死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第57話〜保護〜

 モンブラン王国の近く。とある山道を、夜な夜な一台の馬車が移動していた。

「ヘッヘッヘ。今回もうまくいきましたね旦那」

「当たり前よ。なんたってこの俺が付いてんだからな」

「またこの荷を売ればしばらく遊んで暮らせますね」

「ああ、金がなくなりゃまた調達すればいい。こんなに楽な商売ないぞ。ハッハッハ」

 馬の手綱を引く若い男と、中年ぐらいの男が笑いながら話をしている。

 馬車の周りには騎士のような護衛が六人付いていた。

 あとは届け先に付くだけだ。そう思っていた者達をよそに、それは現れた。

「オークです! 気を付けて」

 護衛の一人が声を上げる。

「全員生け捕りだ。こいつらは献上ものにする」

 山道の両脇から数十体のオークが出現する。オークは数が多いが連携が取れない魔物。一体一体が強いわけでないため、適切な処理をすれば危なくない。だが、それは覆った。

「こいつら強いぞ。陣形を立て直せ。連携が取れている。ただのオークだと思わん方がいい」

 中年の男も剣を持って戦闘に加勢する。

 決着はすぐについた。連携が取れるオークが数十体に対して人間が八人。勝てるはずがなかった。

「縛り上げろ」

 騎士六人と中年の男、若い男が縄で縛りあげられる。

「荷物も確認しておけ」

「リーダー! 大変だ」

 馬車の荷台を確認したオークが声を上げる。幹部らしきオークが中を確認して微笑みをこぼす。

「今回は大量だな。いい献上品も手に入った。さて、帰るか」

 整備されていない道で馬車を引くのは難しいのか、オークの集団は山道を移動していた。数人が馬車のまわりで歩き。他は全員脇道で姿を隠していた。

 オークの集団が歩き始めて十数分。集団は足を止める。目的地に着いたわけではない。集団の道を塞ぐように、何かが立ちふさがっているのだ。それは目が真っ赤に光っている。光っている目の数から、それは三体いた。

「何者だ? 今なら見逃してやる。死にたくなければ去れ」

 オークとしてもこの荷を早く届けたいのか、道を譲るように促す。

 それは言葉を発することなく歩み始める。

「止まれ。それ以上来るなら、殺す」

 それは歩みを止めない。一歩、また一歩と集団に近づいていく。

「ヴァンパイア!」

 一体のオークがそれの姿を確認して叫ぶ。

 リーダーであるオークは理解していた。ヴァンパイアという種族がどれだけ強いのか。だが、戦ったことはない。話で伝わってきた程度だ。それが、リーダーに誤ったことを判断させる。

「戦え! 相手は三体。数で押せば何とかなる」

 脇道からぞろぞろとオークが現れる。

「この数ならどうにか勝てるか」

「そんなわけないだろう」

 ヴァンパイアが口を開き否定する。

「我らはモンブラン王国の幹部だ。貴様ら程度に負けはしない」

 ヴァンパイア三体とは、二回目の使者としてミナ王国に行き、帰ってくる途中のイチルとその部下たちだった。

「さあ、戦闘だ。だが、お前たちに勝ち目はないぞ?」

「それは俺達が決めることだ」

 リーダーであるオークが、血がこびりついた大斧で一振り。

 オークの体重を乗せてはなった最高の一撃。だが、その一撃はイチルの片手に握られた剣によってはじかれていた。

「なんだと」

「反撃だ」

 リーダーであるオークの目から赤い光が六つ消失する。

「逃げろ!」

 リーダーの判断は一歩遅れていた。

 一瞬で十体程まで数が減っていた。峰打ちで気絶している。死者は一人も出していない。ほんの数秒。ほんの数秒なのだ。だが、戦力差は歴然だ。そもそもオークがヴァンパイアを相手するなど無理な話なのだ。

「俺達の強さは分かっただろう。退け」

「撤収だ」

 オークたちが逃げ去った後、馬車の荷台を確認すると男が八人。若い女性のエルフと子供のエルフが縛られていた。

 これは、縛られている人間たちにも意見を聞く必要がありそうだ。そう思ったイチルだが、ひとまずは全員が眠っているので保留にする。

 馬車に乗り、目的地に向かって馬を走らせる。その目的地はもちろんモンブラン王国だ。

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