青春勇者はここにいる!

極大級マイソン

第10話「このリア充に鉄槌を!」

「おいおいテメェ。人様の前で何イチャついてんだ見せつけてんのか?」
「ここは往来の場じゃけえ、周りのことも考えてもらいたいのぅ」

 学ラン姿の不良達は、厳つい顔で俺達を凝視する。
 というか、あまりに突然のことで驚いている。彼奴らは一体何者なんだ!?

「はい御主人。程良く冷めたスティック状の何かです♪」
「ポテトな。お前はちょっと向こう行ってろ」
「じゃあ、追加で何か買ってきますね」

 そう言って、エーデルはカウンターの方へ向かう。一応、金は持たせてあるけど、彼奴まだ何か食う気なのか?
 まあ良い。取り敢えず、今は現れた不良達の相手をしなくては。
 ……しかし、こういうガラの悪い連中に絡まれるのは、現実世界では初めてだな。異世界では、酒に酔ったおっさんが難癖付けてきたり、腕に覚えがあるにーちゃんが喧嘩しに襲ってきたりは日常的なイベントだった。俺は勇者だったから、街に繰り出せば嫌でも目立つからな。
 そのために、仲間を連れて警備をしてもらったりしてと身を守っていたんだが、現実世界に帰った今は、頼れる仲間がエーデルしか居ない。そしてエーデルは、絶対に俺に歯向かった連中を容赦無くボコボコにする。
 異世界では、それでもある程度許されただろうが、ここは現実世界の日本だ。警察沙汰になるような騒動は避けなければならない。
 この不良達が、どんな理由で俺に絡んできたかは知らないが、面倒事に発展する前に追い返すのが吉だろう。
 という訳でくたばれッ!! 必殺の幻惑魔法ッッ!!!!

「ぐっ、グォアアアアアアアア!!!!」

 無詠唱で魔法を発動すると不良の一人が、突然大声を上げて苦しみ出す。他の不良達も、驚いた様子で叫ぶ仲間を見ている。
 ふはははっ! 現実世界の不良如きが、この俺に楯突くからこうなるのだ! 
 今俺が発動した魔法は、幻惑魔法《恐怖》! その名の通り、受けた者は恐怖を感じてしまう魔法だ!
 名も知らぬ哀れな不良よ! 元勇者の恐ろしさ 、身を以て知るが良い!!

「ぐっ、ぐぐぐぐ!!」

 ……ところが、予想外の出来事が起きた。
 在ろう事か幻惑魔法を受けた不良が恐怖に屈することなく耐えて続けているのだ。
 馬鹿な、あり得ない!? 
 しかし、驚愕する俺にも関わらず、遂にその男は俺の幻惑魔法を打ち破った。

「はぁ……はぁ……! な、何だ今のは!?」

 男は、全身から大量の汗を流しながら自らに起きた現象に疑問を投げかける。
 一方、俺は意外な事態に内心混乱していた。
 幻惑魔法は、神経に干渉する魔法。その用途は、知能活性化、感情コントロール、記憶改変等である。
 人体の重要器官、例えば《脳》に干渉出来るということは、その人の全てを握れるといっても過言ではない。先程俺が放った魔法は、小規模ではあるが確実に奴の脳に恐怖という感情を呼び起こしたはずだ。
 人間が感情の生き物である以上、幻惑魔法はあらゆる人間に有効だ。
 これに対抗する手段は主に四つ。

 一、幻惑魔法を無効化又は封じる魔法や道具を使用する
 二、幻惑魔法を受けても耐え抜ける強靭な心を持つ
 三、幻惑魔法を受けたのが人間より強い生物又は化物
 四、幻惑魔法を受けたのがそもそも生き物ではない

 魔法が存在しない現実世界で、一つ目の手段を取るのは難しい。
 では二つ目だが、これも現実的ではない。何故ならこの《強靭な心》とは、例えるなら『本物の怪物と激闘を繰り広げた後にお化け屋敷に入る』とか『鮫に襲われそうになった後にパニック映画を見る』等の状態を指すからだ。謂わば、恐怖心が薄れているということ。
 それは、多くの死の間際を見た者だからこそ辿り着ける境地。聖者、英雄、狂人、或いは勇者と呼ばれる存在である。
 他に考えられるのは、山に篭って仙人になる、坊主になって悟りを開く等だが、それは一般人が何十年と修行をした場合だ。
 現実世界の、しかもただの不良程度が得られるものではない! まだ三つ目と四つ目の方が現実的だと断言できるくらいだ!

