アルハンクス国王記

アキタツ

喪失

 それは地獄。
絶え間無く続く殺戮、老若男女に下されるあまりに無慈悲な鉄槌。業火の明かりはまるで太陽のようにあたりの闇を照らした。
掲げられた旗は、アルハンクス王国旗だった。よもや、祖国が我々に牙を剥き、この村を屠り、喰らっているのだ。
「な・・んて、事だ・・」
声すら出ない。この時完全に心の臓が全身に危機感を伝えていた。顔を知り親しく接し、当たり前のように愛情を注いでくれた人々が目の前で怒号と悲鳴を上げ倒れて行く。「死」が頭の中をよぎり失望と恐怖が身を縛る。
「アラン!!!」
「ロ・・ア?」
そこには先日、王都の訓練兵育成遠征から帰って来た三つ上の幼馴染の姿があった。
「立てるか!?」
「う・・うん。」
「良し、行くぞ!」
「え、何処に?」
「逃げるんだよ!うんと遠くにな!!」
「もう・・無理だよ・・僕は何ももったない。これから何をどうすれば良いかもわからない。死んだ方がいぃ・・」
その瞬間座り込んでいた自分の体が首元から持ち上げられるのを感じた。
「ふざけるな、今この瞬間にも命の火は消えて行く。殺戮の炎は上がる一方なんだよ!生きてる奴が自分のために、どうするべきか考えるのが筋ってもんじゃねぇのか!!!???」
一粒の雫が自分の目から零れ落ちるのがわかった。
「それでいい、今はな、自分の心を見失ったら本当の人間じゃいられなくなるぞ。」
「うん!」
「良し、行くぞ!!」

コメント

  • ぺんぎん食べたい

    twitterから見に来ました!

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