職に恵まれた少年は世界を無双する

雹月 庵

あのジョブって簡単になれるものなんですね

俺と輪廻は、クロエの翼に覆われていた。
黒い翼をどけると、辺りはまだ暗い。移籍の中にいたことを忘れていた。
ギルドウォッチで時間を確認する。
AM 8︰00
丁度良い時間になっていた。だが、クロエと輪廻はまだ寝ていた。起こす前に。
「スキルとレベル確認しないと。」
そう言って、立ち上がりメニュー画面を開く。遺跡の暗さにメニュー画面の明るさで、目が眩む。

【レベル】 228

【固定スキル】 瞬眼
                                  5回の瞬きでレベルup
                                 現︰2nd  

レベルはやはり上がりすぎのような気がする。
だが、これからはこんな甘ったるいことは言えないだろう。
なんたって10回の瞬きから5回の瞬きに変わったからだ。瞬きなら、10回と5回とじゃ比べものにならないほど差がある。
1日に100は上がりそうな勢いだ。
さて、確認完了したし2人を起こそう。
「クロエ、輪廻。起きろ。館へ行くぞ!」
シ───(´-ω-`)───ン
なかなか起きないな。クロエは翼を揺するとすぐ起きた。
輪廻は何しても起きない。世話のかかる子だ。
かれこれ25分が過ぎた。
AM8︰30
時間ピッタリに輪廻が起きた。体内時計のアラームが鳴った。
ぐうぅ...
「行く前に朝ごはんだな。」
「我はよい。3日に1度だけでよいのだ。」
人間は毎日食べるのに、龍族は楽だな。いいな。そんな体質になりたいものだ。そしたら、食費が減るのに。
昨日食べた分で食料は輪廻の分しかない。俺は諦めるか。
フランスパンのような硬いパンの半分をすぐにたいらげてしまった。
まだ輪廻はお腹がすいているようだ。
「輪廻。こんだけしかないから我慢な。」
クロエは安定して飛べるように、翼を邪魔にならないように動かしている。
「さて、行くか」
「主よ、どの方向にあるのだ」
「まず、外に出よう」
と言っても、入口まではだいぶ時間がかかる。クロエに天井を突き破ってもらうしかないな。そう思っている矢先、クロエが壊していた。
「ありがとう。ちょうどそれを言おうと思っていたんだ。」
「伝え忘れていたが、契約をすると相手の気持ちや考えがおおよそ伝わってくるのだ。」
そうだったのか。契約ってのは便利なものだ。
「じゃあ、行こうと思うがその前に、輪廻がまた寝てしまったから起こす。」
俺は耳元で、りぃぃぃんんんんんねぇぇぇぇぇぇ!と叫ぶ。それを8回繰り返したところでやっと起こすことが出来た。眠りが深すぎて困る。
「ふぅ。輪廻を起こすのにかなり喉に負担が...。喉が痛いな。さっさと館に行くか。」
やっと出発できる。クロエは俺と輪廻を乗せて遺跡の天井から飛び出し、俺の言った方角に向かってはばたいた。

