勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

真の勇者

 それから一時間程だろうか馬車擬きに乗せられリーン王国に辿り着いた。
 何度か小休憩を挟みながら移動していた為、結構時間が掛かってしまった様だ。
 彼女の状態が万全とは言えない為、休憩が仕方がない事だ。
 門兵に止められるがその辺は全てラパズに任せている。
 余程顔が利くのだろう、名前を言うだけですんなりと通されてしまった。
 それも、門兵たち全員が出てきて頭を下げているのが中か見えた。

 やはりどこかのお嬢様なのだろうか。
 パレードの為にこっそりと抜け出して来たとも言っていたし、
 普通の女性ではないのはわかっている。
 今回の事が大事になれば確実に俺たちも巻き込まれるだろう。
 関係をもつことは悪くはないが、今はゆっくりと冒険してヤミ達を探すと言う
 大きな目的がある以上、巻き込まれる前に姿を消した方が良いのだろう。

 リーン王国に入ってから数十分が経つ頃、馬車擬きは足を止めた。

「これから私はお知り合いの家に向かうのですが、お二人はどうしますか?」

 馬車擬きの中までわざわざやってきてそう訪ねてきた。
 外をちらりと見てみるとどうやら此処は馬舎の様な場所だ。
 どうやら快適な移動は此処までのようだ。

 ふむ、なら此処でお別れだな

「我たちは別の道を行くとしよう」

「そうですか……出来れば紹介したかったのですけどね、
 またどこかで会う事があれば、その時は改めてお礼をしますね!」

「ばいばい~」

 ささっと別れを告げてラパズから距離を取る。

「パレードまでは時間あるようだな」

「ん?ああ、本当だ」

 石煉瓦造りの街中を歩いていると、小さな広場に掲示板があり
 そこにはいくつもの紙が貼ってあるが、それを覆い隠すように大きく
 勇者パレードに付いての知らせと言う紙が貼られていた。
 内容はパレードの場所と日時が書かれているだけであり、
 そこまでデカデカと掲示する必要はあるのだろうかと疑問を抱く。

「今日の夜か……じゃあ、それまで身分証でも作りにいくか」

 今は大体夕方ぐらいの為、まだ時間に余裕がある。
 冒険者ギルドに向かいギルドカードを発行してもらう。
 それが手っ取り早く身分証をつくる楽な方法だ。

「冒険者ギルド、楽しいのか?」

「まぁ、色々な人がいて色んな情報が集まる場所だからつまらない事はないだろうな」

 これから俺たちは冒険をしてヤミ達を探さなくてはいけない。
 そうなると、冒険者ギルドは必須だ。
 情報を集めるのにあそこほど最適な場所はないだろう。
 曖昧な記憶を頼りに冒険者ギルドに何とか辿り着くことが出来た。

 あの懐かしき冒険者ギルドの様に可愛らしい手描きの文字は無いが、
 外装は大して変わりはない。
 中に入ってみると、内装も大して変わりは無かった。
 どうやら冒険者ギルドはどこも同じ造りをしているようだ。

 足を踏み入れると視線が一気にこちらに集まる。
 酒場で飲んでいる者たちも手を止めて何ら隠す事も無くジロリと堂々と見ている。
 その視線はポチではなく俺に向いている。

 無理もない事だ。自分で言うのもなんだが【餓鬼】がこんな所に来るものではないからだ。
 この視線は敵意とかではなく、単に子どもが何故こんな所に来たんだ?と言う疑問の表れだ。
 此処は胸を張って堂々とカウンターに言って受付嬢にイケボでギルドカードの作成を頼む。
 と言いたいところだが、生憎この身体では真面に聞いてはくれないだろう。

