十年待ってチートスキルを解放したら魔法少女になった件

りょう

第7話腹ペコ精霊と王都の現状

 黒龍との邂逅を果たし、危険な状態を切り抜けながら山脈を降りていった俺達は、時間はかかったものの三日で山脈を越えられた。勿論旅団の人達と一緒にだ。

「いよいよ王都、スゥが守っているはずだけど、やっぱり不安」

 王都到着を目前にしてピリスが言葉をもらす。彼女が弱音を吐くなんて珍しかった。

「どうしたの珍しく」

「珍しくだなんて失礼ね。これでも私、心配しているんだから。特にスゥは一番大きな役目を任せちゃったから、あの小さな体が持ってくれるか不安なの」

「もうそこは信じるしかないと思う」

「テツヤもそう思う?」

「スゥは誰よりも頑張り屋だって知っている。簡単に折れたりしないし、何よりスゥは……」

 ピリスと会話をしている内に、王都の入口に到着する。その入口には、スゥが作ったと思われる水の結界が僅かに見えた。

「諦める事が一番嫌いだからな」

 俺はそれを見て一安心した。どうやら王都の安全だけは守られていたらしい。

「これ結界? 初めて見た」

 旅団の一人が言葉をもらす。それもそうだろう。こうした結界を作れるのは、この世界だと精霊族くらいしかいないのだから。
 そしてそれを守っているスゥもーー。

「あ、もしかしてシーちゃんとピーちゃん? 二人とも久しぶりー」

 結界の中へ踏みいれようとした時、また懐かしい声が聞こえた。俺達は声がした方を見ると、空から小さな体の女の子が降ってきた。

「スゥ! よかった、無事だったんですね」

「うん。ここを守る約束をしたからね! ボク頑張ったよ」

「本当、よかったですわ」

 それを受け止めたシーラが、彼女を優しく撫でながら言う。旅団の人達はクルルさんを含めて、スゥの存在に驚きを隠せずにいる。

「まさか精霊族をこの目で見れる日が来るなんて」

「こんなに小さいんだ」

「すごく綺麗……」

 俺も初めて彼女と出会った時は、驚かされた。こんなにも小さな子が、この世界で生き抜いているなんて考えもしなかった。けど、スゥは小さいながらも強く生き続けていて、彼女の元気な性格は俺達のムードメーカーとなっていた。

「とりあえず話したい事がいっぱいだから、中に入ろう!」

「あ、そうですわね」

 俺達はスゥの案内で王都の中へと足を踏み入れた。けどその中で俺達を待っていたのは、
 全てが廃墟とした家々。そして人一人気配すら感じられない街並み。
 もはやそこには、王都という名は残っていなかった。

「え?」

「スゥ、ここが本当に王都なんですか?」

「うん……。ボクも頑張ったよ、約束だから。だけど……」

 先程まで元気な声をしていたスゥの声に、急に元気が無くなる。そして彼女は、

「守れなかったんだ、沢山の人を……。ごめんなさい……」

 俺達がやって来るまでまるで我慢していたかのように、シーラの手の中で静かに目を閉じた。

「「「スゥ!」」」

 俺達三人は同時に彼女の名前を呼ぶ。しかし元気な返事は返ってこない。

「う、そ」

「スゥ! 起きてください!」

 それは二度目の転生で味わった、二度目の絶望。もう一度出会えると思っていた仲間の死。彼女は俺を認識する事がないまま、まるで安心したかのように眠りについた。

 ぐぅ

「え?」

「お腹……減ったよぉ……」

 と思っていたのはほんの数秒前の事。彼女の腹の音を聞いた途端、そんな考えがとても馬鹿らしくなってしまった。

「泣き損でしたわね」

「でも生きててよかった」

「うん」

 でもこの王都の現状は何一つ変わっていないのは事実だった。
 ◇
 スゥに食事を与えると、何事もなかったかのように彼女は目を覚ました。

「え? ボクがそんな簡単に死ぬわけないでしょ?」

 それが彼女の言い分だった。聞くところによると一週間近く何も食べていなかったらしく、俺たちの到着が少しでも遅れていたら危険だったらしい。

「それにしてもシーちゃんもピーちゃんもどうしたの? こんな小さな女の子なんか連れて。もしかして新しい仲間?」

「違うわよスゥ。あとその呼び方、いい加減やめにしない?」

「嫌だ! 気に入っているんだもん。それよりも違うってどういう事?」

「久しぶりだな、スゥ」

「え? え?」

 俺がいつもの口調で喋ると、スゥは大混乱。何度も俺の顔を見続けて、ようやく一つの結論に達した。

「も、も、もしかしてテッちゃん?」

「恥ずかしいけど、正解だよ」

「嘘ーーー!」

 王都に響き渡りそうなくらいな声でスゥは驚いた。今までで一番の驚きだった。

「ど、どうしちゃったのテッちゃん。もしかして女の子に目覚めちゃった?」

「お前忘れたのか? 転生だよ転生」

「テンセイ? じゃあ生まれ変わったの?」

「悲しい事に、な」

 俺はもはや否定もしない。すればするほど悲しくなるから。

「すごーい、まさかテッちゃんが本当にテッちゃんになるなんて」

「ややこしい呼び方するなよ。まあ、間違ってないけど」

 出会った当初からスゥは俺の事をちゃん付けで呼んでいた。それはシーラもピリスも同じで、ピリスに至っては規制が入ったみたいな呼び方になっていて、本人もそれを嫌がっている。

「じゃあこれで心置きなくなれるね」

「なれるって何がだよ」

「チーちゃんの後継にだよ」

「な、そ、それは」

 彼女の言うチーちゃんは、ここの国を治めていたいわゆる王女様。今は諸事情でいないが、彼女も仲間だった。
 それの後継ぎって、それはつまり……。

「教えてくれスゥ、ここで何があったんだ」

 彼女がこの世からいなくなった事になる。

 いや、そもそも俺は王女になるつもりはないけど!

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品