「おいおい、どうした辰馬。大丈夫か?」
「あ、ああ……。平気だ」

 ……しかし、今目の前には幻惑魔法を耐え抜いた男が確かに存在している。
 他の仲間にも同じ魔法をかけてみたいという欲求はあるが、それは抑えておこう。
 とにかく今は、面倒事になる前にこの場を去ろう。考えるのはその後だ。

「ごしゅじ〜ん! 買ってきました〜!」
「おおエーデル! 戻ったか……って、お前ソフトクリームを買ってきたのかよ!?」

 見ると、エーデルは渦巻き状のアイスを両手に持ってこちらに近づいてきていた。

「甘くて冷たくて、初めて見る食べ物ですけど美味しそうです。御主人!」
「まあ確かに、安くて美味いわな」
「はい! あ〜ん♪」
「……お前、まさかそれがやりたいからわざわざ買ってきたのか? あーん」

 エーデルから差し出されたソフトクリームにパクッと食いつく。
 モグモグ。
 ……やべぇ、美味いじゃねえか。久しぶりに食うとやっぱ美味いな、ソフトクリーム。
 って、そうじゃねえよ! それより早くこの場から……。

「では、二つ目もどうぞ」
「いや二つ買った意味よ!」
「片方が御主人の分で、もう片方が御主人に食べさせるワタシの分です! あ〜ん♪」
「訳がわからんが、これ食ってすぐ出るぞ。あー……」
「だああああああッ!! イチャイチャしてんじゃねえええええええええ!!!!」

 不良の男、確か辰馬と呼ばれていた奴が大声を上げて『あーん』を遮った。
 エーデルは、やや不快な表情を浮かべるが、俺は正直この男に底力に敬意にも似た感情を抱いていた。
 最早、精魂尽き果ててもおかしくないその状態でなお前を向くその姿は、まさに『漢』! 
 果たしてこれ程の漢が、現実世界にあとどれくらい居るだろうか!?
 辰馬は、真っ直ぐした瞳で俺の顔を見て口を開く。

「お、表に出やがれっ! 俺が、テメエのそのムカつく根性。……ゼェ、叩き直してやる……!」

 フラつく体を仲間に支えられながら、辰馬は俺に勝負を喧嘩を申し込んできた。
 当然、周りの奴らはそんな辰馬を制止する。

「馬鹿言ってんじゃねえ辰馬。既にフラフラじゃねーか」
「きっと疲れが出たんじゃろう。辰馬は少し休んどけぃ」
「ていうか俺ら滅茶苦茶目立ってますよ。騒ぎになる前にもう行きましょう」
「おお、あんたら。うちの馬鹿が迷惑かけたな。こいつの相手は俺らでしておくから、引き続きデートを楽しんでくれ」

 不良達は、瀕死の辰馬を引きずりながら店を後にしようとする。
 退室間際、辰馬は最後に叫んだ。

「お、おい! お前、名前は何だ!?」
「……待、浩二」
「待浩二だな! 覚えてろよ、いつか必ず会いに行くからな!!」
「この馬鹿。サッサと行くぞ!」

 不良にも常識人は居るようで、イケメン風の男が無理矢理に辰馬の首根っこを掴んで離れていった。他の不良達も、それに続いて店を出て行く。
 残された俺はというと、何が起こったのか理解が追い付かず惚けている状態でいた。

「な、何だったんだ今のは?」
「それよりも御主人! あの人、『デートを楽しんで』って言っていましたね! ワタシ達のことカップルだって思ってくれてたみたいですよ♪」
「……お前は能天気だな」

 俺は結構、ビビっている。現実世界は異世界と比べて平和ボケしている連中が多いと内心思っていたけど、まさか近くにあんな歯応えがありそうな奴が居たとはな……。
 おっと。感心するのはおかしいな。何故なら今の俺は、普通の高校生! かつての勇者のように戦いに明け暮れる日々は終わったんだから!

「……周りの人に見られてますね御主人。これからどうしましょうか?」
「ああ。本当はもう少し買い物とかするつもりだったんだが、疲れたし、今日はもう家に帰ろう」
「むぅ、デートはお開きですか。残念です」
「次は、エーデルにまともな服を用意してからにしような。後、髪の色とオッドアイも隠せるようにしたい」
「そんなに色々変えちゃったら、御主人がワタシだって気づかなくなっちゃいますよ!」
「阿保か。俺がエーデルを見間違えるはずがねーだろう」
「ごしゅじ〜ん♪」

 甘えた声色でエーデルが飛びつく。
 一瞬、周りの視線がまた厳しくなったのを感じて、俺はようやく彼らの視線の意味を悟った。

(ああそうか。客は、店でたむろする不良よりも、衆人環視の中イチャついてるカップルの方が腹立たしいのか)

 と。
 俺達は、ハンバーガー屋を後にして帰路に着いた。エーデルは、買ってきたソフトクリームをそれはもう嬉しそうな表情でペロペロ舐めている。
 俺はというと、今日あった出来事について振り返っていた。
 学校にある秘密の部屋。
 不思議な力を使える少女達。
 幻惑魔法を耐え抜いた不良。
 とはいえ、あの異世界を生き抜いてきた俺にとっては、どれも些細な出来事ではある。勇者時代は、この何十倍も酷いハプニングが起きてたからなぁ。この調子で何事も起きなければ良いんだが……。
 だから帰り際、俺は信じてもない神様に祈りを捧げた。


 ……どうか、俺の青春が平和なものでありますように。

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