 だから――

「ひっ!」

 わざと情けない声をあげてポチの後ろに隠れる。
 そして、ポチの服を軽く掴み怯えている子供を演じてみせる。 

『これは悪くないな』

 そんな感想は求めてない。早くギルドカード作成するぞ。

 これでポチが受付嬢にギルドカード作成を依頼し、
 そのついでに俺のも作っちゃえば良いのだ。
 ポチが歩き出しその後ろをぴったりと俺が歩く。
 相変わらず視線が注がれているが無視だ。

「ギルドカードを作成したい。我と弟の分もついでにだ」

「はい、わかりました。では此方の紙にサインをお願いします。
 文字が書けない場合は代わりに私が書くので言ってくださいね」

「うむ」

 受付嬢と言うのは美人しかなることができないのだろうか。
 と思ってしまうほどこの世界の受付場は美しい人ばかりだ。
 紙を受け取り名前と年齢と種族を書くのだが――カウンターに届く様な身長ではないのだ。
 この世界のカウンターが高いだけで決して俺がチビと言う訳では無いぞ!

『ほれ』

「うわぁ!」

 ポチが振り向き俺の身体を軽々と抱きかかえ持ち上げてくれた。
 これで難なく紙にサインを書けるのだが、少し恥ずかしい。
 子供の姿はこういう時に便利だが、なんだか複雑な気分だ。

『我はこの世界の文字は知らぬぞ。代わりに書いてくれ』

 ああ、そう言えばそうだな――ってじゃあ何でさっきの掲示板は読めたんだ?

『数字ぐらい読めるぞ。莫迦にするな』

 なるほど……

 あまり意識はしたことなかったのだが、どうやら向こうの世界と数字は一緒らしい。

 持ち上げられながらも汚い字ですらすらと書いていく。
 まずは自分の名前だ。ソラ、年齢――適当に六歳ぐらいでいいや。
 種族――人間でありたいから人間でいいや。

 次はポチの方だ。
 名前はポチ――良い名前だ。年齢――ポチ何歳だ?

『忘れた』

 なら、十八歳にしておこう。種族は――まぁ、今は人間だから、人間で。
 ……よし、出来た!

 受付嬢に渡すと裏に行きギルドカードを発行してくれた。
 冒険者についての説明を聞くかと言われ、知ってるから断ろうとしたのだが、苦い記憶が脳裏をよぎる。
 あの説教と変わりない地獄の時間を味わうことになるとはもう二度と御免だ。
 此処で断ったら色々と悪目立ちしそうなので仕方なく聞くことにした。
 すると、受付嬢は嬉しそうに笑顔を浮かべ説明を始めた。

 ひょっとするとこの世界の受付嬢は説明が大好きなのかもしれない。

 説明を受けている間、俺は聞いている様なふりをして
 天井を見てシミの数を数えたり棚を見て埃たまってるなぁ……
 など全く関係のない事を考えて早く説明が終わらないかと時間をつぶしていた。
 受付嬢の方には申し訳ないという気持ちがあるが、許して欲しい、もう聞いたことのある内容なのだ。
 俺がそんな最低な事をしている間ポチは真剣に説明を聞いている様だ。

 どうやら、俺の記憶だけでは不安らしく自分で聞かないと不安なのだとか。
 意外にもポチさん、冒険者になる事にノリノリの様だ。
 かなりの長い間生きているポチだが、冒険者になる経験などしたことがない為、ウキウキしているみたいだ。
 非常にその気持ちは分かるし、実際に俺もポチと冒険者になる事は楽しみだ。

 何事も始める時が一番ワクワクし、段々とその気持ちが薄れて行くものだ。


「――以上です。弟くんには退屈な話でしたね」

「そ、そんなことないよー。お姉さんの話わかり易かった!」

 適当に聞いているふりをしていたのだが、流石はベテランだ。
 俺が話を聞いていないと見切ってしまった。
 此処は子供らしさを出しつつさらっとお姉さんの事を褒めるのがベストだ。
 伊達に数年間子供をやってきていない……。

