青春勇者はここにいる!

極大級マイソン

第1話「役目を終えた勇者はただ去るのみ」

「いやーこの世界ともいよいよお別れだな」
「寂しくなりますね。御主人」

 俺は、高い山の山頂から広大な景色を眺めていた。遠方には綺麗な街並みとそれを覆う美しい自然が広がっている。
 ……この世界とも、あと数十秒でお別れか。
 俺、待浩二はこの世界での出来事を振り返っていた。
 あれは高校の夏。突然、白い光に包まれたかと思うと見知らぬこの世界に連れてこられた。曰く、俺を勇者として召喚し、世界のために魔王を倒して欲しかったそうだ。帰る手段がない俺は、言われるがままに勇者としての生活を送ることになった。
 そして、そんな異世界で俺を待ち受けていたのは、苦労の日々。
 休む日もなくレベル上げに専念し、各種装備の入手も怠らず、仲間を増やして次の街へ。
 おかげで、無事魔王を倒すことができ、世界に平和が訪れたが、正直言って俺はこの世界があまり好きではない! 出来ることなら、元の世界に戻りたいとずっと思っていたのだ!

「そんな訳でエーデル。準備は良いか?」
「はい御主人! 支度は万全に整っています!」

 メイド服を着た眼鏡少女が、ビシッと敬礼する。
 このメイドは、俺の専属メイド。名前はエーデルという。
 容姿は現実世界の高校生くらいだが、実年齢はなんと二歳! エーデルは、この世界の研究者が作り出した機械メイドなのだ。
 腰まで伸ばした銀色の髪に、翡翠色と瑠璃色のオッドアイ。背丈は俺の肩くらいの低身長だが、自己主張が激しい豊満な胸を所有しているのが魅力的だ。本人曰くFカップらしい。
 元々エーデルは、魔王を倒すため作られた《戦闘用アンドロイド》だったのだが、俺の勇者としてのカリスマ性に気付いたらしく、結果俺に仕えるメイドとして現在は行動を共にしている。魔王を倒し、お役御免となった俺に付き添ってくれるたった一人の相棒だ。
 ……こいつとも、何だかんだで二年の付き合いになるんだな。時が経つのは早いもんだ。

「それにしても、本当に良いのか? 俺についてきて。もう二度と戻れなくなるかもしれないんだぞ?」
「勿論です! ワタシは、御主人の専属メイドですから! それに、魔王が倒された今、ワタシはこの世界で生きる意味を失いました。ならば、いっそのこと心機一転! 新しい世界に行って第二の人生を歩むのも悪くないかと思っています!」
「……お前も、随分とフリーダムな性格になったもんだな。まあ、嫌いじゃないが」

 戦闘用アンドロイド、エーデル。
 戦いだけが生きる意味だった彼女が、こうして明るく喜びに満ちた表情を浮かべてくれるのは本当に嬉しい。
 新しい世界。つまり、俺の生まれた世界で、エーデルはどのような生活を送ることになるのか気になるものだ。当然、俺も一緒に付き添うが、日本に着いた後は全くのノープランなので少々不安だったりする。
 ……さて、そろそろ現代世界への扉が開く時間だ。
 苦節五年。俺はついに、元の世界に帰還する!

「じゃあ行くぞ! エーデル!」
「はい! 御主人!」

 ギィィッと、大きく神々しい扉が開かれた。
 俺達は、迷うことなく扉の奥へ進んだ。どこまでも続く長い道のりを一歩一歩踏みしめていく。
 そして、どれくらい進んだのかもわからなくなってきた時、俺は不意に意識が遠のくのを感じた。



 *****



「ぐがー! ぐがー!」
「いびきがうるさい! いい加減起きてください御主人!」

 ポカポカ!
 誰かが俺の頭にゲンコツしてくる。俺は、ふわぁと欠伸をしてから目を開いた。
 目の前には、エーデルがいた。というか、エーデルの顔が間近に迫っていた。あと十センチくらい近づけばこのままキスができそうな距離だ。
 いや、そんな事よりもここはどこだ? 
 俺は確か、元の世界に戻るために扉を開いたはずだ。
 転移は成功したのか? ここは俺の住んでいた世界? 
 だとしたら、そうだ。まずは周辺の把握を……。

