英雄って何ですか?

たかっしー

15話

指輪がロストの手から独りでに離れ、淡い黒い光を発しながら形が変わっていき、光が収まった場所には黒髪で巫女服を着た少女が立っていた。

「綺麗……。」

「何あれ……?」

「あれって他大陸の服か?」

それぞれが反応している中、呼び出したロストのみが冷静に対応していた。

「パートナーさん、そろそろ本気で行くので武器お願いします。」

「はぁ、また無理して…。ていうかいつも思ってた事を今言うわ。なんでパートナーって言うの?!ふざけてんじゃないわよ!!なんでそんな長年の相棒みたいに呼ばれなきゃいけないのよ!?私達まだ会ってから2年しか経ってないんだけど?!」

初登場からキレた感じで出てきて真っ先にロストに突っかかっていく美少女。

「いえいえ、付き合いは短いですが魂で結ばれているじゃないですか。」

それに冷静に返すロスト。たが、その答えに青筋を浮かべて唾を吐きながら尚も怒り続ける美少女。

「物理的にね!!魂って物理って言っていいか知らないけれども!まあ、1万歩譲って相棒みたいに思ってもいいわよ。それぞれ人の勝手だしね。だけど!それなら名前で呼びなさいよ!?ホントなんで!?訳わかんないわよ!」

「いえいえ、ミステリアスっぽくてウケるかなぁと。」

「知らないわよそんな事!!そんなくだらないことするぐらいならちゃんと人の名前を言うことの方が大事だと思うけど!?」

その言葉を聞いてロストは真剣な表情で首を横に振った。

「それは違いますよ。」

「……。」

「私が楽しむ方が大事です。」

「この野郎っ!!!!」

とうとう少女はブチ切れてロストに殴りかかった。が、その少女の拳をロストは握りしめた。

「いたたたたたたっ!!!!!!!」

少女はロストの握力の前に悶絶する。

哀れ少女。











改めてロストと少女は男と向かい合う。

「で、その女の子で何する気?盾にするの?」

「お前ら、人のことをなんだと思ってんのよ……。」

「この子、残念な割にそこそこ強いんですよ。」

そこそこ・・・・じゃないわよ!私神器!神器なのよ!そこそこじゃないわっ!」

武器の格という物は基本ない。が、例外という物は何にでもある訳だ。例えば、何処かの鍛治師が一生をかけて恨みや妬みなどの負の感情を込めて作り上げた作品は魔剣と言われる物になる。これは、先程の恨みを例に挙げると装備者をあらゆる生物に対する殺意をもつ狂人にする代わりに身体能力を爆発的に上げるという効果を与えるなど、何か特殊能力を持った武器という物は存在する。こういうマイナスやプラス関係なく特殊能力を持った物は希少価値が高いためそれぞれの階級を作りどの程度なのかと言う査定にかける。そして、その階級の下からいうと普通、魔具、遺器、星器、神器と呼ばれる。魔具まではある一定の実力で作られるが、遺器は1人の人生全てをかけて作ってなんとか入るかなという難易度で、基本ダンジョンなどから出土される。だが、星器は1つのダンジョンに片手分ぐらいしかなく、神器にいたってはダンジョンに1つしかない。

が、そんなの関係なくロストは突っぱねる。

「うるさいですね。ちょっとはお淑やかにできないのですか。」

「あ、な、た、がっ!怒らずからでしょうが!」

「ふーん、どうでもいいけどそんなので戦えるの?」

「もう許さない!!馬鹿にしやがって!」

「ならさっさとしなさい。」

ロストに答えるように少女は先程の光を発す。そして、現れたのは刃が黒い小ぶりの脇差だった。
その脇差からとんでもない威圧を周りに与え、生徒は冷や汗を出し、男は体を強張らせていた。が、脇差を見たロストは落胆していた。

「はぁ、これですか……。」

「仕方がないじゃない。貴方の魔力量、殆ど残ってないんだから。」

その会話を聞いた男の表情は引き攣った。

「……これで、殆ど残ってない?冗談じゃない。こんなの、どうしろって言うんだよ……。」

「さぁ?知りませんよ。だから言ったでしょう。怒っている・・・・・って。」

「クソォォォォ!!」

男はなりふり構わず全身に魔力付与と身体能力上昇を掛けてロストに向かって走り出した。
そして、合わせるように脇差を持っている右手を後ろに引き、同じく右足を引いた。

「その力に驕った考えを後悔しなさい。」

男とロストが交わる瞬間にロストは男に横一文字の斬撃を放った。

「がはっ。」

男は倒れた。








戦闘を終わらせたロストは指輪の少女ーーーレイーーーに男を拘束させ、その後に縛られた生徒たちを解放させた。そして、解放された生徒たちに戦闘をしたもの達を集めて横に寝かせた。