「あら、そうですか。それは嬉しいですね」

 ニッコリと可愛い笑みを作って見せる受付嬢。
 会話もスラスラと出来てしっかりと笑顔もつくることが出来る。
 普通の事なのかもしれないが俺は凄いことだと思う。

「これがお二人のギルドカードになります」

 完成したプレートを受け取り、
 一応間違いなどがないかを確認する為に目を通してみる。

=========
ソラ
6
人間
G
=========
=========
ポチ
18
人間
G
=========

 相変わらずシンプルなギルドカードだ。わかり易くて良いんだけど。
 それにしても改めてプレートに書かれると何だかペットの名前みたいだな。
 ポチは初めての経験に目を輝かしてプレートを見つめていた。可愛い。

「ちなみにもうすぐパレードが開かれるので、行ってみると良いですよ
 掲示板などに大きく宣伝されているので、もう知っているかも知れませんが、
 なんでも、勇者のお披露目会があるみたいですよ!
 冒険者を目指す者なら、勇者と呼ばれる彼らの風貌を見て置いて損はないと思います!」

「うむ、そのつもりだ」

 そういうとポチはテクテクとカウンターから離れて行った。
 俺は受付嬢にペコリと頭を下げてから急いでポチの後を追う。
 どうやら受付嬢さんは勇者のお披露目に興味津々の様だ。
 彼女だけではなく、基本的にはこの国中の皆が興味津々なのだろう。
 なんて言ったって勇者だ。魔王を倒し世界を救う存在だ。
 救世主にも見えるのだろう。興味が無い方がおかしい。

 最初は痛い程視線が降り注いでいたが、今ではちらほらといる程度だ。
 冒険者ギルドを出て勇者パレードが行われる予定の広場に行くと、
 既に人だかりができており、チビには非常に厳しい環境になっていた。

 わぁーと歓声が上がりだしたのだが、前が全く見えないため何が起こっているか分からないが、
 恐らく勇者パレードが始まり勇者様が現れたのだろう。
 今日ほどこの身長を憎いと思った日は無いかもしれないかもしれない。
 ピョンピョンとジャンプをしてみるが、当然見える訳がなく――

「わ!」

 急に視線が高くなり視界が開けた。
 ステージが設置されており、その上に三人の勇者らしい人物と
 複数の兵士と偉そうな人が一人、そして異質な存在を放っているのが
 縛られて兵士に連れられている謎の人物。

「これで満足か?」

 悲しい気持ちになっている俺の事を軽々と持ち上げ肩車をしてくれた
 神の様な存在のポチ様がそう聞いてきた。

「うん、大満足!」

『それにしてもあんなのが勇者なのか、頼りなさそうな奴ばかりだ』

「まぁ、そういうなって」

 今日、この世界に呼ばれたばかりなら当然だろう。
 そんな事を思いつつ魔眼を発動し勇者のステータスを見てみる。
 まずは左端にいる少し身長が高く、顔が平たく、
 おでこに二つの黒子があるのが特徴の少年からだ。

=================================
キムラ マコト
 
Lv1
体力:10,000
魔力:5,000
攻撃力:1,000
防御力:2,000
素早さ:500
運:50

言語理解Lv1
少しの言語なら理解でき、読み書き出来る。

苦痛は快感へペインプレジャーLvMAX
痛みや苦しみが快感になり、防御力がかなり上がる。

被虐性欲壁マゾヒストウォールLvMAX
一部が活性化する代わりに盾を発動し、防御力がかなり上がる。

真の勇者LvMAX
勇者の中の勇者。強いですよ。

この人はあれです。M男と言われる奴ですね。
非常に気持ち悪いと思うのですが、敵に回すと結構厄介だと思います。
一体何が彼をこんなM男に変えてしまったのか興味がありますね
==================================

 魔眼よ、確かにそれが気になるが、ステータスは何時からお前の感想欄になったんだよ!