「いや、待て。それよりも何なんだ! この異様に不快な臭いは!? まさかガス類……!」
「ああそれはワタシ達が生ゴミの上で横になってるからですよ」
「うぇあっ!」

 俺は慌ててその場を飛び退いた。
 ……黒いビニール袋がいっぱい。そしてこの悪臭。なるほど、確かに生ゴミだ。エーデルの言う通り、どうやら俺達は生ゴミの上で眠っていたらしい。
 うう〜んどうも記憶が曖昧だが……少なくとも、扉を潜り抜けたところまでは覚えている。
 俺は周囲を見渡す。
 軒並みとアスファルトの地面。勇者として暮らした世界では見なかった建造物と人工物だ。
 現実世界だ! そしてここは、どこかの住宅街の道路で間違い無い!

「やったぞエーデル! 俺達は現実世界に来れたんだよ!」
「やりましたね御主人!」
「これで面倒な勇者生活とはおさらばだぁ!! イヤッホォーーーー!!」

 はち切れんばかりのテンションで、俺はエーデルに飛びついた。
 私見だが、エーデルの抱き心地は控えめに言っても最高だと思う。アンドロイドって機械だし固そうなイメージがあったけどすごく柔らかくて癒されるんだ。
 そうやって俺が一頻りエーデルを抱っこしていると、次第に通行人が増えてきて、道行く人達が俺達に視線向けてきた。

「ん? はしゃぎ過ぎたか?」
「そうですね御主人。感動に打ち震える気持ちは理解できますが、少し自重した方が良いかもしれません」

 そういえば今更だが、エーデルのメイド姿はこの世界ではかなり異様な格好だった。無事に帰れた以上、エーデルの新しい服も用意しないとな。
 俺は、通行人に視線を移した。
 ……よく見ると、制服を着た男女が多いな。もしかして今は登校時間なのか? 
 道行く人らの制服には見覚えがあった。五年前まで俺が通っていた高校の制服《鏡音第一高等学校》の制服だ。
 そういえば、俺が五年前に転移された時も登校時間だったか?

「まさか、今日はあの時……。俺が転移された直後の時間なのか?」

 だとしたら都合が良い。元の世界でどれくらい時間が過ぎてたかによって生活スタイルを合わせようと思っていたが、これならば普通に前と同じように生活すれば良いだけだ。
 そうやって俺が思案をしていると、通行人の一人が俺達に近づいてきた。
 鏡音第一の制服を着た女の子だ。どこかしら見覚えがあるような気がする。

「……マチくん? 何やってるのこんな所で? というか、その格好は……。それにそのメイドさんは一体」

 肩で切り揃えた艶やかな栗色の髪。吸い込まれそうな綺麗な瞳。
 なるほど、紛う事なき美少女がそこにはいた。胸も大きくて大変よろしい!
 ……思い出した。佐々ささえ美典みのりさんだ。
 俺と同じクラスで、確か巨乳で有名な人だったぞ。うん、憶えてる憶えてる!

「やあ、佐々江さん。久しぶりだね!」
「え、昨日会ったばかりだと思うけど……」
「そうだった? まあいいか。そんな事よりも俺達はこのあと用事があるからこれで失礼」

 そう言って、俺はエーデルを引き連れて自宅に帰ろうとする。
 自宅までの道のりは、五年経ったと云えど流石に憶えてた。この道をまっすぐ行って途中を右に曲がれば到着するはずだ。

