死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第25話〜命〜

 サイクロプス対ゴブリンの戦闘が始まった。質のサイクロプスに対して数のゴブリン。だが、オルドの言った通り、戦況はゴブリン有利に進んでいた。すこしづつサイクロプスの傷が増えていく。

 普通のゴブリンなら数百いてもサイクロプスが負けることはない。だが、今は違う。強化された上に、連携を完璧にこなしている。さらに、ステータス的にサイクロプスと互角であるゴブリンロードが数体いる。少しづつゴブリンの数を減らすが、大して意味などない。

 司も懸命に攻撃をするが命を奪うものではない。相手を戦闘ができないようにする攻撃。手加減しているわけではないが、司には命が奪えなかった。

「どうしたの? さっきの威勢がウソのようだけど? これなら逃げたほうが絶対に良かったわ」

「黙れ! 僕たちサイクロプスは逃げない! そして、絶対に負けない!」

「それならもう少し頑張ってもらえるかしら」

 ナーナの言葉に強気で返すルギスだが、司の目から見ても無理をしているのは明らかだった。

 ルギスの体が赤く発光を始める。鬼人化だ。最後の最後の切り札だが、これを使わないで勝てるわけがない。そう判断したのだろう。

「バカが! 焦るんじゃない!」

 オルドの言葉はルギスの耳に届かない。

 どんどんとゴブリンの数を減らしていく、その中にはゴブリンロードも含まれていた。

「このまま終わらせてやる!」

 強気の発言だが、現実はそんなに甘くない。ナーナに襲い掛かったルギスだが、ゴブリンといえど王は王。少しづつ攻撃を当てるが、時間には間に合わなかった。

「くそ!」

 ルギスの体が力を失い地面に倒れこむ。

「さすがに強いね。でも、その程度よ」

 ナーナが近くにいたゴブリンを捕食する。すると、さっき受けた傷が消えていく。

「ウソだろ」

「そういうことよ。サイクロプスごときが勝てるわけないでしょ」

 動けなくなったルギスに、傷を負ったサイクロプス。戦況は最悪になっていた。

「いいこと思いついたわ。サイクロプスは殺さなくていいわ。捕まえてこの人間の前に集めて、それからゆっくり殺しましょう」

「そんなことはさせない!」

 叫ぶ司だが、心のどこかでゴブリン達を殺したことが許せない自分がいる。これは当然の報いでは? という考えが浮かび、本気が出せないでいた。

 どうしたらいいんだ!

 ゴブリンに攻撃をしながら、司は必死に悩む。

(このままだったら皆死んでしまうぞ)

 司の頭の中で声が響く。聞いたことのある声、夢に出てくる男の声だ。

 うるさい! 今はやれるだけのことを全力でやってるよ!

(本当にそうか? 鬼人化を使えばどうにかなるんじゃないのか? ゴブリンを殺せば、もっと早く数を減らせるんじゃないのか?)

 そんなことわかってるよ! でも…………

(甘えんなよ。どうせサイクロプスが死んだら、守れなかったって言って泣くんだろ? もしかしたら暴走するかもな。それでも嫌か? 守りたいって思ったんじゃないのか?)

 そうだけど。そうなんだけど。

(だったら逃げろ。誰もいないどこか遠くに。そうすれば悲しまなくて済むさ。サイクロプスなんて関係ない。それがお前の下した決断なんだからな)

 嫌だ! ルギスさん達を置いていくなんてできない。

(だったら戦え! 相手が命を奪いに来たんだ、そいつの命を奪って何が悪い。花音の命を狙う奴をお前は殺さないのか?)

 許さない。殺す。

(そういうことだ。何が自分にとって大切か、しっかり順序を決めろ。でないと、すべて失うことになるぞ)

 分かった。

 頭の中での会話が終わるころには、全てのサイクロプスが地面に倒れこんでいた。ゴブリンも二百ぐらいは減っているが、まだ三百近くいる。勝ち目などなかったことを物語っていた。オルドも鬼人化を使ったようで、動けなくなっている。

(お前が迷ってたせいだな。だがら傷ついてる。必要なら殺しはしょうがない。それが、お・ま・え・の選択だ)

「さっきから手加減でもしてくれてるのかい? 殺しはしない。戦闘できなくするだけ。それならそこで、サイクロプスが死ぬ様でも見ときな」

「逃げてくれ、司君。僕たちが悪いんだ」

「いえ、ルギスさんは悪くないですよ。悪いのは僕です。善人ぶって、仲間を傷つけて。反吐がでる」

 スパッ

 司が剣を抜いた瞬間、近くにいたゴブリンの首が地面に落ちる。

「そんな………司君。それでいいのか?」

「これでいいんですよ。やっと何をすべきかわかった。もう、守りたいものを傷つけられるのは終わりだ。来いよゴブリン!」

「皆殺しだ!!!」

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