========================
良いじゃないですか、ほら次行きますよ
========================

 次は、M男の隣にいる見ているのが眩しい程のイケメンフェイスの少年だ。
 明らかに勇者になるべくして生まれてきましたと言った感じだ。

=================================
ケンドウ タツノスケ
 
Lv1
体力:5,000
魔力:5,000
攻撃力:2,000
防御力:3,000
素早さ:1,000
運:77

言語理解Lv1
少しの言語なら理解でき、読み書き出来る。

柔道叩きノ介ジュウドウタタキノスケLvMAX
どんな攻撃を受けても必ず受け身を取りながら倒れる。
発動時に防御力がかなり上昇。

完璧運動男パーフェクトスポーツマンLvMAX
どんな運動でも完璧にこなしてしまう(剣道以外)
常時発動

真の勇者LvMAX
勇者の中の勇者。強いですよ。

ケンドウ タツノスケ マル
ケンドウ ハ デキマセン マル
ナマエ サギ デスネ マル
==================================

 最後は唯一の女。
 名前詐欺イケメンの後に続いてこれもまた美少女。
 眠たそうな眼つきに可愛らしいツインテール。
 シミ一つなく真っ白な肌、まるで人形の様な少女だ。

=================================
ミズノ シズカ
 
Lv1
体力:3,000
魔力:10,000
攻撃力:100
防御力:1,000
素早さ:300
運:70

言語理解Lv1
少しの言語なら理解でき、読み書き出来る。

眠りを妨げる者は――スリープヒンダァマッサークルLvMAX
邪魔する者は――。

眠たいネムタイLvMAX
常に眠たい代わりに魔力が常時回復していく。

真の勇者LvMAX
勇者の中の勇者。強いですよ。

そうやって眠たい眠たいと怠けてばかりいたら
近い将来に絶対ブクブクと太っていきますよ。
はっはっは。
==================================

 以上が真の勇者と言われるものたちのステータスだ。
 全体的に癖の強い奴らだが確かに真の勇者と呼ばれる程強い。
 俺の初期ステータスなんて……くそ、思い出したら腹立ってきた!

===================
やーい、雑魚~やーい――そんな事よりも
あの異質な存在感を放っているのを確認しましょう
===================

 くっ、この魔眼!最近調子に乗ってないか?

 後で絶対叱ってやると思いつつも異質な存在を放っている
 捕虜らしい人物のステータスを見る。

=================================
――

Lv――

――LvMAX


大魔王達によって作られた人形。
死をトリガーに大爆発を起こしますね。
その規模はなんとこの国が軽く吹き飛ぶぐらいですかね~
わぁ、大変!どうしましょうか。
==================================

「……」
 
 目の前に存在している人の形をした途轍もない脅威の塊を見て思わず苦笑いを浮かべる。
 どうやら俺がいない間に、この世界の大魔王はとんでもない事をやらかそうと考えていたらしい。

 あの理不尽過ぎる人形の効果に気が付いている者は今のところいなさそうだな。
 もし居るのならば人形に刺激を与えないようにしたり、何かしらのアクションを起こしているはずだ。
 それどころか、兵士たちは縄をぐいぐいと乱暴に扱い人形を縛る縄が徐々に食い込んで行く。

 おいおいおい!!!やめろ!!!

 効果を知ってしまった俺はその行動で国が無くなる事を知っているので
 声には出さないが心の中で兵士を止める。
 何のためにそこに存在しているのかと思ったが、どうやら扱いからして捕虜の役割をしている様だ。
 人形とは言え見た目は完璧な人型だ。魔力によって動いており、呼吸もしている。
 あれが人形と見破れる存在は数少ないだろう。

「此処に一体の悪魔がいる!この悪魔をこの場で殺し、我々は魔王軍に宣戦布告をする――!!」

 先ほどから勇者たちの紹介をしたりパレードに集まってくれた国民に
 感謝の言葉を述べたりしていた偉そうな人がとんでもない事を言い出した。
 魔王軍に宣戦布告をするのは別に止めはしない!
 だが、その悪魔を殺すのはやめろ!!宣戦布告する前に国が無くなるぞ!!

