銀色の雨

邪神

第0話 始まりは絶望から

    二〇八五年、私は生まれた。



辺りは悲惨な戦争に巻きこまれ、崩壊寸前の建物ばかりが視界に入り、決していい光景ではない。これが私の初めて見た光景だった。



ぽつんと、透明な粒のような冷たいものが頬にあたった瞬間にいくつかに別れ、辺りに飛び散る。



これは《雨》というものらしい。



目の前で軍人が倒れた女性に抱きついている。



その女性は目に見えない透明なガラス玉が、白い光に反射し、純白に輝いたような美しい銀色の髪に、目や鼻や口などの顔のパーツがまるで少しの水の波紋も感じさせない程美しく整っており、そのせいか息の1つもしない人形のようにピクリとも動かない。



どうやら目の前の女性は私の母らしく、私を生んですぐに死んだらしい。



軍人は私の父のようで、真っ赤な炎がそのまま宿っているような強い赤髪に紅い目、その姿はまさに正義の赤というような雰囲気が強く感じられた。



父はしばらくして私を抱きかかえる。と「君は本当に母親とそっくりだね。今日から君は、エーレ・クロスだ」



父は何も知らなかった私に嬉しいという溢れだしそうな感情と、悲しいという溢れだしそうな感情を抑えこみ、微笑みながらそう言った。



その日は黒々とした曇天の空に悲惨な戦争の残骸がそこらじゅうにあり、まさに殺風景ではあったが、私の紅と蒼の目には、美しい銀色の雨が私たちをにぶく照らしているようにみえた。

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