青春勇者はここにいる!

極大級マイソン

第9話「メイドさんとのラブラブデート♡」

 結局、話し合いは後日改めて行うということなり、俺達は秘密の部屋から一時解散した。
 俺は、三人がいる部屋から少し離れた場所で呪文を唱える。

「精霊召喚」

 直後、何もなかった空間に三匹の精霊が現れた。
 この精霊は、風の力を司る《風の精霊》。その姿は人間の女性のようにも見えなくない。
 主に神秘的な森の中に住んでいる異世界の存在だが、必要があってたった今俺が『生み出した』。
 風の精霊の能力は、強風を起こしたり風のように速く軽やかに移動できるというものだ。更に隠密技能にも長けているため敵の偵察に使うこともできる。

「例の三人を尾行しろ。何かあれば情報を送れ」

 俺の命令を受けた精霊達は、早速少女達の元へ移動を始める。
 これで、あいつらの動向が監視できるようになるはずだ。
 本来なら、こんな回りくどい方法を使わなくても良いんだけど、今はまだ直接危害を加える行為は避けたい。
 今日の話し合いではつい相手に敵意を見せてしまったが、完全に敵対関係になった訳ではないからな。戦争に発達する前に、友好的な関係を築けるよう努力すべきだ。
 だがまだまだ情報が足りてない。あの三人の関係性も、能力も、裏の存在も明らかになっていない以上、何の対策も無しに『仲良くなりましょう』と近づくのは迂闊過ぎる。
 俺が美少女だったら最悪、薄暗い地下室で屈強な男達に囲まれるエンドにまで発展するシナリオだ。
 あの精霊が有力な情報を手に入れてくれれば良いが、彼女達には隠密能力を使える奴が居るだろうから、あまり期待し過ぎないでおこう。
 それよりも、俺達はもっと根本的な方針を決めなければならない。


 あの少女達と仲良くするのか?
 それとも敵対するのか?


「エーデル、お前の意見が聞きたい。あの三人は信頼できると思うか?」
「……信頼はできると思います。しかし、彼女達と仲良くするのは反対です」
「ほぅ。それは何故だ?」
「だって三人共、凄く可愛いじゃないですか! 彼女達がもし、ワタシの御主人を誑かすようなことになったら……!」

 ……そう言えば、こいつはこういう奴だったな。
 俺はハァとため息を吐いて、おもむろにエーデルを抱き寄せた。

「あっ……」
「馬鹿だなぁエーデルは……。俺がお前を置いて他の女に靡くと思うか?」
「ご、御主人っ♡」

 俺の口説き文句に、エーデルはうっとりとした表情で俺を見つめる。どうやら一瞬でときめいてくれたようだ。
 ふっ、ちょろい女だぜ。
 しかし、実際のところ彼女達は紛うこと無き美少女だ。一人論外きんぱつが居るが、それを鑑みてもお近づきになりたいと思ってしまうのが男の性だろう。何も知らなければ声くらいかけてたかも知れないからな。
 ……ま、色好みは置いておこうか。
 それよりも佳境的速やかに実行すべきことがあるはずだ。
 と、思っていたが、ここでエーデルが一つアイデアを出した。

「いっそのこと無視しますか?」
「無視か。確かに、それも一つの手だな。わざわざ関わり合いを持つメリットも無いし」

 俺が元の世界に戻ったのは、勇者としての生活をやめて、出来るだけ楽しく愉快に暮らしていくためだ。妙なゴタゴタに巻き込まれるのは御免被りたい。

「……じゃあ、取り敢えず無視しておくか。最低限精霊に監視をさせて、もしなんかあったらその時に対処するということにして」
「良いと思いますよ。そもそも平和な国で暮らす庶民は、裏の騒動に巻き込まれないものです。主人公じゃないんですから」
「……主人公。主人公かぁ」

 かつては、俺もその立場に居たんだよなぁ。
 でも、異世界の魔王は倒され勇者は生まれ育った世界に帰った。元勇者は、普通の高校生に戻ったんだ。
 もう俺は、勇者ではない。勇者としての力は引き継がれても、あの冒険劇の幕は終焉したんだから。
 そう。だから俺が今すべきことは、勇者の力で現代ファンタジーに片足を突っ込むことではない。
 勇者としての人生を乗り越え、新たなスタートを切ることなんだ!

