勇者になれなかった俺は異世界で
ダブルホワイト
砂漠にある拠点へと戻る。
拠点と言ってもそんなに立派な物ではない。
ある程度の範囲を決め柵で囲みその中にテントを張り巡らしている
だけで最低限度の生活が出来る程度の拠点だ。
拠点の決め方としては廃墟がある場所を選び月一のペースで拠点を変える。
何故廃墟を基準にして選ぶのかと言うと、テントだけでは武器製造などが出来なく
ある程度形のある廃墟を補強しその中でそういった事をする為だ。
と言っても鉄などの鉱石が非常に希少な為、稼働する事は滅多にない。
そんな拠点に近付く二人。
何時もなら誰かの話し声や笑い声が聞こえてくるのだが、
今は何も聞こえず、気配すらも感じられない。
「嫌な予感」
「……そうですね」
本来であれば合流する予定だった仲間の隊の消息も途絶え、
拠点からは仲間たちの気配が感じられない。
何か良からぬ事が起こっている、そう二人は思いつつ
武器を構え、自分たちの拠点を敵地だと認識し警戒心を高める。
「何の気配も感じない。仲間も敵も、もう居ない」
「信じたくはないですが……一応警戒はしておきましょう」
A-982番の言った通り拠点には生命体の姿は一切無かった。
あったのは無残に切り裂かれた仲間たちの死体。
皆二人と同じ真っ白な容姿をしているが顔の形はそれぞれだ。
そんな仲間達の殺され方はどれも同じで心臓の位置を刺され
そのまま斜め上に切り上げられている。
「酷い」
「一体だれがこんな事を……長の所へ行ってみましょう」
早速隊を仕切っている長の下へ報告に向かう。
他のテントよりも大きめなテントの中に足を踏み入れる。
中身は立派な物は一切無く机と椅子だけが設置されているだけだ。
その椅子に腰を掛けているのは、二人とは容姿が異なり、褐色の男だ。
その手には剣が握られており自分の心臓を突き刺していた。
敵にやれるよりは自らの手で死ぬことを選んだのであろう。
「……あの剣まだ使えそう」
「そうですね、貰って行きましょうか」
仲間の死体を目の当たりにしても二人は怯む事も悲しむ事も無かった。
二人にとって、この世界にとって、仲間の死は当然で日常の様な物なのだ。
故に仲間が死んでも悲しむ事は無く、直ぐに気持ちを切り替え
これからどうするかを決める。
「本拠点に戻ってみます?」
S-230番は長の手から剣を取り血を拭き取りそうA-982番に相談する。
本拠点と言うのは拠点とは違い一つの街をの事を指している。
頑丈な壁に囲まれ、中は立派とは言えないが建物が何件も建っている。
人口はおよそ千人程それでもこの世界の人口の殆どなのだ。
本拠点に戻れば敵の情報が何かあるかもしれない。
「此処から本拠点だとかなり掛かる、
食料とかはどうするつもり?」
「食料ならこの拠点から貰って行きましょうよ。
どうせもう使われることはないのだから」
「わかったS-230番」
食料を袋に詰め込めるだけ詰め込み、二人は本拠点へと足を進めた。
本拠点までかなり離れており最低でも二ヵ月程掛かってしまう。
流石に二ヵ月分の食料は持てないので道中他の隊の拠点で食料を分けてもらう。
そんな感じに一ヵ月経ち、あと半分と言う時に悲劇は起きた。
いつも通りに荒れ果てた土地を歩いている時にそれは突如降って来た。
全身が鎧に包まれ巨大な武器を手に持った強大な存在。
突如二人の上から現れ、その理不尽を叩きつける。
二人は気配に咄嗟に気が付き回避行動を取ったのだが、
間に合わずにS-230番が餌食となった。
戦鎚にを叩きつけられ一瞬で戦闘不能にまで陥る。
A-982番は武器を構え救うべく行動をするのだが、
戦鎚を暴風の様に振り回し近づくにも近づけない。
その間にもS-230番は何度も何度も戦鎚によって痛み付けられる。
宙に上げられあらゆる角度からの打撃。
「S-230番!!」
必死に助けようとするがどうすることも出来ない。
このままではS-230番が死んでしまう。
A-982番に焦りが現れる。
A-982番とS-230番はこの世界に誕生した頃から
行動を共にした中で互いの事を誰よりも知り尽くしている。
他の仲間達とは比べものにならない、家族よりも大切な存在。
そんな存在がたった今失われかけている。
A-982番は今までに感じた事のない感情に焦り、
その焦りからか真面な状況判断を出来ずに無我夢中に
S-230番を助けに飛び出す。
「ぅ――!」
意識が飛びそうになるが、途轍もない衝撃で覚まされ、
再び意識を失いかけの繰り返しの中S-230番の視界に此方に走ってくる
A-982番の姿が映った。
(駄目だ!A-982番。これは勝てる相手ではない!!)
声にならない声をだして必死に止めようとするが、
A-982番には届かない。
「S-230番!今助ける!」
大剣を手に暴風の中に飛び込み、一撃を狙い大剣で弾こうとしたが、
鎧の力は圧倒的な物で弾く処かA-982番の大剣を砕きそのまま
真白な体が戦鎚によっていとも簡単に吹き飛ばされる。
「くっ!」
吹き飛ばされたのを利用し一瞬の判断でS-230番の事を掴み、
そのまま遠方へと飛ばされる。
地面に叩きつけられるがS-230番を掴んだ手を決して離さない。
「S-230番……生き、てる?」
「は、い……無茶しま、すね」
防御力の薄いA-982番は先ほどの一撃を受けただけで
行動不能にまで陥り、力を振り絞って安否を確認する。
S-230番も同様に力を振り絞ってそれに応える。
「良かった……S-230番、手を、握ってほしい」
「はい……僕も、同じこと、考え、てました」
二人はもう自分たちの命は短いと悟り、
最後に何時か夢を見ていた事を最後の願いとして互いに手を繋いだ。
「ありがとう、S-230番」
「は、い、A-982番」
目を瞑り戦鎚が振り下ろされるのを只々待つ。
だが、その時は一生訪れる事は無かった。
不思議に思い目を開けた瞬間――それはいきなり目の前に現れた。
大きな獣に乗った一人の子供。
(人間?!)
一体彼らは何者なのか、二人はそういった疑問を浮かべたが、
どうすることも出来ない二人は彼が見方である事を祈るのみだった。
そして、目を疑いたくなる光景が繰り広げられる。
「ああ!」
少年が声を発したと思った瞬間、一瞬で鎧の目の前に行ったと思うと、
再び姿を消し、後に残っているのは切り裂かれた鎧。
姿が見えたと思うと消え、鎧が次々と切り裂かれていく。
「S-230番……」
「あり、えない」
突然現れた少年と獣が一方的に攻撃をしている。
幾つもの戦いを経験してきた二人から見てもこの光景は在り得ない。
「ちょっ!」
「!!」
そしてあろうことかA-982番ですら弾けなかった戦鎚を
自分よりも小さい子供が弾き更に止めすら刺した。
「ポチ!俺は怒ってるぞ!!」
「ぐぬぬ……その通りだけど!あれ凄く怖かったぞ!」
「言われなくても撫でる!!」
一体だれと話しているのだろうか。
突然独り言のように言葉を発している少年に疑問を抱きながら、
二人は助けてもらったお礼を言うべく力を振り絞り
互いが互いを支え合い震えながらも立ち上がった。
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