死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第85話〜亡霊〜

 戦いを続けているのはミナとバルク、シバ王国の騎士と数十名程度である。他の兵士たちは完全に戦意を喪失していた。

 オルの歩みを止められるものはおらず、国の目の前まで迫っていた。背中から巨大な翼を広げて空高く飛翔する。

「俺から全てを奪ったお前達が、このような場所で悠々と暮らしている。そんな不条理あってなるものか。自らが犯した罪は自らで償え。これは復讐だ」

「太陽よ。罪を犯したものに断罪を。復讐を果たすものに正義を」

 炎の大剣は大きさを増す。それは雲を突き抜け、空を真っ赤に染め上げる。

「あれは結界が耐えられない。魔法を使って妨害しろ!」

 バルクの叫びに我を取り戻し、兵士達は魔法を発動する。だが、発動した魔法はオルの翼に全て阻まれる。ミナ達は四騎士に阻まれて身動きが取れない。

「ダメだ。やめてくれ」

「償いの時だ。灰と化せ」

 大剣がゆっくりと振り下ろされる。と同時に、城から女性が飛び出してくる。

「トライデント・シールド」

 突如、城の真上に三重のシールドが展開される。

「無駄なことだ。太陽は俺に味方している。貴様らが悪で、俺が正義の執行者。負けるわけがない」

 ゆっくりと確実に、シールドはひび割れていく。

「みんな魔力を頂戴。ここで死ぬわけにはいかないよね」

 最後のシールドが砕けちると同時に、オルの大剣も消滅する。

「バカな」

「みんな、やったよ。防ぎ・・・きったよ」

 魔法を発動したのは七瀬だった。だが、魔力が切れて地面に倒れ込む。

「この力は一人のものではないな」

 七瀬の能力は魔力操作。魔力の譲渡ができることを利用し、戦えない人達からもらった魔力を使って防御魔法を発動していた。

「ありがとう。あとは私たちが食い止めるから」

 城から次々とクラスメイトが飛び出していく。

「私たちは戦える。この城にきてからも鍛錬は続けていきた。戦えない人たちは守る。藤井君も命をかけて戦っているのに、逃げるわけにはいかない」

「愚かな」

 オルは城の前に降り立ち、再び炎の大剣を生成する。

「「行くぞ」」

 クラスメイト達は果敢に攻撃を仕掛ける。連携して攻撃するが、オルには傷ひとつつかない。

「話にならん」

 オルは勢いよく翼を広げる。それによって発生した暴風は、クラスメイトを壁に叩きつける。

「でも、諦めない。私たちはもう逃げない」

 安藤の発言にオルは爆笑する。

「逃げないだと? 何を言っている。お前達と一緒に出てきた男三人は、戦わず逃げ出していったぞ?」

 安藤が周りを見渡すと、確かに三人足りていなかった。

「森山グループ・・・」

「面白いものだ。俺がここにいる時点で死は確定しているというのに」

 一瞬で安藤に近づくオル。

「まずはお前からだ。消えろ」

 反応すらできない速度で振るわれる剣。

「なんだ?」

 オルの剣は阻まれていた。安藤を包むように貼られたシールドによって。オルはさらに力を込めるが、砕くことはできない。

 俺は君たちを育てられなかった。

 クラスメイトの頭の中に声が響く。

 それに、君たちを利用した。死ぬでも構わないとさえ思った。だが、司君に言われて気がついたんだ。未来の為に今ある命を犠牲にするなんてバカなことだった。本当にすまなかった。

 これは俺のけじめだ。だから、今だけは君たちの味方をさせてくれ。君たちは必ず守る。

 クラスメイトの周りが輝かしい光に包まれる。

「「アランさん」」

「力が溢れ出してくる。これなら」

「ここに眠る亡霊の力か。かかってこい」


 森山達は国から全速力で逃げていた。魔法も使って逃げたことにより、相当な距離まで離れていた。

「あんなの戦ってられるか。命がいくつあっても足るわけがない」

「全員死ぬだけだ。本当にバカな奴らだな」

 笑いながら移動する森山達を悪寒が襲う。心臓が握られているような、頭を上から押さえつけられているような感覚に陥る。森山達は正面から何かが近づいていることに気づく。

「こんなものか」

 森山の耳元で落胆したように呟いた何かは、一瞬でその場を後にする。重みから解放されると、体からどっと汗が噴き出す。

「あれはなんだったんだ」

「あれは、正真正銘の化物だ」

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