青春勇者はここにいる!

極大級マイソン

第16話「決闘」

「……俺と勝負だと?」
「お前、勇者だってんならそこそこ実力があるんだろう? あたしらの活動は人々の平和を守ること、半端な力しかもたない奴はいらねーんだ。……だから、あたし自らがお前の実力を見てやるよ」

 富永は自信ありげに言い放つ。どうやら本気のようだ。
 ……正味な話、幻惑魔法一発受けただけで術中にハマる奴に実力をどうこう言われるのは筋違いだと思うんだが。
 しかし俺は、富永の実力を知らねえ。そもそも戦えるのかこいつ?

「佐々江さん、富永って強いのか? というか君らって戦える人なの?」
「確かに愛久は喧嘩に強いわ。まあ他の異能者の人と比べて……って言われるとどのくらいの実力かまではわからないんだけど。因みに私は全然戦えないわね」
「……そ、それに私達の活動って、失くし物を探したり、困り事の相談に乗ったりっていう、戦いには無縁な内容ばかりをこなしてるから、別に強さとかは、関係ないと、思うんだけど」

 佐々江さんと久喜さんはそう証言した。
 この様子だと、メンバーで戦闘が出来るのは富永だけのようだ。
 しかし異能者の戦い、かぁ。
 異世界では日夜訓練・実戦に明け暮れていた俺だが、異能者という未知の能力者を相手にするのは初めてだ。
 ……どうする? 現実世界では、平和に過ごすためになるべく戦闘は避けようと思っていたけど、経験を積むという意味でテストを受けるか?

「要するにお前と軽くバトれば良いんだな? 楽勝じゃねーか」

 俺がこれまで調べた情報から察するに、メンバー内で俺に敵う奴は居ないはずだ。それに、生の殺し合いという訳ではないんだし面倒事は起こらないだろう。
 俺は平和に現実世界を生きるつもりだが、勇者の力を使わないつもりは無い。
 だって、その方が絶対楽しいから。
 強者は弱者を支配し、従え、搾取する。
 これ、異世界と現実世界共通の真理ルール。世の中持っている者が勝ち組なのだ。
 よって、富永との模擬戦はある意味で俺に都合が良い。ここで圧倒的な力の差を見せつければ、互いの格差とやらを証明することが出来るだろう。もちろん、俺の頂点が不動な者であるという証明をな!

「で、テストはいつ行うんだ?」
「そうだなぁ……。なるべく人が少ない方が良いし、今日の二十時にグラウンドで始めるか。遊舞の能力があれば警備員にも見つからないし」
「……わ、私も、集まらないと、駄目?」
「あと、いくら人が少ないからって夜間の校内に入るのは校則違反よ?」
「他に適当な場所がねーんだ。何も悪さをする訳じゃねーし良いだろう」

 ふむふむ、二十時か。
 そういえば、うちって門限あったかな? 朝帰りをしている身分で今更門限も何もねーけどさ。

「それなら今からそれぞれ作戦タイムだな。二十時になったらグラウンドに行くから、俺は自由にしているよ」
「うん。それじゃあまた後でね」
「逃げるんじゃねーぞ」

 メンバーの皆に別れを告げた俺は、エーデルに再度《透明化》をかけてから部屋を出た。
 時計を確認すると、約束の時間までは数時間ほど時間があった。

「さあて何して待ってようかなぁ?」
「御主人、ワタシ部活見学に行きたいです!」
「部活見学? ……確かに今は放課後、生徒達が部活動に励んでいる時間だなぁ」

 エーデルの提案に乗り、俺達は時間まで各部活動を見て回ることにした。
 最初にグラウンドへと向かってみると、そこではサッカー部と野球部と陸上部がそれぞれ自分達のスペースで練習をしていた。皆、汗を流しながら青春の味を噛み締めているのが見て取れる。

「見ろよエーデル、あれがサッカーっていう球技だ。ボールを足で運んでゴールネットへ入れた回数で勝敗を決めるゲームだ。そしてあっちが野球、攻守に分かれて点を取り合う球技。陸上は、色々な種目があってそれぞれによって己を鍛えている。日頃の努力が結果となる競技だな」
「皆さん、一生懸命頑張っていますねぇ」
「ああ、あれぞ青春だ!」

 俺が以前までやりたくても出来なかったこと、輝かしい俺の憧れだ。
 俺は、いつか彼らのような青春を楽しめることを夢見て、青春のお手本のような彼らをただじっと眺めていることにした。
 ……それからどれくらい時間が過ぎただろうか? 
 俺とエーデルがグラウンドの方面を眺めていると、不意に声を掛けられた。

「おい」

 振り返ってみると、そこには見知った顔があった。

「お、お前は!?」
「ようやく見つけたぜ待浩二」

 着崩した黒の学ランに赤毛に染めた短髪。
 以前、ハンバーガー屋で俺達に絡んできた辰馬という不良だ。

「この間は、急に体調が悪くなっちまったけど、今日はあの時の果たせなかったケリをつけにきたぜ! 俺と勝負しろ! 浩二!」

 辰馬はそう言って構えた。

(やれやれ、今日はよく戦いを挑まれる日だ)
(どうしますか?)
(この辰馬って奴は俺の幻惑魔法を耐え抜いた根性がある奴だからな。相手にとって不足はない)

 という訳で俺は辰馬と勝負をすることになった。
 しかし、ここでは場所が悪いので開けた場所へ移動する。辰馬が言うには、この近くに公園があるそうだ。
 移動中、俺は辰馬に話しかけてみることにした。

「なあ、今更言うのもなんだが何で俺に戦いを挑むんだ? わざわざ制服で学校を特定してまで、俺にこだわる理由はないだろう」
「ああ、この前はハンバーガー屋でイチャつくお前がムカついたから絡んだが、それとは別に戦いたい理由が出来た」
「理由?」
「お前、実は結構強いだろう? 俺は相手の立ち振る舞いを見れば大体の実力がわかるんだよ。そして何よりお前の眼、……戦いに飽きてもっと面白い刺激を求めている《強者》の眼をしている」

 辰馬がつらつらと述べた台詞、それは俺の事情を知っているかのような言葉だった。
 やはりこの男は只者ではない、そう思っていると辰馬がこちらを振り向いて言った。

「まあお前が何者かは知らねーけどよぉ、男なら拳交えた方が話は早いってもんだ」

 辰馬は、ある種馬鹿っぽくも清々しい台詞を吐いた。
 つまりこの男、純粋に俺と戦いたいがために俺を探していたらしい。
 ……何というか、異世界でも現実世界でも稀に見るであろう人種だなぁ。

「そろそろ着くぞ」

 辰馬の言う通り、正面に公園の敷地らしい場所が見えてきた。

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