は爆発してしまった様だ。
 だが、すぐに復活する為、なんの問題は無いのだが、裸になってしまった。
 身体だけが爆発したため、執事服やペンダントは無事だ。
 首輪は謎の力で復活している。

 急いで身に着けて周りを見渡す。

「おうおう、随分と汚くなったな」

 大量の手足と血が散らばっている。骨も散らばっているのだが、それらは再生を始めており
 ポンポンと骸骨が復活していた。

「ちょっと~ひどいですよ!」

「うわ、出た」

 一体の骸骨が文句を言っていたと思ったら、何時もの調子の良い骸骨さんだ。
 見た目が全員同じため声をきかないと判断できない。

「次からは一言くださいねぇ~じゃないと本気で怒っちゃいますからね~」

「はい、わかりました」

 骸骨たちは不可視状態になっていった。
 骸骨さんたちが本気で怒る――想像しただけで数百回ぐらい死んでしまいそうだ。

『ソラよ、見つけたぞ』

 どうやらポチが手紙を書いた主を見つけたらしい。
 先ほどから転がっている人間の髪を乱暴に持って何をしているのかと思ったら
 あの手紙の主を探していたのか。


「貴様がオウーヌで良いんだな」

「あ、ああ……お前たちは一体……」

 ポチが確認を取ると、この人がオウーヌさんらしい。
 良く四肢が無くても生きていけるな。これはあの化け物の仕業なのかもしれないな。
 よくわからなかったが此処にいる人間たちから魔力を集めていたらしく、
 抵抗できない身体にして半永久的に魔力を吸い出そうとしていたのだろう。
 本当にくそみたいなことを考える。

 まぁ、もう終わったことだし、兎に角此処にいる全員の息はあるようだ。安心だ。
 
「貴様があの糞みたいな手紙を書いたんだな」

「手紙……ああ、確かに俺が――っ!」

 オウーヌさんの髪の毛を引っ張り持ち上げてそのまま手を離した。
 当然、抵抗する手段がない彼の顔が地面にたたきつけられる。

「誰が可哀そうな奴だ。誰が大莫迦者だ!貴様、誰に向かって話を――」

 抵抗できない相手を一歩的にいたぶるポチの姿を見て少し心が痛んだが――

「っははは……」

 何故だが鼻血を出しつつもオウーヌは笑っていた。
 頭を打ちすぎて何処かおかしくなってしまったのだろうか。

「何を笑っている」

「すまない、まさかこんな日が来るなんてな……」

「……何だ貴様」

 痛みからだろうか、それとも喜びからだろうかオウーヌの目から涙が零れていた。
 流石にこれにはポチもひいてしまいオウーヌから手を放していた。

「信じられねぇ、俺たちは助かったんだ……」

「ソラよ、こいつ壊れてしまったぞ。どうしたら良いのだ」

 別に壊れてしまった訳ではないだろ。
 本当に死を覚悟してあの手紙を書き残し突撃していったんだ。
 それがよくわからない俺たちによって命を救われたんだ。きっと嬉しいんだろうさ

「そんなものなのか」

「そんなもんだろ。取り敢えず、そいつが回復するまでいたぶるのはやめてやれ。
 流石にその恰好で一方的にボコボコにするのは気分が悪い」

「む、そうか……そうだな。雑魚をいたぶっても楽しくないな」

「ああ、そうだそうだ」

 理解してくれたようでなによりだ。
 さて、これからどうしようか。この人間たちを連れて帰るにもスキルが使えないんじゃどうしようもない。
 此処はやはりポチさんに頼るしかない様だ。

「ということで頼めますでしょうか」

「まぁ、良いがこいつらを一か所に集めてくれ」

「わーい、流石ポチさんだ!」

 ポチに言われた通り人間たちを優しく持って一か所に集めてあげる。
 途中、何度も泣きながらお礼を言われたりして悪い気分ではなかった。
 
「本当にお前たちは何者なんだ?」

 最後にオウーヌさんの事を運ぼうとしたらそう聞かれた。
 此処でいつもなら人間だと胸を張って言い切れるところなのだが、
 この人達は俺が爆発して復活したところも見ているのだ。
 人間と言っても絶対に通じるわけがない。

「……いや、やっぱ良い。お前たちが何者であろうと、
 俺たちの命の恩人ってことは変わりないからな。ありがとう。
 今度改めて礼をさせてくれ」

 困っていると自ら訂正してくれた。オウーヌさん結構話が分かる人かも。
 
『ソラよ、何か来るぞ』

「ん」

 最後の一人であるオウーヌさんを運び終わった後、ポチが何かの気配を感じ取り
 警戒するように伝えてきた。一応短剣を具現化させ扉の方を向き待っていると――
 
「あれ」

 道中に沸いていた気持ち悪い魔物が気絶しているであろう二人を連れてきて
 何かをする訳でもなく乱暴にこの部屋に放り投げ何事なかったかのように壁の中に消えていった。

「……レディア?」

「怖そうな顔つきのお兄さんだ」

 どうやら運ばれてきたのはオウーヌさんの娘レディアと、
 街中で色々なことを親切に教えてくれたお兄さんだった。
 何故此処にいるのかは不明だが、ついでだしこいつらも運んでしまおう
 ポチ、手伝って。

