死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第40話〜実力〜

「全員、陣形を立て直せ!」

 セイヤが叫んだのと、モンブランが反撃に出たのは同時だった。

「グハッ」

 悲痛の声を上げたのは四騎士の内で魔法を使っていた者だ。
 陣形を立て直す暇もなく、モンブランの拳が腹部を貫いていた。

「「ケント!」」

 味方がやられたことで、焦った槍使いの二人がモンブランに急接近する。

「やめろ! 焦るな!」

 焦りは敗北への一番の近道である。勇者パーティーである二人がそれを知らないはずがなかった。
 だが、忘れていた。長い年月、強いものとの戦いがなかったせいなのかは分からない。仲間を失うという恐怖が二人から正常な考えを奪っていた。

 モンブランは振り向きざまに剣で一閃。二人の首が宙へと浮かび上がる。

「クソが! わざとか。さっき拳で殺したのわ」

「よくわかってるじゃないか。剣を使うよりも、より味方が危機だと分かりやすいようにな」

「クズだな」

「お前も同じだろ? 今までに何人殺した? お前が転移してきてからどれだけの命を奪った? 俺にとやかく言う資格すらないだろう? 人殺し勇者」

「お前らから見たらそうなのかもな。だが、俺にも譲れないものがある!」

「そうやって話を長引かせて時間稼ぎのつもりか? 勇者とは思えん下種さだな」

 モンブランが空に向いたのと同時に、空に超巨大な魔法陣が発生する。

「さすがに気づいていたか。だが、もう遅い。この魔法はユリコ一人によって発動したものではない。生きている俺の配下全ての魔力を使った最上級の魔法だ。発動させたのが間違いだったな。死ね!」

「この規模なら国ごと吹き飛びそうだな。魔力の消費が半端ないがやるか」

「全員退避しろ! 発動までに全力退避だ! 来いユリコ」

 セイヤのもとにユリコが駆け寄る。

「やっぱりお前の能力は透過か。しかも触れているものにまで影響が出るとは」

「分かったところでもう遅い」

「まあ、一人ならどのみち避けないけどな」

「は?」

 セイヤが首をかしげていると、さらに不思議な光景が目の前に現れる。それはどこかで、ずっと昔に対峙した強者が使っていた技だ。手も足も出ず命を乞うた。その技が目の前に存在している。

「それは魔王シンの!」

 モンブランの両手一杯に、灰色の球体が発生していた。

「地面は無理だが、空中ならちょうどいい。消し飛ばしてやるよ!」

 超巨大な魔法陣から降りてきたのは、巨大な火球だった。さっきのサンシャインフレイムなど可愛すぎるほどの規模だ。まさしく太陽。そう形容するしかない。

 モンブランは空に両手を向ける。

「消し飛べ! 爆発バースト

 巨大な爆発が町を暗闇に染め、爆風と爆音が町を包み込む。

「ウソだろ?」

 闇がはれて、先に口を開いたのはセイヤだった。数が減ったのはそうだが、それでも三百近くは兵がいた。ユリコも魔法が得意でないにしても一般人から見れば天才レベル。

 そんな者達の最高傑作がたった一人の男に止められた。疑うのも仕方がない。

「もう無理よ」

 ユリコがセイヤから離れ、戦場で敵に背を向ける。

「ま………」

「きゃああああ!」

 セイヤが言い終わる前に、モンブランはユリコの足を切断していた。

「逃がすかよ。自分たちは殺しておいて、逃げるのは流石にねえよ。俺の守護対象に手をだしたんだ。分かってるよな?」

「お願いだ! ユリコはユリコだけは許してくれ」

 モンブランがセイヤの方を向くと、セイヤが土下座をしていた。深々と目上の人にするように。

「ようやく実力の差が分かったようだな。そして、大切なものを失うのは辛いものだ」

「なら………」

「だが、もう一度聞く? お前らはどれだけの命を奪った? 故郷から来たであろう者を、何人殺した? その人、一人一人に帰る場所があっただろう。大切に思ってくれている人は、帰りを待っていることだろう。どれだけ時間が経とうと、いつか帰ってくると信じているんだろうな」

「それは………」

「なぜ正しく導こうとしない。お前は諦めたんだろう。洗脳されてる人の誤解を解くのは簡単なことじゃない。だが、時間をかければいつかは解ける。お前はその努力を怠った。諦めた」

「だが………」

「結果的にお前が仲間を殺したんだよ!」

 モンブランが剣をユリコに向ける。

「お願い助けて」

「頼む。やめてくれ。やめろー!」

 セイヤが剣を構えてモンブランに斬りかかる。

「ブラッドシールド」

 セイヤの剣は無慈悲にはじかれる。

 グサッ

 ユリコの体が、力なく地面に横たわる。

「クソーーー!」

「これが命を奪われる気持ちだ。いつからこの感情を忘れていたんだ? バカが」

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