勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

パジャマ

 擬人化したポチが編み物をするように手を動かし始めると、
 驚くことに指先にもふもふで思わず触れてみなくなるような
 毛が現れ始めポチ手の通りに服が編み出されていく。

「出来たぞ」

「お、おぉー。おぉ?」

  差し出されたのはポチのもふもふの毛で出来た幼い子どもが
 風呂上がりに着てそうなパジャマだった。
 別に子どもっぽいからと言う理由で疑問系になった訳ではなく、
 単にあんなにもふもふだと着ていて暑くはないのだろうか
 と言う疑問が浮かんできたからだ。

「暑くない?」

「まぁ、まぁ、着てみるが良い」

「うん……」

 もふもふパジャマを受け取り恐る恐る着てみる。
 驚くことに見た目通りと言うべきか、
 ふわふわに包まれ幸せな気持ちになる。
 肝心な暑さは一切感じず快適で重みも感じない。

「流石ポチ、これすごいな」

 今まで着た服のなかで一番着心地が良い。
 これからは執事服よりもこのパジャマを着ようかと迷うほどだ。
 と言ってもエキサラの奴隷の為、執事服を着ろと言われれば……
 パジャマの上に執事服を着るだろう。
 いっそポチに頑張ってもらって執事服を作ってもらおうか。

「ポチ、これ執事服作れるか?」

「出来ないこともないが、面倒だ」

「んんん、そこをなんとか!ポチの言うこときくから!」

「そうか、なら取りかかるとしよう」

 ニヤリと俺はポチにばれない程度の小さく笑みを浮かべる。
 言うことをきくとは言ったが、何でもとは言っていない為、
 無理なことを言ってくれば断る権利があるのだ!

「恐らく結構な時間が掛かると思うから、
 何処かで遊んでくるが良い」

「……うん」

 ポチが真剣に執事服を作ってくれている姿を見て俺は
 多少の無理があっても出来る限りの言うことを
 きいてあげようと改心した。
 言われた通りに俺は部屋から出て外へ向かった。
 外に来て遊ぶと言う訳ではない。

 エキサラとへリムから逃げると言う理由と訓練をするためだ。
 適当に重力操作やらを掛けて走ったりする。
 折角のパジャマを汚す訳にはいかないので、今回は軽めだ。

「ぬ、此処にいたのかのう、ご飯の時間じゃ……その格好は何じゃ?」

  エキサラが城の中からのっそーりと出てきて
 パジャマ姿に気がつき少し残念そうに指摘してきた。
 果たして執事服じゃなくパジャマを着ていることを残念に思ったのか
 どれともメイド服じゃない事を残念と思ったのだろうか。

「やさしーいポチが作ってくれたんだ。
 いま執事服も作ってもらってる所だぜ」

「ふーん、ポチに脱がしてもらったのかのう……」

 やはりと言うべきか、メイド服の方だった。
 執事服じゃないと言うこととは関係なく、
 エキサラはただ単にメイド服を脱がしたかっただけらしい。

「この服すごいんだぞー」

 このままだとご主人様にぐちぐち言われそうなので、
 取り敢えずわだいを変えてみることにした。
 ……大して変わってはいないが。

「ふむ……そのようじゃのう」

 エキサラは目を細めてパジャマの上から下を
 なめ回すようにじっくりと見つめた。

「重量、温度、防御、強化、愛情の魔法が掛かってるのう
 ……愛情の魔法って何じゃ?」

「知らない。そんなに魔法が付与されてるのかこのパジャマ」

 愛情は置いておくとして、
 あの短時間でここまで魔法を付与しているとは思っても見なかった。
 本当に流石ポチだ。

 感心しつつ食事をとる為に城の中に戻る。
 空き部屋で執事服を作っているポチに声を掛けてみたのだが、
 いまは集中しているから後で俺の事を食べるらしい。
 物凄く集中していた為その場ではながしたのだが、
 うん、おかしいよね。

 へリムもご主人様同様に残念そうな顔を浮かべ
 ポチ抜きで食事をしているとエキサラが突然思い出したようで、
 んじゃ!と言って輝いていた。

「ソラよ、力を試したいとは思わないかのう?」

「試したばかりだが?」

 ド変態に襲われるというトラウマになりかねない経験に
 遭遇したばかりだというのにご主人様は一体何を言っているんだ

「魔法とスキルも使っても良いと言ったらどうかのう?」

「おお、それは興味あるな」

 一応夢の中でも実力を試す機会はあったのだが、
 あれはポチとの共同作業だった為、100%実力ではない。
 エキサラの発言通り魔法とスキルを使える場があるなら
 是非とも試してみたいものだ。

「丁度一週間後にアルデンで開催されるのじゃが、
 参加してみるかのう?」

 おお、アルデンか。本当に色々あるなあそこ

「是非参加してみたい」

「うむ、それでは3人で参加登録するかのう……
 ポチも出ると思うかのう?」

「えぇ!?ご主人様たちも参加するのか!
 多分ポチも出ると思うから一応登録お願い」

「うむ」

「戦争の前の軽いウォーミングアップだねー」

 化け物たちが全員参加のイベント……アルデンや参加者は
 無事にいられるのだろうか、否、絶対に大変なことになる。
 俺は実力を確かめたいから本気でいくが、
 まさか三人も本気を出すなんて事はないだろうな……

 そんな不安を抱きながら食事を美味しく頂いた。

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