死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第83話〜憎悪〜

 司は魔人の元へと到着する。

「死ね」

 魔人は攻撃をギリギリのところで避ける。

「本当に思うようにいかないですね」

「そうだな。お前達の負けだ」

 司は違和感を覚えた。対している魔人の声。その声を聞くと、体の奥から憎悪という感情が溢れ出してくる。こいつは必ず殺すべきだ。残虐に、凄惨な死を与えなくてはならない。そう、心が叫んでいる。

「その様子なら多少は気付いていそうですね。藤井司君。いや、今はもうモンブランだったかな」

 魔人の顔にモヤがかかる。モヤが晴れると、司の目の前に憎悪の対象が現れた。

「その顔はよく知っている。この世界に来て初めて会った奴の顔。全ての悲劇の初まりだ。お前は絶対に殺す。死ね。ヘルメス」

「まあ、そうなるでしょうね」

 ヘルメスは自分の死を悟ったような口ぶりで話を続ける。

「本来なら、貴方はここで封印され永遠の時を過ごすはずだった。だが、予想外の乱入でその計画も崩れた。ベラ様もお怒りだ。そして、貴方に勝てるほど私は強くはない。私はここで死ぬ。だが」

 淡々と話していたヘルメスの口角が上がり、狂ったように笑いだす。

「十分すぎる。もう手遅れですから全て話しましょう。貴方は魔王二アスを殺さない限りここから出られない。平野全てを囲むように、二アスと我等三人の命に直結した結界が貼られている。そして、魔王はベラ様と二アスだけではない。もう一人いる」

 信じられないような話だ。だが、その話が真実であった際に、その魔王がどこに向かっているか司はすぐに理解できた。

「そうですね。そうですよね。全力で貴方を止めたいなら魔王が二人ここにいるでしょう。そうでないなら、全てお分かりですね?」

「クズが」

「正解です。復讐の王オルは、貴方達の城に向かっている。ただのエルフ。ただのサイクロプス。そのような存在では復讐にかられるオルの足元にも及ばない」

「復讐だと? そんなことした覚えは」

「まあ、ないでしょうね。ベラ様によってオルの家族を奪った存在が、あの城の者達にすり替わっていますから」

「クソ。外道が」

「いくら言われようと構いませんよ」

 司は憎しみに身を委ね、ヘルメスを殺しにかかる。頭を掴み持ち上げて、力を入れていく。ミシミシと音をたてて頭が歪んでいく。だが、ヘルメスは笑顔を崩さない。

「本当に残念ですね。この戦いの後に、友の亡骸の前で絶望に嘆く貴方の姿が見られないのは」

 グシャッ

 鈍い音を立ててヘルメスの頭は砕ける。だが、それで終わらない。頭のなくなったヘルメスの体を殴り、内臓を引き摺り出す。潰して、潰して、潰す。

 あたり一面が真っ赤に染まった。

「花音だけは絶対に許さない。絶対に、絶対に、絶対に。殺してやる」

 司はアイネル達が向かっている魔人とは別の、もう一体の方へと向かう。その背中にはあの時と同じ、赤黒いリングが現れていた。

 司が魔人に向かっていくと、魔人はずっと被っていたフードを外す。その顔はクラスメイトの新井真央だった。

 司は新井の正面に立つ。

「あ、あ、あ」

 新井の体はガクガクと震え、立っているのがやっとの状態だった。今の司は神にも見える。それに、激しい憎悪の感情が溢れ出していた。何か言いたげそうな新井を司は気にしない。

「え?」

 司の腕は新井を貫通し、心臓を握り潰す。あまりの出来事に、新井はまだ何が起きたか理解できていない様子だ。

「花音より優先すべき命など、この世には存在しない」

 そう言い残し、司は魔王二アスの元へと向かう。

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