「え、どこ行くの!? 学校は!?」

 佐々江さんが驚いた口調で言う。
 久しぶりの現実世界で会えた知人ではあるが、これから忙しくなるし相手にするのも面倒なので適当にあしらうことにした。

「えぇっと、今日は休む。それじゃあ佐々江さん、機会があればどこかで会おう!」
「失礼します」

 俺とエーデルは、アスファルトの上を歩く。
 異世界にあった石の道とも違う、屈強な地面。
 何だか少し懐かしい気分だ。
 一方、エーデルは現実世界に興味津々らしい。周りにある物を指差して俺に尋ねてくる。

「御主人! あれは何ですか!?」
「自動車だよ。人や荷物を運ぶこの世界での乗り物。馬車よりも早くて揺れが少なくて快適だぞ」
「御主人! あれは!?」
「自転車。歩くより早くて移動に便利だ。今度乗り方を教えてやるよ」
「御主人御主人! み、見てください! 人が空を飛んでますよ!?」
「今度は何……うわぁ何だあれ!? 板みたいな物で空を飛んでやがる!! あ、新しいスケートボードか!?」

 そして歩くこと数分。
 家まで割と近くてよかった。無事、自宅へ到着だ。
 どうやら自宅には誰もいないようだ。まあ、皆仕事やらで出掛けているのだろう。

「エーデル。鍵開け」
「はい御主人!」

 エーデルは、懐から針金を一本取り出すとそれを鍵穴に差し込んだ。
 鍵開けはエーデルの専売特許。異世界では、この特技のおかげで何度も助けられた。
 戦闘用アンドロイドにしてはあるまじき特技だとは常々思うが、細かいことは気にしないのが吉だろう。

「むむぅ、前の世界とは異なるタイプの鍵ですね」
「開きそうか?」
「余裕です! どれだけ複雑な施錠だろうと、罠さえ仕掛けられてなければこんな物……」

 カチッと、施錠が解除された音が響いた。
 ドアノブを回し、中を開くとそこには懐かしい風景があった。玄関、下駄箱、靴、廊下の左隣に座敷、何もかもが懐かしい。

「エーデル。お前に、日本での生活をする上で大事なことを教えよう」
「??」
「玄関では……靴を脱ぐんだッ!!」

 そして、俺とエーデルは二階の俺の部屋に上がった。
 ここもかつては見慣れた部屋だった。机の上に小学生の頃集めていた《恐竜ヒーローシリーズ》のコレクションが飾ってあるのも含めて全てが思い出となり蘇ってくる。
 現実世界に帰ってきた。その事実を嫌でも思い知らせてくれる。
 さて、今後のことを考えるためにも、二人で話し合う必要がありそうだ。
 エーデルを適当に座らせ、俺はベッドの上に腰掛けた。

「御主人、一つ良いですか? ワタシは今、ワクワクしてるんですよ! 御主人が言っていた通り、現実世界には見たことがない不思議な物がたくさんあります! 」
「喜んでもらえて良かった」

 時々、俺も見たことがない物が飛んでたりしてたがな。
 まあ何はともあれ、無事に家に帰ってくることが出来たな。感傷に浸りたいのは山々だが、まずはやるべきことがある。
 カレンダーを見て日付の確認。記憶は曖昧だが、おそらく俺が異世界へ召喚された日にちで間違いないはずだ。これで俺の衣食住は保証されたことになる。
 問題はエーデルだ。異世界の、それもアンドロイドであるエーデルが現実世界で受け入れられるとは思えない。おまけに戸籍も無いし、身分を示せる物も無いときた。
 しかし、俺達には《魔法》という素晴らしい武器がある!

「エーデル、俺達が日本で平穏に生活するためにも、お前には俺の家で暮らしてもらう。別々の場所で暮らしていては、何かと不便だろうからな」
「わかりました」
「俺の家族には《幻惑魔法》をかけて、エーデルは最初からこの家の住人だったことにしよう」

 俺、待浩二は、魔王を倒す勇者として様々な魔法を習得している。
 そのうちの幻惑魔法には、対象の脳に干渉し記憶を操作する高位魔法があり、これを唱えれば難なくエーデルを衣食住揃った我が家に住まわせることができるのだ!

