青春勇者はここにいる!

極大級マイソン

第12話「『ARC』と書いて『アーク』と読む」

 俺が現実世界に帰還してから一週間が過ぎたことになる。時が経つのは本当に早い。
 そんな訳で月曜日の放課後、早くも学校の授業に飽きてきた俺の前に、佐々江美典さんが俺の席に近づいてきた。

「マチくん! この後予定はあるかしら?」
「ん……。別に無いけど、どうしてだ?」
「昨日、皆んなと話し合った結果、マチくんにも私達のことを話そうってことになったの! だから、これから一緒にアジトまで来てくれないかしら?」
「わかった」

 俺は、素直に同意した。
 とはいえその情報は、昨晩の時点で監視をさせていた風の精霊から既に伝え聞いている。だが、向こうはそのことに気づいてない様子なので、ここは敢えて惚けておいた。

(しかし、あの程度の監視にも気付かないとは、奴らのセキュリティー能力も大したことないな)

 そう密かに思いながらも、俺は佐々江さんに連れられて部室棟にある例の部屋へ向かう。
 部屋に入ると、そこには既に久喜遊舞と富永愛久が居た。

「……どうも」
「おう、美典。待っていたぞ」
「じゃあ、マチくんはそこの椅子に」
「うむ」

 俺は、佐々江さんに勧められた椅子に腰をかける。

「さて、今日はお前らについて教えてもらえるってことだが……」
「その前に、あのメイドさんは居ねーのか?」
「んっ。エーデルならそこに居るぞ」

 俺は《透明化》を解除する。すると、今まで隠れていた銀髪メイドの姿が三人の前に現れた。
 突然のことに驚く彼女らを他所に、エーデルはニコリと笑みを浮かべた。

「も、もしかして、授業中もずっとクラスに居たの!?」
「……全然気が付かなかった」
「このメイドさんも、能力が使えるのか?」
「透明になる力も俺の能力だ。こいつに特別な能力は何一つ持っていない」

 正確には、エーデルにも《魔法無効化スキル》という特殊能力を持っているが、彼女らが魔法という存在を知らなければわざわざ説明する必要はないだろう。

「……一人で複数の能力を持っているのね」
「珍しいのか?」
「いえ、少数ではあるけど特に珍しいという程ではないわ。私の知り合いにも、複数の能力を保有する人は居るから」

 ふーん。やっぱりこいつら以外にも能力者は居るのか。
 彼女達には聞きたいことが山程ある。
 一つ一つ尋ねていきたいが、焦りは禁物だ。慎重に質問を重ねていこう。

「では、前回の時はお前らの名前を紹介をしてもらったよな。今回は、このグループについて教えて欲しい。そもそも、ここは一体どういう所なんだ?」
「……知りたいか?」

 富永が勿体ぶった素振りで俺に尋ねてくる。
 俺がコクリと頷くと、富永はしばし沈黙した後。

「じゃあここからは課金制だ。うちの組織の情報が聞きたければ金目の物を寄越しな」
「こらっ」

 ポコリと富永の頭が叩かれた。

「……金銭物の請求か」
「ご、ごめんねマチくん。この子お馬鹿だから時々とんでもないことを言ったりするけど、悪い人ではないの。同じ能力者同士だし、マチくんには是非愛久とも仲良くしてもらいたいと思っているんだ」
「soudayo」

 片言ボイスで同意する富永。
 まあ、こいつが変な奴だというのは大分前から気付いているから特に問題はない。

「ちょうど良い。金目の物なら既に用意してあるぞ」
「えっ! マジで!?」
「エーデル。例の物を」
「はい御主人」

 エーデルは、懐から一枚に紙切れを取り出し、それを富永に手渡した。

「……これは?」
「ハンバーガー屋のクーポン券です。お受け取りください」
「……まあ、メイドさんからの贈り物ってことで良しとしてやろう」

 良いのかよ。ちょっとふざけたつもりだったのに。
 それにしても富永の奴。エーデルにだけ『メイドさん』呼ばわりだが、もしかしてメイドが好きなのか? 先日、あれだけ俺をメイド趣味だって揶揄っていた癖に。

「という訳だ童貞ケチカス屑野郎。このあたしが直々に説明してやるから、その腐った脳味噌をフル回転させて有難く拝聴しやがれ」
「そして俺には口汚いんだな! 敵視し過ぎじゃねーか!?」

 何故だ!? 何故俺にだけこんなに当たりが強いんだ!? 
 この組織は、男には厳しくしなければならないっていう掟でもあるのか!?