『うるさいぞ、ソラ』

 え、ごめん……

 折角辿り着いた国を滅ぼされてしまうと思うと、つい熱くなってしまった。
 此処は冷静になってどうすれば爆破を回避できるか考えなければ。
 身体強化を使って目にも止まらぬ速さで悪あの人形を奪取するか?
 いや、その衝撃で死んで爆破する可能性がある……

 そうなってしまえば俺が国を爆破したも同然……くそう!!

『いや、国が無くなるのならば我とソラしか生き残らんだろ、
 ソラを責める奴は皆死ぬんだぞ』

 あ、そっか……いや、そっかじゃない。
 別にこの国に何の思い入れも無いが、態々あのお嬢さんも利用して
 この国に入ったんだからもう少しゆっくりさせてほしいんだ。

「では、勇者よ、この悪魔を――」

 あああああぁああっぁああああ!!

 あれも違うこれも違うと悩んでいると偉そうな人が滅亡宣言をはじめ、
 その命令に怯えた表情の三人の勇者が人形向かって歩み始めた。
 三人の手には鋭利な刃物が握られており、そんなもので傷付けられたら
 人形は何の前兆も起きることなく、爆発してしまうだろう。

 そして恐る恐る刃物が振り上げられ――
 歓声が上がる中俺だけが終わりだ……と思っていると――

『そうだ、試したい事があったんだった』

 ポチがそう呟き――

 観客は盛り上がりを見せながらもピッタリと停止している。
 盛り上がりすぎて汚い唾が吐き出されている瞬間すらも停止し、認識できる。
 時が止まった。あと数センチと言う所で刃物が止まっているのを確認し、一安心だ。

「よし、成功だ。ソラよ、動いてみろ」

「え?」

 時間を止められた中、俺に出来る事と言えば必死に
 ポチに命乞いをすることぐらいだけのはずだが……

「え!?動けるぞ!?」

 言われたとおりに肩車されたままポチの頭をわしゃわしゃすることが出来た。
 周りが止まっている中で動けると言う優越感に浸る事が出来る。

「ソラを範囲外にして発動してみたのだが、無事成功した様で良かった」

 時間停止と言う神でも抗う事の出来ない技に
 さらりとアレンジを加えて見せるポチ。本当に流石と言う言葉しか出てこない。

「ほれ、これでやりたい放題だ。どうするんだ?」

「う~ん、そうだなぁ……取り敢えず近付いてみてくれ」

「ああ」

 肩車されたまま止まった時の中を動いていく。
 人混みが嘘の様にスムーズに足が進みあっと言う間にステージの上までたどり着いた。
 ちらりと観客達の事を見ると、ひとりひとり違った表情で固まっており、
 少し面白く感じる。

「よし、試してみるか」

 ポチも試しでアレンジを成功させたんだ、ならば次はこちらの番だ。
 そう意気込み俺は今までやったことの無いような行動をとる。

絶対防御プロテクト

 絶対防御を人形囲むように貼ったのだ。
 今まで自分にしか使用してこなかったスキルだが、ポチが行ったように
 俺も他人に使用してみたのだ。
 絶対防御は一度なら何でも防いでくれる優れたスキルだ。

