勇者になれなかった俺は異世界で

倉田フラト

精霊をぱくり

 食後の後はお決まりの片付けをせっせとやる。
 今回はイシア達も手伝ってくれたので何時も以上に楽に早く終わった。
 ごはんを食べた事によって大分機嫌を取り戻してくれたエキサラを
 ヘリムが気を利かせてくれて一緒に風呂に入って行った。

 折角機嫌が戻ってくれてもまたイシア達と話したら
 機嫌を損ねるかもしれない可能性があった為、
 どうしようかと迷っていた矢先に、
 それに気が付いたヘリムがほぼ強制的に
 エキサラを風呂に連れ去って行ってくれた。

 後でお礼を言わないと。
 適当な部屋に入り俺はポチクッションに体を預けながら
 イシア達に話の続きをする。

「さて、話の続きなんだが……」

 話の続きをしようと思ったのだが、
 何だか此方を見てくる皆の視線が何かを
 訴えかけてきている様なそんな気がして
 話を切り出すにも出せない状況だった。

「何か気になる事でもあるのか?」

「ずっと気になったんだんすけど、
 そのポチさんって一体何なんすか?」

「私もずっと気になっていたのよ、
 そんなに立派な獣見た事ないわよ」

 他の皆も同じようで首を縦にうんうんと振っている。
 正直に言っても俺自身もポチの事を詳しく知っている訳でも無い。
 だが、一応知っている情報だけでも答えておく。

「俺も良く分からんがフェンリルらしいぞ」

「フェ、フェンリルっすか?!」

「フェンリル!!」

 皆が驚愕の声を上げ尻もちを付いた。
 一斉に同じ行動をするためまるでコントでも見せられている様な
 そんな気分になって少しおかしく思った。

「そんなに驚く事なのか?」

「そんなにって、驚いていないソラ君がおかしいのよ!」

「えぇ……」

 驚かないだけでおかしいと言われてしまい
 なんか物凄く心が傷ついた様なそんな気がする。

「だって、フェンリルですわよ!?
 あの凶暴で残虐で血も涙も無いって言われている伝説の獣ですよ!?」

「なっ、失礼な!ポチにだって血や涙ぐらいあるわい!なっ、ポチ」

 あまりにも酷い言いぐさだった為
 少し言い返してしまった。
 でも確かに俺と契約する前はそうだったのかも知れない。
 実際、出会った時がそんな状況だったし……

「あぁ、そうだぞ」

「「「「「?!」」」」」

 ポチが擬人化してそういうと皆目玉が飛び出んばかりに目を
 見開き顎が外れるのではないかと思う程口を開けて驚きを隠せないでいた。
 ポチが擬人化したことによってポチクッションが無くなってしまい、
 俺は小さな無性の子供によしかかる形になってしまった。

「いきなり擬人化するなよ……俺が変態みたいになるだろ」

「ソラが我に振るから悪いんだ」

 傍から見れば全裸の小さな子供によしかかる子供……
 いや、待てよ。よく考えてみたらそんな変態でもないか。
 二人とも見た目は子供なのだからそこまで変な光景ではないだろう。
 只のじゃれ合いと言われたら納得するレベルだろう……

「え、え、ちょ、え……」

「何が起きたんだ……」

 流石にいきなり獣が人の姿になれば驚いて言葉が出ないだろう。
 俺も初めて擬人化したスラの事を見て驚いていたからな……
 スラと出会ってなかったらポチが擬人化した時に物凄く慌てていただろうな。

「亜人共うるさいぞ。少しはそこの妖精共を見習え」

「っ!」

 ポチが少し強めにそう言うと見事なまでに人獣達が口を閉ざした。
 ポチが言うようにイシア達は驚きはしたも取り乱したりはしておらず
 物凄く興味津々にポチの体をジロジロと見ていた。

「何だ妖精共、我の体がそんなにおかしいのか?」

「い、いえ、そういう訳じゃないですわよ……」

 イシアは口ではそう否定しながらも目線は
 ポチから外れる事は無くジーと見つめていた。
 決して悪気があってやってることではないという事は分かるが、
 ずっと見られているポチの気持ちを考えたら少し気の毒だ。

「ソラよ、なんだ奴は……」

 ポチはそう言いながら俺の背中の後ろで体を小さくして
 隠れる素振りを見せた。
 こんな状況でまでよしかかるほど鬼畜では無いので
 手を地面に置きポチから少し離れ背中で姿を隠してあげた。

