視える俺は苦労が絶えない
視える俺、幽霊の君
俺は小さい頃からこの世のものではないものが見える。触れることもできれば、話すことも出来る。
見える事が普通で、家族全員がそうだったから自分が「おかしい」なんて思いもしなかったし、幸いなことに、小学校から今までも見えたり、喋れたり触れたりする事ができるというだけで偏見したりいじめられたりすることはなかった。
傍から見れば周りと何ら変わりない男子高校生。
夜の姿は誰も知らない。
「あー、終わった終わった」
『奏、そう言えば、今日は本家に顔出せと言われていた日ではなかったか?』
今日も学校を終えて帰り道を歩く途中、守護霊である秋風にそう言われ、思い出したくもない用事を思い出し、ギクリと肩を跳ねさせた。
奏は思いっきり秋風を睨んだ。
「…思い出したくなかった用事を思い出させるの得意だよな、お前」
『おや、何か変なことを言ったか?』
「行きたくないんだよ、あそこには!」
まぁまぁ、と宥めてくる秋風を無視して、横断歩道で立ち止まる。
目の前の大きな交差点は、車通りが多く、人も多い。人が多い分、この世のものではないもの達の目線が突き刺さるのがひしひしと伝わる。
それを極力無視ようと顔をあげた時だった。
前下がりのボブカットの女の子がすぐ真横を駆け抜けて道路に飛び込もうとしていた。目の前には大型トラックが左折してくるところだった。
咄嗟に腕を伸ばして彼女の腕を掴んで引き寄せ、間一髪何とか免れることが出来た。
「バッ…!お前何やってんだよ!」
『お主、何考えておるのだ、無駄な事を…』
「離してよ!あたしは死ぬんだから!」
泣きじゃくる彼女を何とかあやそうとするが、ここでは場所が悪すぎる。
「っ、とにかく来い!」
彼女の手を握り、奏は家まで彼女を連れて帰った。
いつもの帰り道を外し、遠回りをくりかえしながら泣きじゃくる彼女を連れて屋敷の門をくぐると、奏は秋風に声をかけた。
「秋、もういいよ」
奏の住む屋敷の中は結界だらけで、秋風が力を使わずとも霊が実体化する。
秋風は奏が触れた霊を一時的に周りにも見せることが出来るのだ。
秋風は声をかけられて力を解き、首を回した。
「ふぅ、力を使うのは骨が折れる…」
「ごめんごめん、今日はちょっと長く歩いたからな」
「全くだ、遠回りにも程があるぞ」
「だからごめんて。ちょっと休んでていいよ」
先に主屋に戻る、と言い残し、秋風は先に行ってしまった。
2人きりになり、状況を読み込めないでいる彼女に向き直る。
「俺の名前は大澤奏。君の名前は?」
「…芦屋佑莉」
「佑莉か、いい名前だね」
ちょっとついてきて、と奏は佑莉の様子を見つつ先を歩き出した。
この屋敷にはその霊の思い出のある場所を映し出せる場所がある。そこは「心魂ノ鏡池」と呼ばれ、力が強い者しか入ることが許されない場所。故にこの家で許されているのは奏ただ1人だった。
「ここは…?」
「ちょっと待ってて。…鏡伽」
池に呼びかけると、紫色の直垂を着た男が姿を現した。
佑莉は驚いて奏の後ろに隠れると、背中にガッチリと張り付いた。
「驚かなくていいよ。こいつは鏡伽、この「心魂ノ鏡池」の番人だ」
「鏡池…?」
「鏡伽と申します。以後、お見知りおきを」
ちらりと背中から顔を出し小さくお辞儀をすると、また後ろに隠れた。
「ここはね、心魂ノ鏡池と呼ばれる場所なんだ。その人が、今で言うなら君の思い出の場所を見つけられるところだ」
「…ない」
「え?」
「あたしに思い出の場所なんてないっ!」
彼女はそう叫ぶと、彼女の周りから負気が立ち込め、みるみるうちに瞳は赤く染まり、光が消えた。
「…マズイ」
「これはとんだ状況ですね、奏様」
「あぁ…ここまでとはね」
「まさか堕霊しているとは…」
堕霊。
生きている間に暗い過去を背負ったまま亡くなり、引きずっているパターンと、生霊として精神と繋がっている状態で霊が不安定のパターンがある。
彼女の場合はどっちだ。
判断材料が少なすぎる。
どうすれば…。
「でも、まだ完全じゃない」
後ろから違う声が聞こえ振り向くと、秋風が立っていた。
「秋、呼んでないよ」
「うるさい、呼んでなくともこの気配は察知できる。全く、お前という奴は…だが、まだ助けられる。お主ならやれる」
奏、潜れ。
奏はハッとし秋風を見た。
「あれは…!」
「もう手段がない。直接引っ張り出すしかない」
「この鏡伽もお力添え致します」
ここまで言われては、やるしかない。
覚悟を決め、持っていた鞄を投げ捨て、佑莉の前に立ち、佑莉の手を握る。
佑莉は一瞬驚くものの、離そうと引っ張ったり指を剥がそうとしている。
「帰ってくるまで持ちこたえとけよ」
「無論」
『我に身を預けよ。堕ちたその御身、我が承る!』
奏と佑莉は意識を失い、佑莉の記憶に潜っていった。