 装備を身に着けている二人を持ち運ぶには少々力不足なので
 此処はポチに手伝ってもらうことにした。
 
「レディアなのか?」

「そう。多分だけどオウーヌさんの事を探してほしいって依頼を出していたぞ」

「レディア……っ!」

 今すぐにでも泣き出しそうな彼を見てポチに早く転移するようにお願いする。
 嬉しい再開なのだろうが、そういうのは互いが目を覚めてからにしなさい。
 
「やるぞ」

「うん、お願い」

 巨大な魔方陣が俺たちを包み込み一瞬にして入り口に移動した。
 流石はポチだ。さらっととんでもないことをしてみせる。
 
「うわ、例の人たちだ」

「本当だ。帰ってきた」

 入り口には見分けがつかないほど似ている双子がロープを手にして此方を見て驚いていた。
 レディアの連れだろうか、何でもよいが、此処から先はこの子たちに任せてしまおう。
 俺たちは依頼が完了したことを伝えるだけだ。面倒なことはやらないぞ。

「レディアたちもいる」

「本当だ。気絶してる」

 小動物みたいにちょこちょこと動き回りレディアの元へ行き、
 頬を突っつきながらそんなことを発していた。
 もっと別に気にすべき点があるだろうに、不思議な双子さんたちだ。

「君たちにお願いがあるんだけど、良いかな?」

「ん~どうしよう」

「どうする?」

 双子は互いの顔を見合いながら首を傾げていた。
 本当に似ていて見分けがつかないので人形さんの様に感じる。
 
「いいよ!」

「聞いてあげる」

 向かい合いながら一言も発していなかったが、何やら話がまとまったようで
 無事お願いを聞いてくれることになったようだ。
 
「この大人たちの事任せても良いかな。レディアが起きるまでの間で良いからさ」

 流石にこんな子供にこの大量の大人たちを運んでくれとまでは頼まない。
 レディアたちが目を覚ますまで面倒を見ておいてほしいと頼むだけだ。
 彼女たちが目を覚ましたらそこからは全て大人である彼女たちに任せてしまおう。
 人任せにするなとか言われそうだが、そんなことは気にしない無視だ。
 此処まで頑張ったのだから、あとは任せても良いだろう。うん。

「え~つまんない」

「つまんない~」

「え~じゃあ今度甘い物買ってあげるからお願い~」

 やはり子供は飴ちゃんなどの甘い物が大好きらしい。
 買ってあげると口にした瞬間、二人とも満面の笑みを浮かべて見つめあい――

「「いいよ」」

 と口にしてくれた。甘い物おそるべし。
 
「ん、ありがとう。それじゃまた」

 やっふい!やっと解放されたぞ!
 心の中でそう叫びながらルンルンと迷宮から出ていく。
 意外とあの迷宮の中は窮屈で仕方がなかったのだ。
 スキルが使えない、鳥肌が立つような嫌な雰囲気。
 それらから解放されて俺は幸せだ。

「さてさて依頼の報告にいくぞ~」

「うむ」

 冒険者ギルドに向かい早速カウンターに向かったのだが、
 闇精霊人《ダークエルフ》の受付嬢さんに物凄い顔をされてしまった。
 
「な、なんで貴方たちがいるんですか!?迷宮に行ったはずじゃ!?
 え、じゃあレディア達は――っ!」

 怒鳴り声を上げ叫び、最後は悔しそうに自分の唇を強く噛みしめていた。

「あいつらなら気絶していたぞ」

「は?」

 レディア達は俺たちの後を追って迷宮に来ていたのだろうか。
 あの双子やお兄さんも同行しているとなると、普段から仲が良いメンバーなのか、
 彼女が依頼を出して集まったメンバーなのかだ。
 この受付嬢さんが知っているとなると、恐らく後者なのだろう。

「他にも情けない人間どもを迷宮の入り口に転がしておいたからあの双子が面倒を見ているだろう」

「は?じゃあ、貴方たちはあそこから無事に帰還したという訳ですか?」

「そうだよ~だから依頼完了の報告にきた~」

 信じられないといった表情をしているが仕方がないだろう。
 見た目はポチも俺も普通なのだから。これがもし、ムキムキの戦士だったり
 しっかりとした鎧に身を包んでいれば信憑性は増すのだろう。
 
「ほ、本当ですか?」

「うん。確かめてくると良いよ」

「わかりました。これから確認に行かせるので、また後で来てください」

「わかった」

 ん~失敗してしまった。こんなことになるなら行方不明者の一人や二人連れてくれば良かった。
 まぁ、別に良いだけどさ。報酬の全てが気になっただけであってそこまで急ぐものではないのだから。

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