勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

五年とライラ

 鋭く尖った巨大な岩々に囲まれている渓谷の中に集落がある。
 岩にめり込む形で家々が建っており吊り橋が繋がっている家もあれば
 足場など一切ない家もあり様々だ。
 見るからに住み難い家に一体だれが住んでいるのだろうか。

「ん~、さてと」

 岩にめり込んだ家の中で背を伸ばす影あり、
 ベッドに腰を下ろし足をベッドから放りだしてピンと伸ばし
 両手を斜め後ろに飛ばして収縮していた筋肉を伸ばす。
 きっちりと伸び終わり姿勢を元に戻し気持ちを切り替え
 長身長でベージュ色の長い髪をし、緑色の目の彼女はベッドから腰を上げた。

「行くとするか」

 彼女は首輪を弄りながらもう一人の同居人にそう声を掛けた

「……」

 だが、その同居人から返事は返ってこず、
 代わりにベッドから起き上がり無言で立ち上がった。

「こら、返事ぐらいしないと怒るぞ」

「……ライラ今日いつもより元気」

 そう呼ばれたのは紛れも無く
 ソラの奴隷だった竜人のライラだ。

「そういうヤミも何時もより元気だぞ」

 ヤミ、闇魔法から生まれたヤミ。
 彼女がソラの仲間の中で一番変わった、変わってしまったのだ。
 身長は130cm、真っ黒な髪で片目が隠れている幼女。
 それは五年前の彼女の姿であり、今の彼女の姿は、
 身長は160cmまで伸び、真っ黒な長髪は後ろで纏められており、
 顔つきも変わりあの頃の幼女はもういなくなっていた。

「当たり前でしょ?」

「まぁ、そうだ。私も正直うきうきしている。
 ……墓参りに行くのにこういった感情はどうかと思うけど」

 ソラの死後ライラからスキルの事を聞かされたが
 ヤミはソラの意志を尊重するため怒りはしなかったが、
 親しくない者には滅多に口を開かなくなってしまった。

 姿は変わってしまったがソラへの気持ちは変わっておらず、
 毎年この日になると彼女は普段よりも生き生きとしているのだ。
 二人そろって命日にこんな感じだとスラに不謹慎だと叱られるかもしれない。

「遅れたらスラに怒られる、早く行こ」

「ああ!」

 家から出ると目の前は断崖。
 だが、二人はそんなのはものともせず
 ひょいっと軽くジャンプして渓谷から抜け出した。
 楽々と超えたのだが二人の目の前には壁が立ちはだかった。

「おいおい、今年も行くのかぁ?」

 緑色の髪をしたライラと同じ竜人の男だ。
 何故、伝説の種族が当たり前の様に出て来ているのかと言うと、
 それは此処が竜人の住処だからである。
 ライラはソラの死後、里に戻ってきたのである。
 ヤミはスキルの保有者であるライラと共に行動を。

「そうだが、何か問題あるか?」

「毎年毎年言ってるけどよぉ、そいつにそんな価値あんのかぁ?」

 この男、実はライラに思いを寄せており
 彼女が他の男の墓参りに毎年言っている事が
 面白くなく、簡単に言うと嫉妬しているのだ。
 だが、この男はたった今嫉妬故の過ちを起こしてしまった。

「そんな価値だと?貴様――」

 自分のご主人を馬鹿にされた気がして
 ライラの気が立ったがそれよりも隣で無言を貫いている
 ヤミからの殺気が禍々しくなっていた。

「訂正するなら今の内だぞ、どうなっても知らん」

 ヤミから溢れだしている殺気を感じ
 このままでは確実に目の前の男が殺されると判断したライラは
 咄嗟に我に返り、一応同族の好で警告する。
 ……渓谷の上で警告

「訂正?何をだ?
 何時まで人間如きの墓参りなんて行ってんだよ
 お前は竜人だろ、大人しく此処で――」

「そう……
 名前も知らないけど、お前相当な命知らずだな」

「は――」

 彼が一言口にした瞬間、全身が禍々しい炎に包まれ
 悲鳴を上げる時間すら与えることなく塵と化した。

「……死ねばいいのに」

「いや、もう死んだぞ」

 ソラの事を悪く言われれば相手が誰であっても容赦はしない。
 それが伝説の種族、竜人であってもだ。
 竜人を一瞬で塵と化す程の力をこの五年で身に着けたヤミ。
 圧倒的な力を身に着けたのは彼女だけではない。

「さて、邪魔者は消えたし、次こそいくか」

「うん」

 ライラも幾ら同族とは言え、
 あそこまでソラの事を馬鹿にしてくる相手には
 何の慈悲も無しに殺されて当たり前と言わんばかりに
 今起きた出来事を気にせずに墓場へと向かった。

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