聖者は魔族からのリスタートを決意した!

空の青

1話 聖者転生

「あなたは次回の転生で悪を極めなければ消滅するでしょう。」
 神様いくらなんでもそれはひどくないですか。俺は今まで一度だって悪い行いなんてしたことは多分ないですよ。
   うぅっ
 目を開けるそこはいつもの場所で
 「上条先生!起きてください。」
 そこには助手の新井くんがいた。
 「この後の9時から検診でその後10時半から会議ですよ。」
 起きたばかりの人にいきなりスケジュールいうところは彼女らしいな。
 「ごめん。新井くん。ちなみに今何時?」
 寝ぼけ眼で白衣そのままで仮眠室のソファーに眠っていた俺は現在手術医をしている。
幼い頃から親に良いことをしていればいつか報われる日がくる。と徹底的に教育され人助け=医者という思考で努力していたら医者になっていた。もちろん、医者になるのは簡単ではなかった。けれど、患者さんのおかげか世界的な手術医として働かせてもらっている。
 「8時半です!」
 「そっか。じゃあ昨日というか今日の7時から1時間半しか寝てない計算になるね。」
 「そうですね。検診行きますよ。」
 この人悪魔だなと思いながら机に置いてあった手鏡を寝転んだまま片手で取り覗くそこには本当に医者かというくらいに濃い隈をはりつけた切れ目の男がうつっていた。
寝ぼけ眼のまま仮眠がわりにつかっていたソファーから起き上がろうとして落っこちる。机に掴まる立ち上がり僅かなふらつきを覚えるが無視する。
 その時ふいによぎる助けられなかった子供を思い出す。脳腫瘍が脳幹にまで達していて手のだせる状況ではなかった。その子の母親が私の服を掴み揺さぶり
 「あなたっ医者なんでしょ!?どうして……どうして!?」
 その後母親は周りの人に取り押さえられた。自分は助けられなかった後悔とそんなにも愛されていたその子に嫉妬している自分に気がついた……。
 可笑しいな嫌な思い出ばかり思い出す寝不足過ぎかな。



 その後、検診に行こうとして最近同じ配属先となった医者に
 「上条先生最近無理しすぎと違います?目の下にくま出来てますよ。そういう僕も2日まともに寝てないけれど。」
 「そうだね。俺もまともに寝てないからね。誰かのおかげで多分1ヶ月。」
 「それ、私のことじゃないですよね?」
 そうだね。君のことだよ新井くん。 
左からの痛い視線を意図的に無視しながら心の中で悪態をつく。
 「上条先生はまた新作ゲームに時間かけてるんですよね。」
 「この頃は違うよ。以前はそうだったけどね。」
 俺は社会人になってからもいわゆるゲームオタクというやつで貴重な睡眠時間すらゲームに費やしているといういわゆるゲーマーってやつだ。
 ここ2ヶ月くらいはさすがにヤバイと思い断腸の思いで封印したけどね。それでも数日に1回はやってたけど。
睡眠時間というワードは医者という職業でよくかわされる会話だ。けれどそういう話が出来るうちはある程度余裕があるということ。本当に忙しいときはそんな会話すら億劫になってくるのだ。
あれ、頭痛もしてきたな。ヤバイかも帰ったら寝よう。でも、明日も予定が……
視界がゆれ足元が覚束なくなる。まるで床が沈んだみたいにブラックアウトした。

 
 
