死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第52話〜真実②〜

 司が魔王として皆に受け入れられたのは、司の人間性もあるかもしれない。滅ぼすべき魔王にクラスメイトがなったなんて言われたら、普通は正気ではいられない。

 藤井君なら人を襲うことはしないだろう。そう思わるのが、司という人間なのだろう。

「今から、魔物と共存できるってことを証明する」

「どうやってするんだ? 本当に魔物が仲間なのか? 魔王なのは認めるが、魔物が良い奴ってことのは共感できない」

「ああ、本当だ。これから、俺が初めて出会って仲良くなった魔物を部屋に連れてくる」

「「「!?」」」

 全員が驚愕の表情へと変わる。魔物とは人間に危害を加えるべき敵。そう教え込まれた人たちにとって、滅ぼすべき対象だ。そして、恐怖の対象でもある。

「聞いてられっか。俺達は出ていくぜ。魔物と共存できるなんてバカバカしい。お前の姿もなんかの魔法だろ。そうまでして洗脳して何がしたいんだ?」

「洗脳じゃない。誤解を解いて真実を知ってほしいだけだ。そして、魔物も人間も傷つくことがない世界を作る」

「さらにバカバカしいな。お遊戯は一人でやってくれ」

 ドアから出ようとする森山達の前に司が立ちふさがる。

「そういうわけにはいかない。これは絶対に譲れない。君たちがこれから傷つける魔物をなくすために。真実を知った君たちが傷つかないために」

「どけよ」

「どかない」

「強気だな。強くなったからって調子にのって。舐めやがって! こっちは三人だ。またあの時みたいにサンドバックにしてやるよ!」

「くるならこい」

 司がほんの少し、三人に向かって殺気を放つ。

 三人は足が震えて立っているのがやっとの状態になる。

「フレイムランス」

「ライトニング」

「アイスランス」

 三人が気を振り絞って魔法を放つが、司の周りを囲う赤黒い靄によって司には届かない。

「クソ! 何が王だ。何が魔王だ。ただのサンドバックが運だけで生意気になりやがって!」 


「もう限界だ」

 ドアの奥から声がしたのと同時に、一体の魔物がドアを突き破って部屋に入ってきた。

 サイクロプスの王、バルクである。

「「魔物だ!」」

 残りのクラスメイトが部屋の隅に集まる。あの一件のせいで魔物への恐怖も膨れ上がっている。クラスメイトが殺されたのを見たんだから当たり前だ。司は少し早かったと心の中で後悔を口にする。

「サンドバックが運で生意気になった? どういうつもりだ!」

「お前らがどんな関係だったのかは分からん。だが、彼が、王が背負ってきた痛みをバカにするのは何があっても許さん!」

「お前らは経験したことがあるのか? 生物が死ぬほどの痛みを。何度も何度も何度も何度も! その痛みが想像できるのか? 次は死ぬかもしれないとういう恐怖に、涙を流す思いがお前らにわかるのか!」

「それを乗り越えた人が運がいい? バカにするなよ! 王が痛みに、恐怖に打ち勝った正当な対価だ」

「王を愚弄するなら、その命もらうぞ」

 片手で持ち上げられたは森山は必死に抵抗するがびくともしない。

「バルクさんその辺にしてください。皆が怖がっています。これじゃあ、魔物は悪者ですよ」

「すまない。ついカッとなってしまった。すこし頭を冷やしてくる」

 バルクは森山をそっと地面に離す。

「悪かったな。だが、王を愚弄するなら覚悟をしておけよ」

「………」

 これでひとまず三人は静まったが、あとの処理は大変そうだな。そう思い司が振り向く方には、震えて部屋の隅に固まるクラスメイトがいた。

「みんな聞いてくれ。あれはサイクロプスの王バルクさんだ。怖がらなくていい。本当は気さくでいい魔物なんだよ。ただ、ちょっと怒っただけだよ」

 全員が司の話など聞いていない。目の前でおきた光景に恐怖している。二メートルを超える一つ目の巨漢が叫びながら部屋に入ってきて、クラスメイトを片手で持ち上げた。

 その事実が、光景がクラスメイト達の脳裏から離れない。

 ひとまず落ち着かせるために司も部屋から出た。

「すまない。本当にすまない。モンブラン君の意に反することを行った」

「大丈夫です。気にしないでください。俺は絶対に諦めません。セイヤさんと同じ道はたどらない。セイヤさんが本当は目指したかった場所へ、俺は進みます」

「本当にすまない。処罰があるなら甘んじて受ける。すまない」

「だから気にしなくていいですよ。ここからは俺の役目です。彼らを後悔させないために。魔物を殺し続けた後に襲う後悔に涙を流さないために」

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