「……どうやら俺は、異世界での暮らしが長過ぎて、平和な日本での暮らし方を忘れていたようだな」

 だとすれば話は早い! 
 平和な国で暮らす庶民として、普通の高校生として、改めて青春を謳歌しようじゃないか!

「よしエーデル、俺は決めたぞ! これからは、自分が元勇者であることは忘れて、第二の人生を歩もうと思う!」
「その域です、御主人!」
「手始めに、まずは美味いもんでも食いに行こうぜ! エーデルに日本のファーストフードを食わせてやるよ!」
「おおっ! ……あ。でも御主人、お金は持ってるんですか?」
「大丈夫大丈夫。適当にその辺の奴からパクば済む話だ」
「平和な国の庶民から逸脱していますよ!?」

 俺達はそんな冗談を交えつつ、学校を離れて街へ繰り出した。
 因みに、まだ授業は残っていたのだが、面倒臭いからサボることにした。
 庶民ではあるが、真面目ではない。
 この辺が勇者以前からの性分。待浩二のそもそもの人格なんだろうなと、俺はそっと自己分析をするのだった。



 *****



 現実世界を代表するファーストフードと言ったら何か?
 俺は勿論、ハンバーガーを推すね!
 そんな訳で、ここは商店街のとあるハンバーガー屋さん。俺が異世界に召喚される前は、よくこの店を利用したもんだ。
 では早速、懐かしのソウルフードに齧り付くぜ!
 モグモグモグモグモグモグ…………。
 美味い! これぞ日本の食い物だぜ!! ……まあ、発祥は確かアメリカだったけどな。
 異世界にも、ハンバーガーっぽい物は存在したがやはりそれとこれとは別よ。俺はこの店のハンバーガーが食いたかったんだからな!
 そして、隣に座るエーデルも、ハンバーガーを美味そうに食べていた。

「どうだエーデル。この店のハンバーガーの味は?」
「はい! とても美味しいです! それにこのハンバーガー、手で掴んで食べるなんて今まで無い発想で面白いです!」
「現実世界では、おにぎりやサンドイッチや、手で掴んで食べる食べ物は結構あるぞ。皿なんて必要ないんだ」

 異世界と現実世界。どっちの飯が美味いかと聞かれたら甲乙つけ難いなぁ。どちらもそれぞれ良い部分はあったし。
 だけど、異世界は人間以外の『亜人』という生き物も暮らしていて、彼らの作る料理は基本的に味覚に合わなかった。やっぱり、味覚の違いってのはどうしてもあるからな。

「モグモグ。……それにしても、なんでお前、わざわざ俺の隣に座ってるんだ? 向かいの席の方が空いてるぞ」
「あ、お邪魔でしたか?」
「一対一の席で同じ椅子に二人で座ってるんだぞ? どう考えても狭いだろう」
「いや〜ワタシの心が、御主人とどうしても隣同士で座りたいと囁いてるんですよ〜」
「そうか」

 エーデルのこういう行動は割といつものことなので、俺は特につっこまない。
 しかし、流石に同じ椅子に二人はきつい。出来れば四人用の席に移りたいが、あいにく他の席はいっぱいのようだ。
 仕方ない。諦めてハンバーガーの味を楽しもうか。
 そう思っていると、エーデルがおもむろに自分のハンバーガーを俺に向けてきた。

「御主人。あ〜ん♪」
「ん、あーん」

 俺は特に躊躇うことなく、そのハンバーガーを口にする。
 モグモグ。

「……ふふっ♪ 美味しいですか?」
「大変美味だ。もっと寄越せ」
「はい! あ〜ん♪」

 モグモグ。……ごくんっ。
 うん、美味い。ハンバーガーはまさに、青春のスパイスだぜ!
 そうそう、お楽しみはハンバーガーだけではない。この細長いポテトポテトも、この店では欠かせない必須アイテムだ。
 おおっ! しかも出来立てで熱々じゃないか! 俺、ポテトは出来立てが一番好きなんだよな〜!

