砂鯨が月に昇る夜に

小葉 紀佐人

闇の力 19-3


目と鼻の先で聞こえる声

何の動作も無く一瞬で間合いを詰めたラウルは両腕を振りかぶり、2本の剣を交差させて振り下ろす

カザは慌てて狩猟棍で受け止め、火花が飛び散る

さっきとは比べ物にならない程の力に踏ん張る両足が後ろへ押されるが、フッと剣から力が抜けた瞬間にカザは身体をくの字に曲げて吹き飛んだ

見たこともない速さの回し蹴りで腹部を蹴られたのだと理解したのは、離れた屋根に転がった時だった

ゆっくりとした歩みで近づくラウル

カザは咳き込みながらも立ち上がり、もう一度不動の構え、そして下段に構える

下段 雨の型 時雨

踏み込んで間合いを詰めたカザは素早い突きを繰り出すが、そのひとつひとつを華麗に避けながら2本の剣で簡単に弾いていく

その速さよりも早くラウルの剣はカザに斬りかかり、カザはそれを何とか受け流し、払ってラウルの腹部に突きを繰り出す

ラウルは跳躍しそれを避けるとそのままカザを飛び越え、振り向きざまに背中を斬りつける

が、カザは狩猟棍をナザルがやったのと同じように回転させる動きで弾き

下段 雨の型 雹(ひょう)

間髪入れない鋭い突きでラウルの顔面を狙う

ラウルはそれをギリギリでかわすともう一方の右手の剣で狩猟棍と交差するように突き上げる

カザは避ける間もないと内側から来る突きを、狩猟棍を外に押し込んで軌道を変えて避ける

が、さっき弾いた左手の剣がカザの太ももに突き刺さる

苦悶の表情を浮かべるカザ

「二刀流だって事を忘れてんじゃねーよ」

「…………。」

痛みを堪えながらカザは狩猟棍で左腕をかち上げて刺さった刃を引き抜くと、かち上げた方とは反対の端で素早くラウルの顔面を狙うが、ラウルは後ろに飛び下がり距離を置く

しかしラウルはすぐさま駆け出し2本の剣を乱舞する

カザは右脚を血だらけにしながらもその剣撃をかわし、払い、弾くが、その勢いに押されて後ろへと下がっていく

さっき屋根から落とされたティトは、いつの間にか帝国の兵士たちと一緒に2人の戦いを見守っていた

「…殿下のあの動き…人間じゃねぇよ」

「で、でもあのガキも相当やるぞ」

列車の上で火花が飛ぶ程の戦いに目を奪われる兵士たちの横で、ティトは祈るように見つめていた

ラウルの剣撃はどんどん速く強くなり、カザには避けきれない生傷が増えていく

ラウルの目の光も強くなっていき、脚の痛みで生まれた隙、ラウルは先程と同じ様に十字に構えて

カザを切りつけた



「うわぁぁぁぉぉぁぁぁぁぁあ、っあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

装甲サンドバギーのタンクに付けられたリンクシステムのレバーを引いたアズー

目の前の大漠流に突入したタンクは、流砂に囚われる事なく猛スピードで走り抜けていく

シグは横から流れ押し寄せてくる巨石群を凄まじいスピードで避けなければならない為必死にハンドルを切るが、ギリギリに避ける度にアズーとゾイが悲鳴をあげる

「ダメダメダメっ!!そっちはダメぇぇ!!」

「ぎぃやぁぁぉぁぁぁぁ!!」

後ろのバサロもガラムも声こそ出してはいなかったが、体は硬直して変な汗が噴き出る

大きな岩は何とか避けれるが、小さいと判断した岩は構わず通り抜ける為、その度に車体は小さく大きく縦に揺れる

もうそろそろリンクシステムの腐石が砕ける頃、シグが避け損なった大きな岩にタンクがぶつかり方向を変える

大漠布、砂が飲み込まれていく底無しの大地の裂け目へと

「シグ!!不味いですよ!!早く向きを!!」

「うるせぇ!やってんだけど変わらねーんだよ!!」

シグは必死にハンドルを切るが、リンクシステムの腐石の力が弱まったせいで流砂の流れにはまってしまった

「そそそ、そのリンク何とかの腐石を変えれば良いんじゃないガ!?」

ゾイにしがみつかれてガラムまで恐怖に飲まれそうになるが、シグとアズーに提案してみる

「馬鹿ですか!?今ココ開けたらタンクは木っ端微塵ですよ!?」

ばばば馬鹿ってなんだよとガラムはしぶしぶ押し黙る

そうこうしてるうちにタンクは大漠布へと突き進んでいく

そう、止まったら砂に沈むので止まれない

「どどどどうすんだよ!?」

切っても切っても方向を変えられず、お手上げ状態のシグ

目の前にどんどん迫る大漠布

タンクに乗った5人の悲鳴が

砂漠に響く

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