勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

引き分け

「流石だな、ソラ」

 地面に押し付けられている体を力尽くで立ち上げ
 何処か楽し気な顔をしてそう呟くポチ。
 完全に立ち上がったと同時に謎の力によって重力操作が解かれる。

「これでも本気で殺そうとしてるんだけどな……ふんっ!」

 軽口をたたきながらも襲って来るポチの攻撃を
 未来予知で避け更に反撃を加える。
 最初は完全に俺が有利だったのだが、
 徐々にポチの動きが洗礼されていき一秒でも終えるかどうかの速さで攻撃が仕掛けられる。

「っ!」

 まだぎりぎり追えるのだが、反撃を加える事が叶わず
 今度は避けるだけで精一杯になってしまった。

「やっと追いついたぞ、精霊の力を出し切ってやっとだ!」

 どうやらポチは昔喰らった精霊達の力を
 全力で引き出し此方の動きに対応してきているようだ。
 対応しきるというよりは追い越す勢いだ。

「ここからは我の番だな!」

 単純な攻撃だが何度も此方に向かって来て
 俺はそれを一生懸命に避けていくが、
 徐々に避けきれなくなり――

「くそっ!」

 右腕を切り落とされてしまった。
 当然痛みは無く直ぐに復活する為問題ないのだが、
 このままこの状況が続くのは好ましくない。

「おら!」

 爆発をポチが来る一秒先の場所で引き起こし一旦距離を取る。
 折角みつけた攻略法が普通に攻略されてしまい、
 内心は物凄く焦っている。

 距離を取ってもポチが待ってくれるはずも無く
 直ぐに間合いを詰められて攻撃が繰り出される。
 俺は必死に避けては爆発を加えたりして精一杯の抵抗を見せる。

「ふむ」

 ポチはひたすら攻撃を、俺はひたすら避けるだけの試合。
 そんな時間が暫く続き急にポチが離れ考える素振りを見せた。
 一瞬この隙に仕掛けてしまうかと思ったりもしたが、
 今までの攻撃から考えても双方とも実力は五分五分と言ったところで
 不意を突いたところでどうにかなるとは思えないためやめることにした。

「ソラよ、これは使うつもりはなかったんだがな、
 色々と考えて気が変わったぞ」

「は?何をするつもりなんだ?」

 一体ポチは何を言っているのだろうか。
 ポチは今まだに見せたことの無い真黒な笑みを浮かべていた。

「悪く思うな――」

「!?」

 突然鳴りやむ歓声、風も感じなくなり、
 だが、上空に浮いている砂時計は動いていた。
 その瞬間俺を含めすべての時間が止まっていた。
 そしてその停止した世界をたった一人だけ動いている人物がいる。

「この力は反則だから使うことは躊躇っていたのだがな、
 流石にあそこまで我の攻撃を避けられるとすこーし腹が立ってな」

 ゆっくりと腹が立っているという事を暴露しならがこちらに歩み寄ってくる。

 おいおい、ポチさんよ幾ら腹が立ったからって
 時間を止めるのは反則だろぉっ!?
 今はなんか知らないが意識があるが、
 もし知らぬ間に時間を止められていたと考えると非常に恐ろしい。

 良くある展開ではムフフな事が淡々と繰り返されたり……
 いや、ポチになら別に何をされても良いかも――って、そんなところじゃない!

「と言っても時間を止めたところで何も変わらないのだけど――
 この腹立ちを消すには、そうだな、少し辱めてやるとしようか」

 おいおいおいおいおい!
 何を言っているんだこのあんぽんたん!
 俺たちは実力を確かめるために此処に来ていて
 決してそんな事をするためにステージにたっているのではないぞ!

 ポチは少し頬を赤めて俺に接近してきて
 顔をぺたぺたと触ってきた。

 ぺたぺたしやがって!別にポチなら嫌じゃないんだ――
 ん、今思ったが意識があるって事はつまりこういう事だ。

「ひぇっ」

 突然、ポチ体がビクンと震え上がり、驚きの声を出していた。

『どうして……』

 どうしてって言われてもなぁ、
 なんか意識が残ってたからこうなったんだよ

『……恥ずかしい、ソラよ、一思いに殺してくれ』

 意識があるという事はイメージが出来るという事であり、
 それは魔法を使えるという事なのだ。
 俺は一応使えるかどうかを確かめる意味も含めて騎乗をポチに使った。

 そう言うなって、まだ顔を触っていただけだろ?

『……はぁ、時間を止めても勝てないのか。
 これは本当に反則で嫌われると分かっているが
 もう使ってしまっているものは仕方がない』

 それはどういう意味なんだ?

『あれをみろ』

 そういってポチが指さしたのは上空に浮いている砂時計だ。
 時間が止まったこの世界でも砂は下に落ち続けあと少しで
 少しが落ち切ってしまうところだ。

『あれが落ち切ったときに我とソラは終わる』

 は?どういう意味――っ

 丁度砂が落ち切ったとき時は動き始め、
 俺の意識は闇の中へと誘われて行き地面に倒れこんだ。
 最後に目にしたのは同時に地面に倒れむポチの姿。


 観客達からしてみればポチが瞬間移動して
 急に二人が地面に倒れこんだと認識するだろう。

『一体何が起こったんだ――!?両者戦闘不能で引き分けだ――っ!!』

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