 それは例え内部からの爆発でも――そうだよな?魔眼さん

――ええ、そうですね。珍しく頭が働いている様で嬉しいです

 魔眼さんもこういっているんだ、間違いない。
 絶対防御は内部からの爆破も防ぐことが可能だ。
 後はどうやってこいつを殺すか――

『そんなもの簡単だ。一回絶対防御とやらを解いてくれ』

「はい」

「そして、こうするんだ」

「!」

 ポチはそう言って人形の頭を鋭くなった手で貫いて見せた。
 当然人形の為、血を流したりはしなかったが
 命が無くなった以上爆発してしまう――

「あ、そっか。時間止まってるんだもんね。爆発する訳ないか」

『ああ、その通りだ』

「流石ポチだぜ、これで俺が絶対防御プロテクトを掛ければ――完璧っと」

 俺たちはやり遂げた顔をして先ほどの場所まで戻り、
 何事も無かったかのように再びステージを見る――そして、時は動き出す。
 勇者の刃物が振り下ろされた瞬間、不可解な小規模な爆発が起こった。
 正確には爆破した後に勇者の刃物が振り下ろされた――だ。

 真の勇者登場と悪魔の処刑に興奮しきっている観客達は
 その不可解な現象を誰も疑問には思っていない様だ。

「さ、今日の宿さがそうか」

「そうだな……所でお金はあるのか?」

「へ?」

 今思えば、お金なんて持っていなかったのである。

「やはり持っていないのか……また時を止めて奪ってくるか?」

「ん~それはちょっとなぁ……」

 その方が何の危険もおかさずにお金が手に入るかもしれない為、非常に良い案なのだが、
 それをしてしまえば本当に人間として生きられなくなってしまう。
 悪いことをせずに手っ取り早くお金を稼ぐ方法……
 何か良い方法は無いかと少し頭を捻ると、それはいとも簡単に導き出された。

「行くぞポチ!進め!!」

「なかなかひどい事を考えるものだ」

 ポチに肩車をされたまま目的地へと向かう。
 俺が考えているのは裏路地へと向かいそこでわざと悪い人に絡まれるのだ。
 そして、ぽんぽんと軽く成敗してお金を巻き上げてしまおう。
 正直な所これも確実にお金が手に入ると言う訳では無いのだが、
 一応は世話になる国の為、少しだけ清掃を兼ねてだ。

「さてさて」

 裏路地に入り込みとぼとぼと歩いてみる。
 相変わらず日の光があまり入らずじめじめとしている。
 少し薄暗い感じ俺は嫌いではない。

「我も嫌いじゃない」

「そうか」

 暫く歩いてみるが全く悪い人が現れる事は無い。
 人の姿すら見えなく何だか不気味な感じなのだが。
 よくよく考えると勇者パレードとか言う珍しいイベントが開かれているのだから
 いくら悪い奴だと言っても気になり裏路地から出て行くだろう。

「まぁ、そんな上手く行くわけないと思ってたけど、無駄足だったかもね」

「ふむ、戻るとするか」

 ガックシと少し肩を落としながら来た道を戻っていく。
 帰りに悪者が出現していないだろうか、と少しだけ期待しつつ戻っていくと
 ポチが何やら気配を感じ取ったらしく足を止めた。
 膝車されている俺も自動的に止まる。

『此処を曲がった角に三人。この反応からして先ほどの勇者たちだろうな』

 ほう、悪者じゃないけどそれはそれでラッキーだな。

 流石にお金を巻き上げると言う事は出来ないが、
 勇者パレードの真っ最中にこんな場所にいると言う事は、
 抜け出して来た可能性が高い。今さっきまであの広間にいたのだ。
 何か理由があって三人だけでそこにいるに違いない。
 それを上手い事利用して宿代ぐらい分けてもらおうではないか。

 真の勇者、それもパレードが開かれる程ならばかなり期待されていると言うことだ。
 つまりお金も良い額貰っているはずだ。

 よし、ポチさんやい。頼んだぞ

『任せろ』

 肩車はやめずに勇者がいると思われる方へ進んでいき角を曲がってみると
 ポチの予想通りに真の勇者三人がいた。
 此方の姿を目視するなり、一斉に身構える三人。
 それも仕方がないだろう。こっそり抜け出して来たところに、女と肩車された子供が現れたのだ。
 警戒心丸出しにするのは当然だ。むしろおかしいのは俺たちの方だ。
 そんな状況の中、勇者の一人――眠たそうな少女が口を開き、その警戒心は解ける。

