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春野ひより

対面



 二篇ほど読み進めた時、
 休憩がてら縁側を覗くと、
 既にたくさんのお客さんが来ていた。
 僕が捕囚される時刻が着実に
 迫ってきていることに気付いた。
 無意識に沈む胸の高鳴りが、
 今日はもうやめようと諭した。
 僕もそれに答えて本を荷物の群れに戻した。
 窓辺で空を見てほうけていると、
 客間から祖母の僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
 今日は何を手伝わされるのだろうか。
 少し重い足取りで客間へ向かうと、
 中には今朝の男女がいた。
 正面では祖父が胡座をかいて、
 僕を見もせずに座れ、と顎で指した。
 祖母がそそくさと退散していき、
 僕はこれから起こることが全く
 予期できずにあたふたしつつ
 男女と机を挟むようにして座った。
 はたしてこの二人が誰なのか、
 祖父は僕に何がしたいのか。

 そう言えば、今朝彼らと会う前に
 祖父と話したことを思い出した。
 手伝いではなく、
 確実に僕に何か用があるように見える。
 彼らが僕に渡したいものに
 関係しているのか。

 彼らは横目に祖父を見るが、
 祖父が何も発さないのがわかると、
 女性がひとつ咳払いをして
 前のめりになった。

「はじめまして、ではないですよね。
私たちは暁弓具店といいまして、
本日は完成しました商品をお渡ししに
参りました」

「弓具店?」




コメント

  • 小田 恵未里

    主人公目線から見た描写しかないのに、それがとても細やかに書かれているなぁ、と思いました。
    ああ、こういう仕草、話し方をする人いたかも‥、これって、確かにこんな感じだ‥、と思うくらい現実味があって、だけどちゃんと、小説らしい少し突飛な出来事もあり、続きが楽しみです。
    大変だと思いますが、これからも頑張って下さい。

    0
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