「私達は、異常な能力に覚醒してしまった者達。通称、《異能者》と呼ばれる存在だ。そしてここは、そんな異能者達が能力を使って街の平和を守る組織。組織名は《ARC》!」
「ARC、だと?」
「因みにARCの正式名称は、『aberrant Relief Club』よ」
「……異常者を救済する部、か」
「そう。元々、この組織はあたし達のように能力を覚醒してしまった人々を救うために作った所だったんだ。だけど、せっかく手に入れた能力を有効活用しないのは勿体無いだろう? そこで、あたしらの能力を使って人々を安全に導こう。人助けをしようって考えに至ったって訳だ」

 なるほど、精霊から伝え聞いた情報と符合するな。
 異能者の救済をしていた組織が、人々を救済する組織になった。そう言うことだ。

「しかし、何で『部』なんだ?」
「その方が親しみ易いじゃねーか。あと、《ARC》って響きが格好良かったからだ」
「俗な名付け方だったんだな。というかその口ぶり。まさか組織の名付け親って……」
「……う、うん。そう。愛久が、この部の創立者でリーダー。私たちが加入する前は、ずっと一人で部を運営していたんだって」
「……こいつが?」
「あ? なんか不満そうだなぁ」

 富永は、その幼い容姿で偉そうに腕を組んでいる。
 歳不相応過ぎてなんか笑えるぜww

「別に不満はねーけど、アレだ。一人で組織を運営するとか大変だっただろう?」
「まあ、去年は殆どアジトでダラダラ過ごしてたけどな。自分から異能者を探しに行こうって気分にもならなかったし」
「おい」
「でも数ヶ月くらい前に偶然、別のクラスの美典が異能者だってことに気付いてよ。そんでトントン拍子に遊舞も見つけて一気にメンバーが三人になったんだ」
「そして、今回のマチくんも含めてこの学校で四人の異能者を発見することが出来た。そこで私達は気付いたの。ここには私達以外にも、能力を手に入れた人達が居るかも知れないって」

 俺達以外に、特殊な力を持つ人が居る。しかも、それが不特定多数である可能性か。
 確かに、それは俺も考えていた。
 異世界に戻ってからというものの、俺は以前の生活ではあり得ないような不思議な現象に幾度と遭遇してきている。するとここで、一つの仮説が成り立つのだ。
『俺が住んでいたこの日本という国には最初から特殊な人間が多く存在していた』という説だ。

(異世界の勇者としての力を手に入れたことで、現実世界の裏側へ続くルートに進める条件を手に入れたとでも言うのだろうか? ……だとすれば、こいつらの流れに乗るのはマズイな)

 俺の目的は、青春の日々を味わうこと。人助けはおろか、異能者なんていう奴らと関わるのは真っ平御免だ。
 俺がそう結論付けたところで、佐々江さんは改まって俺の顔を見据えてきた。
 ここからの台詞はわかっている。昨晩に精霊から得た情報によれば……。

「それでね、マチくん。出来ればマチくんもうちの部に入って欲しいんだ。ここなら、同じ異能者同士気兼ねなく話し合えるし、能力で困ったことがあれば私達の力で解決できるかも知れない。それに、メンバーが増えれば人助けの活動にしても行動範囲が広まるから私達にとっても有難いの。だからお願い!」

 佐々江さんは、手を合わせて俺に頼み込んだ。
 やはり予想通り。佐々江さんは、俺をこの組織、部に加入させるつもりのようだ。
 しかし残念ながら、それに関しての答えは既に決まっている。

「悪いけど、俺は面倒事に関わるつもりは無い。気楽に人生を送りたいんだ」

 俺は、ハッキリと申し入れを拒否する旨を伝えた。
 それに対し、佐々江さんは見てわかるくらいに落ち込んだ。

「で、でも、何故自分に能力が覚醒したのかもわかるかも知れないし」
「知らなくても使わなければ良いだけの話だ。逆に能力と向き合う方が俺には危ないと思えるぜ。力を持っていることが誰かにバレたら、それを利用しようとする奴らが現れる可能性だってある」
「そ、そうだけど……」
「それに人助け? 俺は、知らない奴のために自ら動こうとする程出来た人間じゃない。他を当たってくれ」
「う、嘘よ! だってマチくんは……」

 必死に俺を説得しようとする佐々江さん。
 何故、そこまでして俺を参加させたいのか見当もつかないが、俺の意思は変わらない。
 俺は、この世界で青春を……




「マチくんは…………異世界を救った、勇者様なんでしょう!?」




 …………………。
 …………。
 ……。
 佐々江さんは、俺が予想し得なかったとんでもない台詞を口に出した。
 俺、そしてエーデルは、互いに驚愕した表情を浮かべただろう。
 その瞬間だ。


 何処かから。
 ここではない『何処か』から。
 女の子のクスクスとした笑い声、そんなあり得ない幻聴が俺の耳に届いたような気がした。

「青春勇者はここにいる!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く