クロエは、スピードが速く10分ほどで館が見える位置まで来ていた。
館の周りは木で囲まれているため、魔物も頻繁に出る。だから、門には兵士が2人見張っている。
兵士はこちらに気づくと、片方が館の中へ、もう片方が剣を構える。
そして、中から龍央とその他複数名出てきた。
「なんかたくさん出てきたぞ。輪廻寝るなよ。」
「主よ、こちらを警戒しているのではないか?」
そうか。1日で龍従えて戻ってくるなんて予想はできないか。
クロエは少し館から離れた場所へ着地した。
俺はクロエから降りて、足早に輪廻と館の方へ行く。龍央が俺に気がついたのか話しかけてきた。
「おぉ!昨日ぶりだな。あんなでっかい黒龍従えて、おまけにこんな可愛い子連れてやるなぁ!龍剣士にでもなったのか?」
龍剣士?ジョブのことか。
「なってない。そもそもジョブについてない。」
「じゃあどうやって契約したんだ?」
教えていいか不安だったので、クロエに目配せする。首を横に降ったような気がした。
「あー、教えることはできない。だが、輪廻は俺の担当、西南西にあった遺跡に封印されていたんだ。」
「そんな所に遺跡なんかあったか?俺は見たことねぇな。それより、食事は足りてるのか?なんだったら今日だけ食わしてやるぞ?」
龍央は強面なりにとても優しく、気が利く奴である。
「ありがとう。まだ食ってないだ。おかけで倒れそうだ。」
俺は地球でもそこそこ食べるほうだったので、昨日の分だけでは足りないのだ。
クロエは外で食事を済まし、輪廻と俺は食堂で食べる。龍央がじっと見てくるので、すごく食べにくい。
「なんだよ、龍央。」
「いや、金はどうしようかと悩んでいたんだ。そこで今日のところは金は必要ない。」
「いいのか?」
「お前、どうせ金ねぇだろ?しかも、あんな珍しいモン見せてくれたからな!」
太っ腹だ。有難くそうさせてもらおう。輪廻はまだ食い足りないのかお腹がなっている。俺はお母さんらしく言ってやった。
「輪廻、流石に迷惑だから自分でお金稼いでからな。」
「…………、カイなんかお母さんみたいで気持ち悪いよ。」
真っ当な意見だ。
(イクメンヅラでもねぇくせに何言ってんだよ(((ボソ)
あれ、輪廻のキャラが...?いや、気のせいかもな。
俺は聞き流したことにし、龍央に尋ねる。
「龍央、これからギルドに行ってジョブにつこうと思うんだが、オススメとかあるか?」
龍央は悩んだ様子を見せた。
「それは自分のステータスによるな。レベルは?」
俺はメニュー画面を開く。

【レベル】 239

これ言ったら驚くかな。俺はちょっと心配しながら伝える。
「レベルは239だ。」
龍央も食堂のおばちゃんも周りのお客さんも沈黙状態になる。
龍央が少し躊躇いながら話し始める。
「そ、そうか。随分と上がったな…。」
笑顔が引きっているのがバレバレだよ。なんとも悲しい気持ちになるものだ。
「そうだろう。俺もこの上がり具合に少し困っているんだ。」
「羨ましいやつだな。俺のレベルを悠々と超えやがってよー。昨日の朝は俺より下だったのにな。」
まだ場の空気がヒヤヒヤしている。俺、そんなヤバイこと言ったか?
「なぁ、龍央。なんでこんな静かになったんだ?」
驚かれた顔をされた。
「お前っ!そんなことも分からないのか!?今時、高校生で239なんて天才レベルだぞ!だから、みんなお前の未来に恐怖を抱いてしまったんだ。この世界では普通じゃないんだよ。」
ほぅ。そんなもんなのか。世知辛いな。
「まぁ、いい。ジョブは100レベルごとにつける数が増えてくんだ。今のお前だったら二つだな。例えばだが、二つとも剣士系にしてもいい、魔法系や剣士系別の系統にしてもいい。それはお前次第だな。つまり、俺のオススメはないってことだ。」
使えねー奴。そんなことを思いながら、外へ出る。
「じゃあ俺はギルドへ行く。機会があったら、またここに来るからそんときはよろしく。」
「おう。もう行くのか。もう少し話したかったんだがな。黒龍に落とされないように行けよ!」
黒龍って呼ばれるのなんか嫌だな
「クロエだ。覚えとけ。じゃあな」
「じゃあな。輪廻と海希とクロエ!」
そして、はばたく。
まだ龍央が手を振っている。
ギルドまではクロエだとすぐについた。やはり町の門の兵に警戒された。だが、町の兵はそこそこの知能がある。首に契約の紋章があることに気がついてくれた。そして、ギルドウォッチを見せて、町のギルドへ向かった。クロエと輪廻は、町の外で留守番だ。