「もし……大丈夫ですか?」
 本日実に2度目だ。誰かに起こされるのは……えっ誰!?
目を開けると目の前には美女がいた。
銀に近い髪にすっと通った鼻筋。宝石のような緑に輝く瞳。生きた人形みたいだ。
これ夢かな?僕にそういう趣味はないはずなんだけど。周りを見渡すとそこは真っ白な空間だった。しかし、その美女が座っていただろう椅子それと机がありその上にはティーカップが置いてあった。
 「あの、上条様。」
 謎の美女が語りかける。
 「はっはい何でございましょう!」
 その人は僕の前に座り真剣な顔になり
 「初めまして。私は神様です。」
一瞬にして思考が固まるこの世の中色々な趣味をお持ちの方もいらっしゃいますよね。目の前の美女が発するとは思えぬ回答に戸惑いながら思考を固めていく。
 「上条様、大変心苦しいのですがあなたはたった今、過労のためお亡くなりになられました。」 
 ついに思考が追い付かなくなる年取りすぎたかな。
きっと疲れで老化が溜まって……あれ、僕の体は?
体というキーワードに下に意識を動かしてみて気づく自分の体がそこにはなく光の集合体のようなものになっていることを。動かしてみようとするが集合体の一部が微かに揺らめくだけだった。
 「あの……1から説明してもらってもよろしいでしょうか?」
 「もちろんです。」
 そこから説明されたのは俺は度が過ぎる労働で過労死し目の前にいるのは神様エルノーナ様めんどくさいからエルナ様で。
その後落ち着きをなんとか取り戻し話を聞く。
 普通なら前世の記憶?と一緒に会ったことすら忘れるらしいのだがごく一部の例外がいるのだという。
 「それが僕ですか?」 
 「そうです。」
 僕が死んだってことはあの研究はどうなったろう。まだやりかけのゲームや論文はあと手術予定のあの子は僕のせいで助かる命が…
 次々とやり残したことが頭の中に浮かび上がっては溜まっていく。 正直涙が出そうになる。
 「過ぎてしまったことは仕方のないことです。それよりもあなた自身の問題が今は重要です。」 
 無情にもその神様とやらはさらに問題を増やすのか。
 「このままではあなたは次に死ぬと転生サイクルに戻れなくなる可能性があります。」
 聞きなれない単語がいきなり出てきた転生サイクルの意味を聞いてもよろしいでしょうか? 
 その後説明されたのを簡潔に説明すると生き物は悪行と善行でバランスがとられているらしい。例えば蚊やゴキブリを殺したことはないだろうか。疲れて苛立ったときに誰かに八つ当たりしたことはそれはいわゆる悪行の部類に入るらしい。そして、聞いていて心当たりがある人よそれならば多分バランスがとれているのだろう。
 俺は心当たりがない。小さい頃から生き物を殺しても何もないと分かっていたし。ゲームや医者の勉強以外で時間を費やしたことがほぼない。最低限の生きるための行動だけをしていた。いや、今回の件でそれすらも出来ていなかったらしいけど。
 結果天秤が善行の方に傾き過ぎたらしくどういうことかというと転生には秤のようなものがありそれで測って転生を行うのだ。もし、善行が多ければ良い転生先を選べるとかいうシステムらしい。
しかし、ごく稀に秤で測れないものが出てくるらしい。
 例えばkgしか測れない体重計にgのものをのせても測れないようにものが小さすぎて反応しないのだそうだ。その場合転生サークルはエラーをおこしその者を除外。つまり消滅を意味するという。
 俺は医者として人の命を救いまくってしまったため今、聞くとひどい話だよね。
 善行が大きすぎてしまい転生先がないとエラーを起こし急遽救済措置として次の世界で悪の限りを尽くさなければならないそうだ。
 「本当に異例中の異例なのです。悪行ばかりをしていてこうなるケースは稀にありその場合は躊躇いなく消滅させるのですが……流石に善行を沢山して来た人を無下にすることも出来ず。神託という形で夢でお会いしたかと思いますが。」
 今すごいこと言った気がするぞ流石エルナ様言うことが大きいな。それと夢?そう言えば・・・
 後の話だが、神様は生物の命はまた生まれ変わるんだから一度や二度死のうがどうでもいいだろうという大変変な方向に寛大な心の持ち主だそうで。
「また、今回の上条様の転生先ですが……これもまた特殊な例なのですが悪の限りを尽くすと言っても生きるために必要ならばその場合は悪行となりません。家畜などを殺して食べる場合はそれに値しますね。」
 「そっそうなんだ……?」
 何か含みのある言い方だな。
 「つまり?」
 「えっとつまりですね……悪行をしないと生きられないといいますかそういう種族といいますか……多分上条様にいきなり悪い事をしろと言っても無理と思いますので……今回は特別中の特別で生きるための行いだとしてもそれをカウントさせていただきます!」
 「ちょっとそれってどういう……」
 すると自分の体というか集合体の下に魔方陣みたいなものが描かれていく。
 「時間が来てしまったみたいですね。それでは良い人生を!ちなみに説明などはアイコンを使って行いますので。」
 いやいや、説明足らなさすぎなんだけど……
 地面が崩壊していくような感覚を味わいながら意識は下へ下へと落ちていった。

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