「これは何ですか?」

 スティック状の食べ物を見て、エーデルは首を傾げる。
 その瞬間、不意に俺の悪戯心が芽生えた。

「さっきのお礼だ。食べさせてやるよ」
「本当ですか!?」
「ほれ。あーん」
「あ〜ん♪」

 大きく開かれたエーデルの口に、俺は熱々のポテトを差し込んだ。
 すると案の定、熱い物咥え込んだエーデルの表情が目まぐるしく変化し出した。

「ムゥ!? ム、ムグゥ〜〜〜ッ!!」
「ほれ。水だ」

 熱さで表情がコロコロ変わるエーデルに水が入ったカップを差し出す。
 エーデルは、サッとカップを受け取るとそのままグビグビと水を飲んでいく。
 ……そう言えば、異世界にはストローも無かったな。何か急に思い出したぜ。

「もう、御主人! わざとやりましたね!?」
「ははっ、悪い悪い。ちょっと揶揄ってみたくなったんだ」
「む〜!」

 水を全て飲み干したエーデルは、御立腹な表情で俺を睨んでいる。
 でもこういう時のエーデル、普段の時とは違う可愛さがあって俺は好きだ。
 ……何て言うと、またこいつは調子に乗りそうだから言わないでおこうっと。

「じゃあ御返しです! 御主人にはこのジュースを飲んでもらいます!」
「……ただのコーラにしか見えないが、何が入ってるんだ?」
「何も。しかし、これは先程ワタシが口を付けた物なので、正確にはワタシの唾液が含まれています」
「汚い表現はやめろ。……まあ、変な物が入ってないなら飲むよ」
「へへぇ〜。御主人と間接キス♪ 御主人と間接キス♪」
「……飲みにくいなぁ」
「でしたら、それもワタシが飲ませて差し上げます。御主人、あ〜ん♪」
「赤ん坊か! ジュースは普通に飲むって。や、やめろ! ストローを俺に向けるな!」
「は〜いごちゅじ〜ん♪ ごはんのおじかんでちゅよ〜♪」
「く、くそっ! 主人に対して無礼な態度を取りやがって! あ、こらぁ!」
「ふふふ〜ん♪♪」





 …………チッ!!





「「ん?」」

 俺達が食事を楽しんでいると、突然妙な舌打ちのようなものが聞こえてきた。
 周りを見渡すと、俺は他の客がやけに俺達の方に視線を向けていると気付いた。客達は、いかにも不機嫌ですといった感じで眉間にしわを寄せている。
 エーデルも客の反応に気付いたようで、不思議そうな表情を浮かべた。

「……? 御主人、皆さんはどうしたのでしょうか? やけにこちらを睨んでいるような……」
「多分、あれだろう。お前の格好が目立つから気になってるんだ」
「やっぱり、日本でメイド服は目立ち過ぎますか?」
「警察とかに職質された時、返事に困るな。知り合いに声をかけられた時には、『コスプレが趣味の従姉妹です』とでも答えておけば良いが」
「果たして銀髪オッドアイな異国風の少女が従姉妹であることに、お知り合いは疑問には思わないのでしょうかね」
「お前、自覚があるなら隠す努力くらいしろよ!」

 何でこいつは、こんなに目立つ外見なんだろう。製作者の趣味か?
 ……その時だった。
 俺達が集まるテーブルに、何者かが姿を現したのだ。
 俺は、気配を察知して其方を振り向く。
 するとそこには、着崩した服装に派手な色の髪をした、如何にも不良ですといった青年が数人程立っていた。

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