そして、ギルドまで着いた。中に入ると、それなりに混雑していた。俺の制服を見るなり、オルナが駆け寄ってきた。
「今日はどうされましたか?海希様。」
別に俺はたいそれた存在じゃない。様つけはやめてほしいものだ。だが、それが店の方針なら仕方が無いだろう。
「今日は、ギルドウォッチの更新とジョブを決めるのと、依頼クエストを受けようと思って。」
「そうですか。では、更新から致しますのでどうぞこちらのお部屋へ!」
更新の度に血を抜かれるのは少々気が引けるが、慣れるだろう。
さすがに1人だと2分くらいで終わった。
オルナが手を震わせながらギルドウォッチを手渡ししてくれた。俺のランクはSSだ。プラチナはキラキラしていてとても綺麗だ。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「ひゃっ!あ、すいません!大丈夫です。まさか2日でSSまで上がるとは思いませんでしたので...。では、次にジョブ部屋に移動しますのでついてきてください。」
そんなあからさまに怖がらなくてもいいじゃないですか。レベルが上がりすぎてるからってHAHAHA。
ジョブ部屋にはギルドウォッチ型のプレートとスクリーンがあった。
「えっと、現在レベルが251ですので、ジョブは2つまで選択可能です。」
俺のなりたいジョブはもう決まっている。
レベルが上がるとステータスが上がる。つまり、俊敏性や腕力などが上がる。そうなると、拳闘士や忍者などに限られてくる。
「では、お手元のプレートへギルドウォッチをはめ込んでください。」
言われるがままにしていく。カチリッ、と歯切れのいい音がして、なれるジョブがスクリーンに映し出されていく。
そこには、2つしかなかった。もっとたくさんあるかと思ったが、期待はずれだ。
「これは!?まさか...。」
そう言うと、何も言わず走って出ていってしまった。
何が起きたんだよ。毎回なんか起きすぎのような気がする。
扉の向こうから重い足音が近づいてくる。
その前に、スクリーンに何が映ったのか確認する。
そこには、勇者、賢者、と表示されていた。
俺のゲーム知識では、勇者と賢者はそうそうなれないはず。さらに、勇者は攻撃全般、賢者は魔法全般使えるという最強のジョブだったはずだ。なぜそこに映っているのかは自分でも心当たりがなかった。
そうこう考えているうちに足音が止まり、部屋に入ろうとしていた。俺はきっとギルド長が来ると思い、一応姿勢を正す。
オルナと一緒に入ってきたのは、やはりギルド長のザレフだった。
俺の前の椅子に座ると、スクリーンを見て、話しかけてきた。
「確か...海希だったかな?君はつくづく凄いじゃないか!勇者と賢者ジョブ、2つ同時に適応されたのは君が初めてだ。だが、1つ問題がある。君は今、2つジョブの空きがあるようだが、勇者と賢者両方はつけないと思った方がいい。」
確かに伝説級のジョブだと思う。だが、つけないことはないだろうと思う。
「それはなぜですか?」
「以前、君のような才能を持った人がここを訪れた。勇者と賢者につきたいと来たのだ。そして、ここで選択した。それが人生の最後だった。その人は、そのスキルの重みに耐えられなくなり吐血し、そのまま出血多量で亡くなられた。このような悲劇を繰り返さぬよう、私はここに出向いたのだ。」
ザレフは目を瞑って話を締めくくった。
「そうなんですね。ですが、俺は戦い、死ぬためにここへ来たようなもの。生をかけて挑戦した方が後悔はないです。だから、なります。」
俺はザレフとオルナを真剣な眼差しで見る。顔を見合わせて、しばらくの沈黙のあと、俺にこう告げた。
「いいだろう。その勇敢さは勇者に近しいものだ。きっとなれると祈ろう。」
そうすると、オルナと代わって手を震わせながら、スクリーンから勇者と賢者を選ぶ。すると、ギルドウォッチにデータが送信される。
