視える俺は苦労が絶えない

有賀尋

事の顛末に待つ君の笑顔

「ぅ…」

目を開けると、秋風と鏡伽が2人をのぞき込んでいた。

「戻ったか、奏」
「お帰りなさいませ、奏様」
「うん、ただいま」

そう言うと、奏は体を起こして、隣にいる佑莉に目を向けた。

「彼女はどうだった」
「浄霊できたよ」

海で見た事を2人に話す。
思い出がないと言ったのは病気がちで病院暮らしだったからで、今も沢山の管と機械につながれて辛うじて体は生きていること、まだ生きていたいと願っている事、彼女の海は、大草原であったこと。

「なるほどな」
「どうりで何も映らなかったわけですね」
「やっぱり映らなかった?」
「えぇ、何も映りませんでした」

奏や鏡伽が全てを話し終えた頃、ようやく佑莉が目を覚まし、起き上がった。少し驚いた様子であたりを見回していた。

「…目が覚めた?」
「…ここは…?」
「そっか、よく分かってないか」

彼女にもう1度場所の説明をし、今までの事、海での出来事を話した。
彼女の目は元の色に戻っていて、憑き物が取れたようなスッキリした顔をしていた。

「そっか…あたし…そんな事してたの…」

ごめんなさい、と彼女は俯いた。

謝ることではない、と秋風が言った。

「其方の事情も知らずに踏み込んだ我らが悪かったのだ。謝るのはこちらの方ぞ」
「そうだね、ごめん」

奏と秋風、鏡伽は揃って頭を下げた。

「そんなことないよ!むしろ…感謝しなきゃいけないのはあたしだよ!」
「え…?」

思わず顔を上げた奏達に、佑莉は続けた。

「助けてくれて本当にありがとう。あたし、あのままだったら体に戻れなかったかもしれないんでしょ…?体に戻ることを諦めてたから…まだ戻れるって、迎えに来たよって言ってくれただけでも嬉しかったの。帰っていいんだって、居場所があるんだって…すごく嬉しかったの。だから…」

謝らないで、お願い。

彼女はそう言うと、深々とお辞儀をした。

「助けてくれて、迎えに来てくれて本当にありがとう」

すると、奏達は微笑んで、

「…佑莉、おかえり」
「おかえり、佑莉」
「佑莉様、お帰りなさいませ」

と、口々に言った。
驚いた様子で顔を上げた彼女だったが、嬉しそうな様子で、心からの笑顔でこう言った。

「うん、…ただいまっ!」

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