神は思った。人類の7割をアホにして、楽しく見守ろうと

4.1 1.2 4.2

俺は思った。世間は狭いのだと

 
「いらっしゃいませ!!  あっ、工藤くん。2ヶ月ぶりくらいだね。今日もカットだけでいいよね?」
「はい、カットだけでお願いします」

「じゃあ、髪の毛一回流しますねー」

 そう言われ、工藤  蓮はシャンプー台へと案内される。ここの理容室は小さい頃からの行きつけで、いつもお世話になっている。

 そして、工藤の散髪を担当してくれるのは、数少ないデコの理解者である藤田  あかねさんでる。それ故、カットは藤田さん以外頼まない。それは例え、同じ店の店員さんでも。

 と言うのも、過去一度だけ藤田さんの予約が取れず別の店員さんカットしてもらった事がある。その時工藤を担当してくれた人に、前髪は切り過ぎないようと何度も伝えたのにも関わらず、思いっきり前髪をかっさらって行った事を今でも覚えている。

 それからの1ヶ月はまさに地獄だった。どうぞ見てくださいと言わんばかりに主張する俺の広いデコ。廊下ですれ違う奴らの目線を自然と集めるデコカリスマ性。これは中学時代の黒歴史ナンバーワンに君臨している。

 そんな苦い思い出だが、高校に入学してからじゃなく良かったとつくづく思う。特に高2、小早川の前であんな髪型だと弄りのネタ以外の何者でもないからな。

 そして現在では、藤田さんが働くこの理容室に2ヶ月に1度程のペースでカットしてもらっていると言う訳だ。

「工藤くん、今回もいつも通りでいいんだよね?」
「はい、いつもので」

 工藤が言う『いつもの』とは、前髪を切り過ぎず、左右と後ろだけをカットすると言うもの。幼い頃からから通っているため『いつもの』で伝わり、藤田さんもそれを受け取るのだ。

 そして、髪を濡らし終え本題の散髪を入り、それと同時にたわいもない会話も始まる

「工藤くん、最近学校どう?  弄ってくる人と仲良くなれた?」
「うーん……あんまりですかね…」

『弄ってくる人』それは十中八九、小早川  優衣である。

 時は少し遡り、学年が一つ上にあがり 慌ただしい日常にもなれた五月。2年生になり、初めて髪を切りに行った時に今回のように藤田さんと他愛もない話をしていたのだ。

 その時藤田さんが『新しいクラスどう? クラスの人とはいい感じ?』と聞いてきたので『クラスの人に弄られて大変なんですよ』と、言う事を藤田さんに話したため、名前は知らずも小早川の存在を知っているのだ。

「ふ〜ん。あんまりか……でも2ヶ月前に来た時よりは、表情が明るくなった気がするけど?」
「明るくなったというより、慣れたと言う感じですかね」

 最初のうちは小早川からの弄りが嫌で嫌でしょうがなかったが、2ヶ月も経てば残念ながら慣れる。

 工藤の口から出た『慣れた』と言う発言に、藤田の頭の中にとある可能性が浮上して来た。それは………

「工藤くん、もしかして目覚めちゃったの? Mに」だった。

 工藤としては、この展開は大方予想していたが、まさか藤田さんにこんな風に言われると思わなかったので焦りを隠せない。

 そんな複雑な気持ち入り混じるなか、Mじゃないと伝えなければと思い咄嗟に「違います!」と相手によっては怒ってるように捉えられる言い方をしてしまった。

 案の定、この工藤の言い方に藤田は怒っているのだと捉え、会話が途切れ微妙な空気が2人の間を留まり続け、ハサミで髪を切る音だけが淡々と鳴り響いてた。

 そんな時、唐突に
「変なこと言ってごめんね、工藤くん」
 と藤田さんが謝ってきた。工藤としては誤解を生むような言い方をしてしまった工藤自身にも非があると思っているので工藤も
「いえ、俺こそ誤解を生むようなこと言ってすみません」とお互いに謝った。

 お互いに謝り微妙な空気が和らいだとほぼ同時に髪を切り終わり、そこで2度目のシャンプー台に案内される。

「痒いところはありませんかー?」

 髪を洗ってる最中、これを言われるのはいつものでことで、工藤はその度に『特にないです』と答える。今回もそれは変わらず、『特にないです』と答えるつもりだ。

「そうですね、今 とても股間が痒いので掻いてもらっていいですか?」
「「………えっ!?」」

 藤田さんと工藤はしばしの沈黙の後2人同時声を合わせた。そして、嫌な感じをしつつも声のする方へ目だけを移動させる。そこには悪魔が降臨していた。

「なんで……小早川が……」

 こんな言葉が口から出てくるのは当たり前だ。この理容室には小さい頃から通っているが小早川をおそらく一度も見た事がないのだ。

 工藤が驚いてる一方、藤田さんは若干の動揺を見せるものの特に驚いている様子はなく、寧ろ小早川とわかって安心しているようにも感じられる。それはなぜかと思っていると、藤田さんと小早川の会話の内容で納得した。

「優衣、お客さんに失礼でしょ!  ごめんね工藤くん」
「大丈夫だよおばさん。蓮くんはこのくらいじゃ物足りないから」

「おば……さん?」
「はい、この人は私のお母さんの妹です」

 まさか、小早川 母の妹が藤田さんだったとは……驚きのあまり声が出ない。

 藤田さんはと言うと、工藤と小早川が初対面だと勘違いしているようで、2人が普通に話している事に驚いているようだ。だが、驚きも束の間、藤田さんの中である可能性が浮上する

「まさか工藤くん、学校で弄ってくる人って優衣のこと?」
「はい……残念ながらその通りです」

まさか優衣がと、開いた口が塞がらない。そして、そんな事を黙認してはならないと藤田は思った。

「こら優衣!  工藤くんをいじめちゃダメでしょ!ーー

 この時工藤は、初めて工藤をかばってくれる人が現れたと、感動している。だか、その感動はあっと言う間に通りすぎる

 ーー優衣と同じクラスになってから、工藤くんのおデコがさらに広くなったんだよ!  工藤くんに謝りなさい!」

 工藤はこの時知ったのだ。天然弄りストの恐ろしさを。小早川もこれを聞いて笑うのを堪えてるのが分かる。

 そして、追い討ちをかけるかのように小早川が笑いを堪えながら謝ってきた。

「蓮くん……おデコを広くして……プッ…すみませんでした」

 出ました。小早川の必殺技。謝罪されてるのにさらに怒りがこみ上げくるやつ。藤田さんは小早川が謝ったことによって2人が仲直りしたと思っているようで、中途半端だったシャンプーを再開し、それと同時に小早川は笑いながら待合室に戻っていた。

 工藤は頭を洗われてる最中思ってしまった。世間は意外と狭いのだと。そして、血は争えないのだと。

「コメディー」の人気作品

コメント

コメントを書く