「こら、ポチが居やがってるだろやめろ」

「はい……すいませんでしたわ」

 そういって目線を下におろして
 申し訳なさそうにシュンとしてしまった。

「なぁ、イシア何でそんなにポチの事見つめてたんだ?」

「ポチさんが人の姿に化けた瞬間から、
 物凄い精霊の加護の力を感じたんですわよ」

「精霊の加護……そんなの持ってるのかポチ?」

 此処でポチが持っていると言っても俺は大して驚きもしないだろう。
 だってエキサラやヘリムと同じ位化け物のポチだから。
 精霊の加護が何かなのかは予想でしかわからないが、
 ポチならそんな加護一つや二つ持っていそうだ。

「んーあー、昔なんか精霊みたいなやつ喰ったなぁ……」

「喰っちゃったのか……」

「せ、精霊を喰らうなんて……信じられないわ」

 どうやら昔に精霊を食べちゃったらしい。
 精霊というのはどのような者を指すのかは分からないが、
 喰ったと言うからには生き物である事は間違いないだろう。

「精霊って美味しいのかよ」

「んー、そんなに美味しいもんではないぞ
 ソラの方が何倍も美味いな」

 俺の後ろから肩に顔を置きながらそんな事を言ってきた。
 今すぐにも喰わせろと言わんばかりに舌を出して
 俺の顔をジーと見つめてきている。

「やめろやめろ、夜にしてくれ」

「んぐ、仕方が無いな」

 もうイシアの目線はポチに向いていないはずなのにも関わらず、
 顔を引っ込め再び俺の背中に隠れた。

「精霊を喰らう……やっぱり化け物ですわよ……」

「まぁ、そういうなって。
 じゃあ、謎は解決したことだし本題に戻って良いか?」

「詳しく聞きたいところだけど、
 少し聞くのが恐ろしいからやめておくわ」

 確かに精霊をどのような状況でどんな風に喰らったかなんて
 聞きたくもないし想像したくも無いな。
 つか、精霊を喰う状況ってどんな状況だよ……少し気になるわ

「それじゃ、気を取り直して――」

 一応切り替えとして咳払いを一回しとく。

「頼みと言うのは物凄く簡単な事だ。
 俺は只、王の下へ案内して欲しいんだ」

「王っすか……」

 常にへらへらしている彼だったが今回ばかりは
 険しい表情をして、少し考え込んでしまった。
 だが、そんな表情は一瞬だけであり――

「全然良いっすよ!俺達の王をぶっ殺すんっすよね?
 なら案内だけじゃなくて俺達にもやらせてほしいっす!」

 軽い口調でとんでもない事を口走りだした。
 他の人獣の二人も同じ考えの様で首を縦に振っていた。

「えぇ……一応お前等の王様だろ?そんなんで良いのかよ」

「問題ない。俺達は傭兵だ。
 誰にも縛られずに自由に俺達に得する様に動く」

「あの王様は間違っていますからね、
 考えもやり方も全てが歪んでいます」

「俺達にとって今一番王に近い存在は兄貴っすから、
 兄貴が行く道を俺達は付いていくっす!」

 人獣三人組が立ちあがり真剣な眼差しを此方に送ってきた。
 傭兵というものがどのようなものなのかは知らないが、
 何にも縛られないと言うのは好都合であり不都合でもある。

 誰にも縛られない、
 つまり今は俺の事を兄貴とか言って味方してくれているが、
 状況が変われば恐らくこいつ等は軽く俺の事を裏切るだろう。
 だから俺はこいつ等の事はあまり信頼はしない。

「そうか、気持ちは嬉しいが案内だけで十分だ。すまないな」

「そうっすか……なら精一杯案内してみせるっす!」

「頼もしいな」

 人獣達の王の案内は頼めた。
 残るは妖精族だが、正直に言って妖精族の王はそこまで憎いと思っていない。
 全ての元凶は人獣の王にあるのだから、そいつにこの怒りをぶつける。
 妖精族の王とは少し話をしてからどうするか決めるとするか。

「イシア、案内頼めるか?」

「えぇ、勿論ですわ……でも、あの子を虐めないで上げて欲しいのよ」

「あの子……まぁ、妖精族の王は話し合いがメインになると思うから
 滅多な事がなければ手を上げたりしないぞ」

 あの子という言葉に突っかかるが、
 実際に合ってみれば分かる事だから追及はしない。

「本当ですわよね?」

「ああ」

「なら、快く案内をしますわ!」

「助かる」

 これで両族の王までの道は掴んだ。
 待ってろよ、必ずこの怒りをぶつけてやるからな

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