死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜

ライオットン

第10話〜異変〜

 司は今日も森山達からいじめを受けていた。

「ファイアボール」
「アイスランス」

 最近は殴る蹴るではなく、魔法によっていじめが行われていた。森山は魔法が得意らしく、無抵抗な司を目の前に、いじめの激しさが増すのは必然だった。
 
 魔法でのいじめが始まってから司にも変化があった。魔法が使えるようになったのだ。魔法を習得するにはステータスと違い、才能と呼ばれるものが必要になっている。ずっと魔法が使えなかった司は騎士団員からも、もう無理だと決めつけられていたほどだ。なのに、急に使えるようになった。その変化は司にとってこの上ない喜びだった。

「今日のところはこのぐらいだな」

「こんなものか! そんな魔法俺でも使えるぞ!」

「最近マジでうざいな」

 立ち去ろうとしていた森山が振り返り、司の腕をつかむ。司は腕を掴まれたままどこかに連れて行かれる。そこは、いつも訓練で使われる訓練場だった。

「この時間ならだれもいないな。お前らは離れてろ」

 森山は残りの四人を訓練場の端に移動させる。

「最近マジで調子に乗ってるよな。ここなら加減がいらねえから。希望通り最高の魔法をプレゼントしてやるよ!」

「バーニングフレイム!」

 それは中級魔法と呼ばれる魔法。異世界に転移してきた中では、花音と森山しか取得していないほど難しい魔法だ。森山の足元に魔法陣が発生する。それは初級魔法より遥かに大きい魔法陣。それだけで、魔法の威力を物語っているようなものだ。森山の頭上に火球が発生する。それは時間と共にどんどん肥大していく。

「まだ発動に時間がかかるな。魔力も使ってるからこれぐらいが限界か」

「死ね!」

 強大な火球が司に向かって動き始める。火球が近づくと尋常じゃないほどの熱波が司を襲う。それは司に十分な恐怖を与える。怖くない! どうせ生き返る! 花音の為にも逃げるわけにはいかない! 司は目をつぶり自分に言い聞かせ、恐怖を押し殺す。周りにいた四人も魔法に驚愕の表情をしている。

 発生した火球が爆音を立てて司を飲み込む。痛い。痛い。痛い。火球が消滅した跡には何もなかった。普通の人間があれほどの火球に耐えられるはけがない。司の体は跡形もなく消滅していた。

「マジで消えちまったな。ハッハッハ。調子に乗ってるのが悪いんだよ」
「マジだマジだ!ハッハッハ」

 森山達の笑い声が訓練場に響きわたる。異世界に来てから何日も何日もいじめを行っていた森山達は、人を殺すことなんて何も思わなくなっていた。精神状態はまさに狂気といったところだろう。

『能力の発動条件を満たしました。能力を自動発動します。発動者の強い意志により、ステータスを強化して蘇生します』

 時間がたち、火球が当たった中心に黒い核のようなものが出現する。

「なんだあれ?」
「また復活するんだろ。死んでもらっちゃ困るしな。実験体として」

 森山達が話をしていると、黒い核を黒いオーラが包み込んでいく。しばらく時間がたち、黒いオーラがはじけ飛ぶ。そこには無傷の司がうつむいてたっていた。

「やっぱり体が消し飛んでも復活するんじゃないか」
「怖すぎだろ。ハッハッハ」

「殺………す」

「何言ってんだおまえ? 殺すだって? 笑わせるなよ」

「殺す」

 殺すとしか言わない司に、さすがに森山達も違和感を感じ始めていた。

「なんか今日のこいつやばいぞ」
「離れたほうがよくないか」

 森山達が離れようとした瞬間。司の体を黒いオーラが包み込む。すると、体に黒い血管のようなものが浮かび上がる。顔をあげた司を見た森山達の感想は一つ。

「「化け物」」

 司の片目はまっ黒く変色し、黒い血のようなものを流していた。

「殺す」

 司の腕が黒いオーラに包まれ長い爪のようなものが生える。その姿はまさに異形の一言。それだけで十分だった。 森山達の中の一人、井上が逃げ遅れていた。そこに異形となった司が瞬時に現れる。

「死ね!」
 
 爪が体を貫こうとしたとき

「ファイアボール!」

 魔法が司に直撃する。だが、司にダメージはない。魔法が来た方を向くと、そこにはアンナが立っていた。森山の発動した魔法による爆音で駆けつけてきたのだ。

「もしかして、司なの?」

 アンナの後ろには一緒に駆けつけてきた、花音の姿があった。

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