砂鯨が月に昇る夜に
奥義 20-2
帝国の強襲装甲列車の上で火花を散らすカザとラウル
受けきれない
速く重たい連撃を捌ききれずに、カザの身体は傷つけられていく
「くっ!!」
ラウルに刺された太ももの痛みに怯んだ隙
そこへ重なり合った十字の剣が迫り
カザは鋭い刃で十字に切りつけられた
しかしそれは蜃気楼のように消え
下段 雨の型 朧(おぼろ)
打棍技の弱点である超近距離
そこから放たれるゼロ距離からのアゴを狙った渾身のかち上げ
それをラウルは
片手で防いだ
しゃがみこんだカザの顔を逆に膝で蹴り上げ吹き飛ばすラウル
屋根に背中を打ちつけ倒れるカザ
ティトは口元を押さえ、今にも泣き出しそうな様子で見つめる
倒れたカザは意識が朦朧とする中、何故かナザルとの稽古の日々が思い出されていく
走馬灯だったらやめてくれ
そう思う思考とは別に、頭の中に昔の記憶が蘇る
「なぁカザ、お前『雪』って知ってるか?」
稽古の間、平石に並んで座って朝日を見て休んでいた時だった
「…知らない。何?雪って」
「昔の遺跡から見つかった本に書いてあったらしいんだが、雨が空気に冷やされて凍っちまうんだってよ!?信じられるか!?しかもそれが空から降ってくんだよ!」
「雨すら滅多に降らないのに、そんなのすぐ溶けちゃうんじゃない??」
カザはこんなくそ暑い砂漠にそんなの降るわけないと、ナザルの話を話半分で聞く
「遥昔、ここは砂漠じゃなかったんだと。四季って言って1年に4つの季節があったんだ。俺も詳しくは知らねぇが、今みたいに四六時中暑くもなけりゃ雪も降るってこった」
ナザルは立ち上がりおもむろに言葉を紡ぐ
『春芽吹き 夏恵まれて 秋の月 冬雪降りて 雪月花(せつげつか)かな』
その言葉を黙ってカザは聞くが、四季ってゆうのが分からず理解できない
「これは俺の爺さんがそのまた爺さんから引き継がれた昔の『歌』ってやつだ。俺にも意味はよく分からないが、雪月花ってゆうのはさっき言った四季の眺め、今見てる朝日と同じように、それを美しいと感じた言葉なんだと」
「………へぇ〜」
「…そうだよな、今のお前じゃまだ分からんとは思うが、身体は覚えてくれよ?その雪月花の名を冠した打棍技の奥義を今日から教える」
「…あぁ、そうゆう繋がりだったんだね」
珍しく流暢(りゅうちょう)に話すなぁと思っていたら結局稽古の続きだった
「カザ!!何やってんのよっ!!立って!!カザっ!!」
カザはティトのうるさい声で現実に引き戻される
「約束したじゃないっ!ねぇ!!カザっ!!」
必死にカザを起こそうと叫ぶティト
ラウルは立ち上がれないカザに近寄ろうと一歩踏み出した
ビキッ
ラウルは全身に痛みが走り、踏みとどまる
コメント