「君、確かパレードに居た子だよね?」

 その言葉は確実に俺に掛けられた様で、ポチではなく視線を上げ肩車されている此方の目を見ている。
 眠たそうにしている割には良く周りの事を見ているのだなと少し感心する。
 此処でも子供っぽく振る舞い相手を欺く。

「うん!そうだよ。勇者さんたちはここでなにしてるの?」

 なんの違和感も無く子供らしい無邪気な質問をぶつけて
 勇者たちの事情を探ってみる。
 本当はポチにやってもらう予定だったが、流れがこちらに向いてしまった以上仕方がない。

「やっぱり、執事服可愛いね……私たちはちょっと疲れたから此処で休んでいたんだよ」

 やはり子供の姿は便利だ。まだ警戒はされてはいるが、会話は成り立つ。 

「そうなんだ、戻らなくて良いの?」

「ん~戻った方が良いんだろうけどね……」

 彼女はそう言いながら隣に居る勇者ケンドウ タツノスケにも視線を送った。

「僕は頭の整理が出来るまで休んでいたいな……」

「いきなりこんな世界に連れてこられて……人殺しもさせられて……
 俺たちが何をしたって言うんだ」

 そう言うキムラ マコト君だったが、何故か頬が少し赤くなっていた。
 頬を赤くする理由は良く分からないが、その気持ちは良く分かるような気がする。
 人殺し……と言うのは多分あの人形の事だろう。
 見た目は完全に人間だが中身は人形だ。気が付かなくて当然だ。
 まぁ、実際の所、殺してはないのだが。

 いきなり勇者召喚されて、パレードに出され……確かに災難だ。
 だが、そう思っているのならばまだ救いようがあると言う事だ。
 アイツらの様におかしくなってしまってはいない様だ。

「お前たちは休むところが欲しいのだな?」

「え?はい、そうです」

 ポチが良いタイミングで言葉を発してくれた。
 流石ポチさん。

「ちなみにお金は持っているか?」

「良く分からないけど、こんなの貰った」

 そう言って彼女はポケットから三枚の金貨を出した。
 三金貨だ。真の勇者はかなり期待されている様だな。
 ……実はアイツらもこれぐらい貰っていた……なんて事は無いよね?
 先ほどから脳裏にチラつくクラスメイト達の姿を頭をブンブンと振り掻き消す。

「それだけあれば足りるな。少しで良いから分けてくれるのならば
 休める場所に案内してやっても良いぞ」

「本当ですか?でも僕たちはまだ貴方を信用できない――」

「別に信用できないのならば断われば良い。
 此処で掛けるか、パレードに戻るか選ぶが良い」

 ちょっとポチさん!?折角のチャンスなのにそんな言い方は――

「これ、上げる」

「そうか、交渉成立だな」

 あれぇ……この子思ったよりも思い切りが良いタイプなのか。

 他の二人の意見は聞かずにミズノ シズカが三金貨をポチに渡した。
 自分勝手の様な行動だが、こういった場面で思い切った行動は
 物事をスムーズに進める際に非常に良い。

「ちょ――」

 ポチが交渉成立と言った瞬間本日三度目の時間止めが発動した。今回も俺は動ける様だ。

「ソラよ宿まで案内してくれ」

「時間を止めてこいつらも運ぶのか……良いなそれ」

 突然時間を止められるのは正直に言ってびっくりするので止めて欲しいのだが、
 人目を付かずに宿に連れて行くにはこれが一番安全と言えばそうだ……こんなポンポンと使うものではないだろう……
 時間停止中は運ぶこっちからすれば面倒だが、相手からすると転移と同じような感覚になるだろう。
 エリルスの微妙な記憶を頼りに宿に向かう。ポチはまたまた加護を使い三人の事を浮かして軽々と運んでいた。
 本当にポチさん流石です……。

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