死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第53話〜真実③〜

 司はみんなが落ち着いたタイミングで、テウスを連れて部屋の中に入る。

「このサイクロプスが俺の初めて出会った魔物だ。名前はテウス。本当にかわいい奴なんだ。初めて会った時も、飯をもらいに来た食いしん坊だったな」

「こんにちは。テウスです」

「かわいい」

 声を上げたのは七瀬だった。

 テウスに近づき頭をなではじめる。それにつられて、次々とテウスに近づいていく。魔物というのを忘れているかのように。

 かわいいは正義である。司がその言葉をここまで実感したことはなかった。

 森山グループの三人を除き、他のクラスメイトは魔物との距離を近くすることに成功したようだ。

「少しは魔物が悪くないってことが信じられたかな?」

「そうだね。でも、怖いよ。テウス君みたいに良い魔物だけとは限らない」

「それはそうだね。でも、魔物も人間も誤解を解けば手を取り合える。それは実現したよ。ひとまず、この城の中にいる魔物は全員良い魔物だから安心して大丈夫だよ」

「そうだといいんだけど……」

 やはり、魔物への恐怖はそう簡単には抜けることはない。

「入ってきていいですよ」

 司の合図と共に、アイネルとバルクが部屋に入ってくる。

「みなさんこんにちは。私はヴァンパイアの神祖アイネルです。仲良くしてくださいね」

「さっきは怖がらせて悪かったな。サイクロプスの王バルクだ。よろしく頼む」

 バルクの登場に一瞬体を震わせたクラスメイトだが、次の瞬間にはアイネルに釘付けになっていた。

「………」

 誰も言葉を発さない。すべてを引き込むような何かに呆然としている。

 パシンッ

 司が手を叩きみんなの意識を呼び戻す。

「みんな魔物が悪い奴だけじゃないってこと、多少は理解してくれたと思う」

「そうだね」

「ここからは相談なんだけど、俺は魔物と人間が手を取り合って共存できる国を、世界を作りたい。その願いの為に皆も協力してくれないか? もちろん強制はしない。ここを出ていくなら止めることもない」

「質問なんだが、藤井君の目的は日本に帰ることじゃないのか?」

「………」

 司は言葉につかえてしまう。そう、初めのころは思っていた。

 帰るまで守らなくては。その感情が、いつしか守ることのみに変換されていた。力があれば守れる。この世界なら守ることができる。その事実が無意識に、司から帰るという目標を奪っていた。

 考えれば分かることだった。日本に帰れば危険なんて無いに等しい。それなのにこの世界にいることが大前提になっていた。本当に花音のことを思うならば帰らなくては。

「そうだね。必ず帰るよ。でも、そう簡単に方法は見つからないと思う。だから、ゆっくり探そうと思う。国が大きくなればそういう情報も入ってきやすいだろうし、安全だと思うんだ」

「なるほどね。それなら僕は協力するよ。争いは嫌いだし、藤井君の所が一番安全そうだ」

「「確かに!」」

 クラスメイトも同意を示す。

「俺達も協力してやる。だが、条件がある」

 森山が口を開く。森山達は城から去るだろうと予想していた司は驚きを隠せない。

「なに?」

「まだ、話してないことがあるだろう。無駄に長い付き合いだ。何か隠しているだろ。アランさんはどこに行った? あれだけ強い人が負けるなんて想像できない」

 司はアインの死についてふれていない。自分たちを育ててくれた師が魔王の仲間であって、囮に使われていたなんて知らないほうがいいからだ。無駄に勘のいい奴だと思い、森山に発言させたことを悔やむ。

「それは………」

「何か隠してるんだね。それを言ってくれなきゃ信用できないよ」

「本当にみんな聞きたいのか? 聞いたら必ず後悔するよ。それでもいいの?」

「うん。聞きたい」

「分かった。話すよ。聞きたくない人は耳を塞いでくれ」

 司は全てを語った。アランが魔王セイヤの仲間であったこと。皆を囮としてヘルメスを狙っていたこと。自分がアランを殺したことを。

「そうだったんだ」
「悲しいな」
「アランさん」

「人殺し」

 そう呟いたのは井上だった。

「お前は人殺しだぞ。今の話を聞いたらアランさんは殺さなくていいじゃないか。無駄に人を殺して、やっぱり魔王だ!」

「そうかもしれない。でも、俺にも俺の事情がある。そこは譲れなかったんだ」

「何が譲れないだ。花音って奴がそんなに大事か! この人殺し!」

「いい加減にしなよ。藤井君だって好きでそんなことするわけなでしょ」

 森山達をさえぎり安藤が怒りを口にする。

「庇う必要はないよ。殺したのは俺だ。ただの自己満足かもしれない。だが、俺はやるしかなかった」

「藤井君………」

「まあ、そういうことだよ。聞きたくはなかったよね」

「ううん。聞けて良かったよ。皆もそう思ってると思う。司君も辛かったんだね」

「ありがとう」

 司は少し潤んだ瞳を隠しながら扉を開ける。

「あと一つ言い忘れていたことがあったんだ」

 振り返った司の目は潤んでなどいなかった。

「花音に危害を加えるつもりなら、だれでも殺す」

 仮面をかぶったような無表情で司は言い放ち、部屋から出ていく。

 それは、クラスメイトから見て藤井司ではなかった。どこか他の、別人だった。

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