勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

お食事

「眩しっ……」

 二日間も寝ていた為か外に出るといつも以上に
 日差しが強く感じ手をかざして目を隠す素振りをしてしまう。
 だが同時に久しぶりの自然な光に体が喜んでいるのを感じる。

「やっぱ日の光ってのは気持ちが良いな」

「そうか、そう言う物なのか?
 我にとっては暑苦しいだけなんだが」

 そりゃ、普段あんなにもふもふの温かい毛を身に着けて居たら
 日の光の有難みなんて感じずに寧ろ嫌悪感を抱くだろうな。

「その姿でもそう感じるのか?」

「いや、何も感じない。先ほどの話は我が加護を持つ前の話だからな。
 ただ、眩しいとかは感じるが暑苦しいとは思わない」

 ポチも俺と同じように太陽に手をかざして目を隠す素振りをする。
 暑さ寒さも感じないなんて少し寂しい気もするが、
 加護って便利だなと改めて実感。

「そっか、便利だな加護。
 んじゃ、行きますか――っとその前に」

「ん、忘れ物か?」

 ポチがやれやれと言った表情でそう言ってくるが
 俺が思っている事とは全然違う。
 二日間も寝ていたハズなのに何だか調子が悪いと思っていたら
 その理由は初歩的な物であり、それは全く食事をとっていなかった事なのだ。
 妙に力が抜けると思っていたら単にエネルギー不足だという事に気が付いた。

「飯じゃい!」

「ああ、そういえば何も食べてなかったな。
 一応魔法は掛けていたんだがそれでも腹は減るのか」

 さり気なくポチの優しさが見える発言。
 ポチの魔法のお陰で少し力が入らない程度で済んでいると言う訳だ。
 寝込んでいる間ポチには物凄くお世話になっていた様だ。
 これは今度何か礼をしないと駄目だな。

「まぁ、あと一日ぐらいなら何とかなりそうだけど、
 外に出たついでだし腹ごしらえも済ませよう」

「そうだな、何が食べたい?」

「ん~特にこれと言って無いが、
 色々な物が食べたいから食べ歩きしよ」

 そもそもこういった街に来たのはこの世界に来て初めて見たいなものの為、
 どんな料理があるかなど全く知らないのだ。
 そういった点を踏まえて食べ歩きとは非常に便利だ。
 適当に歩いて美味しそうな物があれば買って食べ、買って食べる。

「うむ、それは良い。ほれ、手を出せエスコートしてやる」

「……うん、ありがとな」

 ポチの癖に大人の体になると色っぽく見えてしまい、
 物凄くお姉さんと言う感じがして堪らず、
 一瞬だけ固まってしまう。

「さぁ、行くぞ」

 手を繋ぎポチがぐいぐいと引っ張ってくれるため、
 人混みの中でもスムーズに進むことが出来非常に楽だ。
 だが、ここで問題点が一つ生じる。
 人混みで全く周りが見えないと言う事だ。

 食べ歩きするにしても周りが見えなければ意味がない。
 そう、まったく意味が無いのだ。
 これではただ、ポチと手を繋いでデートでもしている気分だ。
 俺の身長が伸びれば……くそうエキサラめ、少し恨むぞ

「ソラよ、あれなんてどうだ――って小っちゃいから見えんのか」

「……おっしゃる通りです」

 ポチは仕方のないと言う眼差しを此方に向けてきた。
 大人体系のポチにそういった目で見られると
 途轍もない羞恥心に晒されてしまい、
 何時もなら「うるせ」とか汚い言葉を言う俺だったが
 思わず素直に答えてしまった。

「我が適当に選んでやる、文句は言わせないぞ
 しっかり喰ってもらうからな」

「はい、お願いします」

 そういってポチはぐいぐいと引っ張って
 何の迷いもせず次々と店を転々として沢山の食べ物を買っていた。
 良く分からない串焼きやらサンドウィッチやら飲み物やら
 取り敢えず食べ歩きがしやすい物たちが次々とポチから渡される。

「ちょ、ちょっと!もう良いぞ。
 流石にこれ以上は食べきれない」

 やっと俺がそう叫んだのは既に食べ物や飲み物が
 溢れんばかりに渡された時だった。
 もっと早く言うハズだったがポチの勢いが凄すぎて
 タイミングを掴めずに此処までため込んでしまったのだ。

「んん、貧弱だな、仕方ないここまでにしてやる」

「どうも」

 流石にこれだけの量を歩きながら食べるのは困難なので
 ポチに頼んで裏路地に移動することにした。
 傍から見れば只の食いしん坊、おデブまっしぐらだと思われているだろう。
 だが、これを残そうものならばポチの鉄槌が下り
 物凄い事になってしまいそうなので無心で食べ続ける。

 こんなことになるなら食べ歩きなど提案せずに
 素直に唯一知っているサンドウィッチと言えば良かったと
 口いっぱいに食べ物を頬張りつつ後悔。

 それから結構な時間を掛けて無事全て食べ終わった頃には
 もう一生分食べたと言うぐらいお腹が満たされており
 若干苦しい気もするが食べる前よりかは断然今の状態の方が良い。

「よし、食べた、食べきったぞ!!どうだ」

「……何を誇らしげにしているのか分からんが
 食べ終わったなら早くいくぞ」

「……はい」

 物凄く冷たい対応されてしまったが、仕方が無い事だ。
 食べきるのが当たり前で残すなどあり得ない事なのだから、
 当然の事をやって誇れるわけもなかったのだ。
 だが、少しぐらい褒めて欲しい気もする……

 裏路地から出て再び人混みに呑まれながら
 エクスなんたらさん改め田中ロウォイさん宅へ向かう。
 食後直ぐの運動は少しきついが、
 二日も待たせている以上頑張らなくてはいけない。
 今までまったり食事していたことだし尚更だ。

 人混みを抜け人気の無い場所へと付き、扉の前で足を止める。

「此処だっけ」

「そうだが?まさか覚えていないのか?」

「いやー色々と頑張ったからさ薄っすらとしか覚えてないんだよね」

 と言ってみたが実際はどの家も同じ様な造りになっている為、
 どれが誰の家かなど見分けがつかないのだ。
 せめて表札ぐらい置いてくれれば見分けがつくものの……

「そうか、なら仕方ないな。まぁ、兎に角此処だ。行くぞ」

「おう」
 

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