死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第90話〜不戦〜

 気が付くと一度見たことのある場所にいた。

「お前は?」

 目の前に少し霞んではいるが、誰かがいるのは確認できる。

「あと少しだ。あと少し力があれば。お前と一つになれる」

「なんのことだ?」

「お前達が元の世界に帰る方法だよ」

「俺は強くなれば元の世界に帰れるのか?」

「ああ。魔王の力は強大だ。最古の魔王は特に」

「お前は誰なんだ?」

「俺はお前にその力を与えたものだ」

 その言葉を疑問には思わない。疑問に思う必要もない。自分の体が、目の前の人物の一部であると認めていた。

「さあ行け。力を求めろ。俺と一つになれば帰れるぞ」


 司が目を覚ます。見たことのある場所に、見たことのない人物がいた。それは初老の男性だった。

「誰だ?」

「俺は不戦の王ファリウス」

「!?」

「お前は知るべきなのだ。世界について。だからここにいる」

 アイネルが部屋に入ってくる。

「司君。起きたのね。大丈夫?」

「はい。大丈夫です。体も問題ないですね。どれくらい眠っていました?」

「たったの一日ですよ。皆んなを呼んできますか?」

「いえ。少し話をさせてください」

「分かりました」

 アイネルは少し微笑んで部屋から出ていく。

「それで、話したいことってなんですか?」

 ファリウスはゆっくりと話を始める。

「お前は疑問に思ったことはないか? この世界のことを」

「この世界のこと?」

「そうだ。魔王や、君たちに与えられたギフトのこと。そういうものだと思うことはできる。だが、本当は知らないことばかりじゃなか?」

「確かにそうですね」

「君には知る資格がある。力を持つものとして」

「あれは遥か昔。俺がまだ人だった頃の話だ」

「俺はただの人だった。王でもなく。騎士でもなく。ただ畑を耕す農民だった。妻がいて、子供がいて、幸せだった。家族に囲まれながら、ゆっくりと歳をとり死んでいくものだと思っていた。だが違った。

 ある時を境に争いが始まった。それは、人間という規模ではない。この世界に存在するほとんどの生物が争いを始めた。理由は一つ。今は魔王と言われている力のせいだ。

 今、魔王と言われているものはシリスと呼ばれていた。それは神から全種族へむけた贈り物だった。その話を王から聞いた時は俺も驚いた。神は見てみたかったのだ。この世界の行先を。力を持つもの同士が手を取り合うのか。全ての力を得たものが世界を管理するのか。

 結果は勿論後者だ。混沌とした世界は死の匂いが充満して生きた心地がしなかった。それでも、妻と子供さえ生きていてくれれば俺は平気だった。だが、世界は甘くない。争いに巻き込まれ妻と子供は死んだ。世界は俺の妻と子供を殺したんだ。

 俺は世界を憎んだ。世界を呪った。神を呪った。俺は人の王を殺していた。そして願った。今まで起きた悲劇をなかったことにしてくれと。元の平和な、妻と子供と一緒に笑っていられる世界にしてくれと。時間は戻った。だが、俺の得た能力は生命には干渉できなかった。

 俺はこう思った。俺がこの世界を一つにする。そして、二度と争いがない世界。妻と子供が笑って過ごせる平和な世界を作る。そのためにもシリスを消滅させると決めた。

 自分でも気づいていた。そんなことをしても妻と子供は帰ってこない。でも、そうするしかあの時の俺には選択肢はなかった。俺は殺した。たくさん殺した。殺し続けた。その過程で、種族全てを絶滅させることもあった。

 歳という概念を消失してから、どれだけの時が立ったのかも分からない。自分という存在がなんなのかさえ忘れていた。ただ、シリスを消滅させる。ただその為だけに生きていた。

 だが、ある時変化があった。シリスを殺した時、俺は神の意思に触れた。そして、神は言っていた。争いはよくないと。世界を救うためにその力を使えと。

 俺の心は変化した。まるで心が何かとすり替わったように。争いはダメだと思うようになった。そこからは、世界の平和のために命を救い続けた。

 そして、お前が現れた。俺の心はこう言い始めた。

 もういい。彼に殺してもらって終わりにしよう。

 そんなことがあるのか。その声を聞いて俺は確信した。俺の心は神の意思に侵食されている。ここで殺され、全てを終わらせたいと思っているのが俺の本当の気持ちかさえ分からない。

 だが、一つ絶対に間違っていることがある。あの時、世界にシリスをばら撒いた神が、争いはおかしいと言って俺を止めたことだ。神のせいで俺は全てを失った。そして、俺の理想である世界すらも否定される。そんなことがあるのか。そんなことがあっていいのか。俺の命はなんのためにあったのだ。

 俺の心はお前に殺されたいと言ってる。なら、俺はこの心を否定する。神の言いなりになるのはやめだ」

「立て少年。俺はお前を殺す」

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