勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

大魔王会議

 ソラ達が闘技大会への登録を終えた頃、
 大魔王城にて大魔王エリルスはニコニコ笑みを浮かべながら
 ルンルンと城内をスキップしていた。
 一体何が嬉しくてニコニコしているのかは城内にいる
 魔王ですら知る由も無い。

 これはエリルスともう一人だけが知っている事なのだ。
 大魔王の加護の復活――それはソラが本当に生きていて確実に力を付けている
 そういう事を意味しているのだ。
 それを知った日からエリルスはこの調子で、
 大魔王エリルスの身内が知る何時もの彼女に戻ったのだ。

「大魔王様!至急連絡したい事が!」

 ルンルンのエリルスを呼び止めたのは連絡係りの悪魔の下っ端だ。
 その悪魔の表情は今にも泣き出しそうで体が小刻みに震えている。
 普段大魔王と会話する事の無い下級の存在達にとって
 エリルスはこの城で最も恐ろしい存在とされており、
 彼の反応は当然と言えば当然なのだ。

「どうしたの~?」

 そんな彼にもエリルスはいつも通りの
 砕けた様なふざけている様な口調で話しかける。
 だが、余裕の無い悪魔は口調の事などは気にすることが出来ない。
 早く要件を伝えてこの場を去りたいと言う気持ちで一杯一杯なのである。

「明日、各地の大魔王が集まり会議を開くとの伝言が回ってきました!」

「明日~?随分と急だな~。
 でも~前開いたばかりじゃなかった~?」

 実はソラがこの世を去り、数ヶ月後に今回と同じく、
 各地の大魔王が集まる会議が開かれたのだ。
 このような強大な存在が集まる会議は基本的には数百年に一度と言われている。
 ちなみに、エリルスは前回の会議は参加していない。

 封印から復活し初の顔合わせだったが、
 あの時のエリルスはそんな余裕などなかったのだ。

「何でも、近々勇者召喚が行われる模様で、
 それについて話し合いたいとのことです」

「ん~なるほどね~。勇者召喚ね~
 うん~分かったよ~ありがとね~」

「はっ!失礼します!」

(少し興味あるし~参加してみようかな~)

 前回は不参加だったが今回は欠席する理由がない。
 大魔王エリルス、幾万年振りに会議に参加を決意した。

 ソラは一度もあった事の無いエリルス以外の大魔王達。
 ある者は只破壊を繰り返す事だけが生きがいの大魔王。
 ある者は命を弄ぶことが生きがいの大魔王。
 ある者は何もせずに只世界を観測することが生きがいの大魔王。
 ある者は――

 強大な力を持つ大魔王達が集結する会議。
 全ての大魔王系10名。
 今までは封印されていたエリルスを除いた
 9名で行われていた会議が10名になるなど、
 会議に参加する大魔王達は誰も予想していなかった。

 故に、今回の会議も9名がそろった時点で始まろうとしていた。

「急な招集だったが、集まってくれて感謝する」

 円卓に座っている8名の大魔王の姿を確認して
 今回の会議の招集者である大魔王デーグが立ち上がりそう発した。
 顔つきは爽やか青少年そのものだが、禍々しい二本の角が生え、
 右目から右肩に掛け赤い紋章が刻まれている。

 空席があるが何時もの事なので気にせずに進める。

「あ、ちょっと待った方が良い、というか待って」

「?」

 デーグのことを止めたのは大魔王オヌブだ。
 常にだるそうな目つきの彼女は起きている間も寝ている間も
 四六時中世界の事を観測している。
 そのためこの世界の事を誰よりも知っており、
 今回会議の開始を止めたのも彼女がある事を知っているからだ。

 オヌブの言葉に円卓に座っているみんなが首を傾げたり
 不機嫌そうな表情を浮かべていた。

「どういう事だ?説明しろ」

 オヌブに不機嫌に説明を求めたのは大魔王イガリ
 不機嫌なのは何時もの事だが、当の本人は不機嫌ではないと言い張っている。
 顔つきが常に怒っているように見えるからか、
 彼は周りからそう言われてしまうのだ。

 流石の大魔王でも顔つきまではどうにもすることができない。
 ちなみに、顔つき同様に口調もあれで正常だ。

「ん~、もうすこししたら分かる。
 説明するの面倒……」

 

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