死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第44話〜魔王誕生〜

 モンブランの目の前で、七人の魔王が一人、逆心の王セイヤは灰となった。灰は風に乗って空高く舞いあがる。まるで、そうなることを望んでいたかのように。重い重い何かから解放されたように。高く、高く、空へ。

「終わった」

 モンブランは小さな声でつぶやく。

『魔王の死亡により、魔王の称号を勝者に移行します』

 モンブランの頭の中で、とても優しい声が響く。

 数秒後、大地は亀裂を作り、空は曇天に変わる。それは、モンブランの周辺を除き、世界全体で起きていた。世界は、今までの景色とは打って変わり、地獄のようなものへと変貌する。と同時に、モンブランの体に変化が起きる。

 鋭い牙が生え、髪は赤黒くなり、耳が尖ったものへと変化する。背中がうずき、力を込めると、黒い翼が勢いよく広がる。ヴァンパイアに生えている翼とは違い、天使に生えているようなふさふさした翼だ。だが、もっともっと禍々しい。神話に出てくる堕天使の様だ。

 外見的なものだけではない。ヴァンパイアの王になった時のような、力が体中から込み上げてくる感じ。その感覚がモンブランを襲っていた。

「さらに強くなったのか。これなら、全てを守れる!」

『魔王の称号の移行が完了しました。貴方がこの世界を導く一人になることを祈ってます。祝福を』

 ほんの数分の出来事。それが完了すると、自然が元の姿に戻る。ほんの数分だが、この世界が受けた被害は甚大なものとなった。それが新たな魔王の産声であることを知っているのは、たったの六人だった。

「司君! なんてことをしてくれたんだ!」

 モンブランが振り返ると、かつて自分の命を救ってくれた人の姿があった。

「アラン? 久し」

 アランの拳がモンブランの顔を襲い、仮面が粉々に砕ける。

「何をやってくれたんだ! もう少しで、あいつを殺せるチャンスだったのに!」

「何を言ってるんですか!? 俺はみんなを救いましたよ! 魔王も殺しましたし、なんで殴られなきゃいけないんですか!」

 何が何だかさっぱりわからず、司は怒りを口にする。

「クソが! これならあそこで殺すべきだった」

 いや、本当は気づいていたのかもしれない。うすうす感じていた違和感。あれほどの人がわざわざヘルメスのところにいる理由。普通に考えて、ヘルメスのことを許しそうにない。じゃあ、何故か。

 ヘルメスの思惑に気づいていない。もしくは、誰かにスパイとして送り込まれ、ヘルメスの命を狙っている。

「それは、セイヤさんの仲間ってことでいいんですよね?」

「そうだ。君なら気づいているかもしれないが、俺はあの男。ヘルメスを殺すためにこの国にいた。だが、それも今日で終わりだ。君のせいでな!」

 それは、後者であることを表していた。

 そうであって欲しくない。前者であってほしい。あの人が犠牲に目をつぶるなんて思えない。

 そう信じていたからこそ、その言葉は司に重くのしかかる。

「そうかもしれないと、でも、そうであって欲しくないとも思っていました。アランさんが、召喚された人たちを犠牲にして、今までやってきたなんて。皆を救うこともできたはずなのに」

「そんなことは分かっている! だが、俺は頭を殺すと決めたんだ!そうしないと、連鎖は止まらない! なのに君が!」

 アランは声を大にして、司に怒りをぶつける。

「花音が死んだらどうするつもりだったんだすか!?」

「その時はその時だ。君には悪いが、今まで犠牲になった命と変わらない。その者達の為にも、俺は止まれなかった」

「そうですか。頼む!」

 司の指示によって、怪我をした生徒が国の外へ運び出される。

「こんなに魔物の仲間がいたか。君の言うこともわかっているつもりだ。君は今ある命を救おうとした。それだけだ。間違ってなんかない」

 司は、目の前にいる男の器の大きさに自分が押しつぶされるような、そんな感覚に襲われる。

 アランは微笑みを浮かべる。

「殺したいならこい。俺は君を認める。殺す資格もあるだろう。大事な人が傷ついている。それだけで、十分だよな。もし、君が私を許してくれるなら、ともに未来の犠牲者を救いに行こう」

「あなたがもっともっと酷い人で、そんな風に笑わなければもっと楽だったのに。僕もあなたを認めますよ」

「そうか! だったら」

「でも……あなたを許すことはできない」

 司はゆっくり剣を構えた。

コメント

  • 小説家を褒めよう

    花音の空気感がすごい

    0
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