「そういう訳でだ。これからエーデルは、俺の妹という設定で家族の一員になって貰おうと思う」
「い、妹!?」
「え、何か不服だった? 一番違和感がない関係だと思うんだけど」

 あ、でも俺には既に妹がいる。エーデルを妹にするなら、2人の関係をどうするべきか悩むな。エーデルは姉にするべきか、妹にするべきか……。
 そうやって俺が悩んでいると、エーデルは、少し恥ずかしそうな表情で口を開いた。

「出来れば《恋人》という設定が良いです」
「何で未成年の恋人が俺の家に住んでるんだよ!」
「そこは魔法で都合良く記憶を改変して……。そうですね。御主人の御両親が、ワタシをとても気に入っているということにしましょう! それで信頼関係が結ばれて、家族公認で同居してると!」
「え、じゃあナニ? 俺達、今後は恋人同士として生活しなきゃならんのか?」
「……ダメ、ですか?」

 エーデルが潤んだ瞳で上目遣いに俺を見つめる。控えめに言ってかなりあざとい。
 だが、控えめに言って滅茶苦茶可愛い!

「まあ、特に困らないから別に良いけど」
「ありがとう御主人♪ あ、そういえば御主人って現実世界では学生だったんですよね?」
「ああ。思ったより滞りなく元の世界で暮らせそうだし、早速明日から高校へ通ってみようと思ってる」
「ごしゅじーん♪」

 エーデルが甘えた声で俺を呼ぶ。こういう声を出す時は、大抵俺に頼みがある時だ。

「……どうした?」
「ワタシも、一緒の学校に通って良いですか?」

 とんでもないことを言い出したなオイ。家族間ならともかく、幻惑魔法は大多数に向けて効果を発揮する魔法じゃない。どうやって俺の高校に通うつもりだ?

「因みに通えるようになるまでの計画プランは特に考えてません」
「無いのかい。……だが、わかった。今すぐには無理だが何かしら手段を考えておこう」

 屋内ペットじゃないんだ。エーデルをずっと家に居させるのは可哀想だ。それに、現実世界に慣れてないエーデルが何かしら問題を犯さないとも限らない。俺のメイドは優秀で働き者だが、たまに歯止めが効かなくなる時があるからな。

「御主人大好きですぅぅ!!」

 喜びの声を上げると同時に、エーデルは俺に飛びついた。勢いを殺し切れず、俺達はベッドの上に倒れ込む。

「おいおい。暴れるなよ」
「あ〜〜っ、もう一生付いていきますからねぇ。ごしゅじ〜〜ん!!」
「ははっ、お前は本当に可愛い奴だなぁ」

 仰向けになる俺の上でバタバタと跳ねるエーデルは、まるで小学生のように無邪気だ。初見の奴なら、誰もこいつのことを戦闘用アンドロイドだとは思わないだろう。
 そして、俺達がそうやってイチャイチャしていると不意に部屋の扉が開かれた。

「お兄ちゃん? 忘れ物を取りに帰ったんだけど、学校も行かずに何を騒いで、る……の?」

 俺の部屋に入って来た人物は、ベッドの上でイチャついてる俺達を目撃して膠着した。
 その人物は俺の妹、まち心愛ここあ。黒髪ショートで胸は成長期。確か年齢は、十五歳で高校一年生だったはずだ
 そんな心愛は、心霊現象でも見てしまったかのような表情で怯えていた。
 自分の理解が及ばないものを見てしまった人は、時に常識では考えられない行動を取ってしまうという。
 しばらくの沈黙の後、心愛は急に方向転換し、部屋を飛び出した。
 要するに、心愛はこの場を逃げ出したのだ。

「あ、マズイ!」

 俺とエーデルは、急いで心愛の後を追う。
 あらぬ情報が漏れる前に、妹の記憶を消さなければならなくなってしまった。

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