見える事が普通で、家族全員がそうだったから自分が「おかしい」なんて思いもしなかったし、幸いなことに、小学校から今までも見えたり、喋れたり触れたりする事ができるというだけで偏見したりいじめられたりすることはなかった。
傍から見れば周りと何ら変わりない男子高校生。
夜の姿は誰も知らない。
「あー、終わった終わった」
『奏、そう言えば、今日は本家に顔出せと言われていた日ではなかったか?』
今日も学校を終えて帰り道を歩く途中、守護霊である秋風にそう言われ、思い出したくもない用事を思い出し、ギクリと肩を跳ねさせた。
奏は思いっきり秋風を睨んだ。
「…思い出したくなかった用事を思い出させるの得意だよな、お前」
『おや、何か変なことを言ったか?』
「行きたくないんだよ、あそこには!」
まぁまぁ、と宥めてくる秋風を無視して、横断歩道で立ち止まる。
目の前の大きな交差点は、車通りが多く、人も多い。人が多い分、この世のものではないもの達の目線が突き刺さるのがひしひしと伝わる。
それを極力無視ようと顔をあげた時だった。
前下がりのボブカットの女の子がすぐ真横を駆け抜けて道路に飛び込もうとしていた。目の前には大型トラックが左折してくるところだった。
咄嗟に腕を伸ばして彼女の腕を掴んで引き寄せ、間一髪何とか免れることが出来た。
「バッ…!お前何やってんだよ!」
『お主、何考えておるのだ、無駄な事を…』
「離してよ!あたしは死ぬんだから!」
泣きじゃくる彼女を何とかあやそうとするが、ここでは場所が悪すぎる。
「っ、とにかく来い!」
彼女の手を握り、奏は家まで彼女を連れて帰った。
いつもの帰り道を外し、遠回りをくりかえしながら泣きじゃくる彼女を連れて屋敷の門をくぐると、奏は秋風に声をかけた。
「秋、もういいよ」
奏の住む屋敷の中は結界だらけで、秋風が力を使わずとも霊が実体化する。
秋風は奏が触れた霊を一時的に周りにも見せることが出来るのだ。
秋風は声をかけられて力を解き、首を回した。
「ふぅ、力を使うのは骨が折れる…」
「ごめんごめん、今日はちょっと長く歩いたからな」
「全くだ、遠回りにも程があるぞ」
「だからごめんて。ちょっと休んでていいよ」
先に主屋に戻る、と言い残し、秋風は先に行ってしまった。
2人きりになり、状況を読み込めないでいる彼女に向き直る。
「俺の名前は大澤奏。君の名前は?」
「…芦屋佑莉」
「佑莉か、いい名前だね」
ちょっとついてきて、と奏は佑莉の様子を見つつ先を歩き出した。
この屋敷にはその霊の思い出のある場所を映し出せる場所がある。そこは「心魂ノ鏡池」と呼ばれ、力が強い者しか入ることが許されない場所。故にこの家で許されているのは奏ただ1人だった。
「ここは…?」
「ちょっと待ってて。…鏡伽」
池に呼びかけると、紫色の直垂を着た男が姿を現した。
佑莉は驚いて奏の後ろに隠れると、背中にガッチリと張り付いた。
「驚かなくていいよ。こいつは鏡伽、この「心魂ノ鏡池」の番人だ」
「鏡池…?」
「鏡伽と申します。以後、お見知りおきを」
ちらりと背中から顔を出し小さくお辞儀をすると、また後ろに隠れた。
「ここはね、心魂ノ鏡池と呼ばれる場所なんだ。その人が、今で言うなら君の思い出の場所を見つけられるところだ」
「…ない」
「え?」
「あたしに思い出の場所なんてないっ!」
彼女はそう叫ぶと、彼女の周りから負気が立ち込め、みるみるうちに瞳は赤く染まり、光が消えた。
「…マズイ」
「これはとんだ状況ですね、奏様」
「あぁ…ここまでとはね」
「まさか堕霊しているとは…」
堕霊。
生きている間に暗い過去を背負ったまま亡くなり、引きずっているパターンと、生霊として精神と繋がっている状態で霊が不安定のパターンがある。
彼女の場合はどっちだ。
判断材料が少なすぎる。
どうすれば…。
「でも、まだ完全じゃない」
後ろから違う声が聞こえ振り向くと、秋風が立っていた。
「秋、呼んでないよ」
「うるさい、呼んでなくともこの気配は察知できる。全く、お前という奴は…だが、まだ助けられる。お主ならやれる」
奏、潜れ。
奏はハッとし秋風を見た。
「あれは…!」
「もう手段がない。直接引っ張り出すしかない」
「この鏡伽もお力添え致します」
ここまで言われては、やるしかない。
覚悟を決め、持っていた鞄を投げ捨て、佑莉の前に立ち、佑莉の手を握る。
佑莉は一瞬驚くものの、離そうと引っ張ったり指を剥がそうとしている。
「帰ってくるまで持ちこたえとけよ」
「無論」
『我に身を預けよ。堕ちたその御身、我が承る!』
奏と佑莉は意識を失い、佑莉の記憶に潜っていった。
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