「戦闘をしたのはこの5人で全員ですか。その内重傷者は4人、と。まぁ、聞きたいことはいろいろあるでしょうがまずは治療ですね。アーカム君は肋骨にヒビが入っていて、カノン君は全身打撲に脳に少しダメージが入ってますね。レディアンは全身切り傷多数、右腕骨折に神経を酷くやられていますね。更に足にも刺し傷。頭蓋骨も少しヒビがいっていますね。でモーリス君、君は前の2人より重傷なの分かってますか?」

傷が深そうな前衛2人よりも一見・・無傷そうに見えるモーリスの方が重傷と聞いて生徒たちは不思議そうにしたが、モーリスだけは顔をしたに向けていた。

『え?』

「……。」

「はぁ、自覚症状あり、と。君、魔力を自分が出せる量を無理やり超えさせた上にない魔力を更に無理やり残りカスさえ出す勢いで出そうとして足りない部分を空気中から取り込んで出したでしょう?」

「はい…。」

「まぁ、確かに空気中から取り入れる方法というのはありますが、君には無理があり過ぎましたね。だから今、呼吸するのも辛いでしょう。が、意地だけで平気に出来るんですから[演技]スキルを持っていたとしてもその胆力は賞賛されるべきでしょう。もっとも、この様なことでなければの話ですがね。」

そこまで聞いて、ほかの生徒たちは肋骨にモーリスの重傷度がどれほどなのかは分からなくとも深刻さは伝わったのだろう。生徒たちは顔を青くしている。

「せ、先生、モーリスを責め、ないでくれない、でしょうか?」

そんな中、カノンがモーリスを庇おうと寝転がったままだが、言葉で庇おうとした。

「それは教師として無理ですが、お仕置きはしませんよ。ただまぁ、今すぐ治療した方がいいでしょうね。」

「じゃ、じゃあどうしたらいいんだよ!」

「心臓マッサージか!?」

「人口呼吸か!?」

「馬鹿!それ違うやつでしょ!」

生徒達はどうしたらいいのか分からず慌てふためいた。

「落ち着きなさい。私を誰だと思っているんですか。肩書きが多いですが一応総ギルドマスターという長ったらしいのもっているんですよ。これくらい治せます。」

「じゃあ、お願いします!」

生徒の必死の願いをいつもの微笑みで頷きながら寝転がっているモーリスの側によりながらさっき見た女性姿に戻った。

「安心しなさい。きちんと治してあげますから。」

そうして微笑みながらモーリスの頭を持ちながら上半身を上げて目を瞑りーーーーキスをした。

『えーーーーーーーーーー!?!?!?』

「な、何をしているの!?」

グロリアが慌てて引き剥がそうとした所、先程の少女が間に入りそれを止めた。

「やめときなさい。あいつは今治療中なのよ。これはあいつが出来る最高の治療なのよ。」

「なら隠すかどうかしたら!?」

「そんな暇が無いって言っているのよ!」

グロリア達が言い争っている間、当の本人であるモーリスは先生である女体化したロストの瞑った目を見ながら意識は曖昧な空間にいるようなふわふわした気持ちでいた。

(ああ、なんか心の底からポカポカしたようなふわふわしたような、落ち着くような気持ちになって疲れが癒される感じだ。)

本人は周りが慌てているにも関わらず頰を緩ませて呑気に堪能していた。

が、それを本能レベルで感じているのだろう。男子達は血涙を出しながら唇を噛み締め心底悔しそうにして、

(((何故、俺達はあそこに居ないんだ!?)))

と自問自答しながらモーリスを睨んでいた。

そして、キスをしてから数秒、光る線を引きながらロストは唇を離した。

「これで、大丈夫でしょう。念入りに調べながらしましたからね。では、次に酷い傷のレディアンから治していきましょう。」

そうして、いつもの姿に戻ってから今度は先ほどより全然マシな感じに手に魔力を纏って傷口に触れるか触れないかの距離まで詰め撫でるように動かしていき、手が通った後には傷など無かったような元の綺麗な肌が戻っていった。そうして怪我人4人を治療していき、30分もすると治療は終了した。


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