ザレフとオルナが見守る中、俺は。
「うっ...」
「どうしたんですか!?」「大丈夫か!」オルナとザレフが同時に叫ぶ。
だが、俺は何ともなかった。
「いや、無性に肉が喰いたくなっただけだ。」
さすがに俺のおかしな発言に、2人はキョトンとしている。
次に豪快な笑い声が部屋中に響いた。その声の正体は、ザレフだ。
「がっはっはっはっ!さすがだな、2日でレベル200いった者は違うな!あの時のあ奴は、15年かけて200とか言ってたからな!やはり才能だな!」
「は、はぁ」
俺は笑い方が暑苦しい人はあまり好きじゃない。ザレフはさらに、大きな野太い声で笑うため少し引いてしまった。それを見られないようにすぐさま表情を喜びのものに変える。
「やりましたね!海希様!」
オルナも一緒に喜んでくれた。ちょっと嬉しい。
「えっと、俺はそろそろ館へ戻ります。あと1つ伝えたいことがあります。このジョブに関して、内密にしてもらえないでしょうか?あまり目立ちたくないですので。」
ザレフは、顎に右手を添え、考えている。
「いいだろう。だが、更新はここのギルドでしか行えなくなるがいいのか?」
「いや、ここの反対位置にあるギルドには伝えてください。さすがに世界一周は出来ませんから。」
少し苦笑気味で言う。
「分かった。だが、だいぶ遠いがいいのか?」
「それは大丈夫です。俺達にはクロエがいますから。」
「クロエ?」
疑問を持って当然だろう。話していないのだから。
「俺の契約龍です。とてもかっこいいですよ。」
ザレフは心底驚いた顔をしている。
「なんと!龍剣士でもないのに龍を従えるとは素晴らしい!やはり勇者のジョブを持つだけの資格はある!」
「ありがとうございます。俺は明日、行きたい場所があるのでこれで失礼します。」
「そうか。残念だ。もっと話していたかったが、仕方ない。」
俺は伝え忘れていたことを話す。
「ザレフさん。SSランクが受けれる、最高金額の依頼クエストをとっておいて貰えませんか?龍殺しとか以外で。明日の朝にうけにきたいですので。」
「海希の頼みだったら構わんよ。それも意味があっての事だろう?」
いつの間に呼び捨てになったんだ?
「はい、勢力を上げたいので。よろしくお願いします!」
俺は一礼をしてギルドから、街の外へ出る。
「お待たせ。クロエ、輪廻。」
「カイ、遅い...何時間たったと思ってるの。」
輪廻がお母さんみたいなことを言うので、ちょっとウザかった。
「主よ、館へと戻られるか?」
「あぁ、戻ろう。あと、主はやめろ。せめて、カイで。」
「かしこまりました。カイ様。」
「様もなしで。つか、敬語はやめろ。」
「はい」
ちょっと敬語っぽいが許そう。
俺と輪廻はクロエに乗って、館へ戻った。

PM  3︰24

館へ着いた。
クロエが着地するなり、龍央が出てきて駆け寄ってきた。
「おう、カイ!随分早いご到着だな!」
俺...龍央に名前教えたっけ…まぁいいか。
「お前は何のジョブについたんだ?」
これは言ってもいいだろうか。俺の中に若干の迷いがある。もし、敵になってしまったらどうしよう。そん時はそん時だ。
「龍央。これはギルド面でも内密にとお願いしてある。決して他言はするなよ?」
「お、おう」
あまりの圧力に怯んだようだ。
「俺は、勇者と賢者についた。内密だからな。叫ぶなよ?」
龍央は音のない叫びを俺に披露した。実際は披露ではないが。
「そうか。もう俺を越したか…。館へ入れ。」
明らかにおちこんでいる。自分から言ってきたのに。自業自得だ。
「今日だけ泊めてもらっていいか?明日は出ていく。」
「あ、あぁ。今日だけな。うん。」
明らかに恐れている。これもこれでいいな。最強になった気がして。
そして俺は、今日も日本と同じように過ごし、眠った。

海希は世界の勇者へ、秀義は世界の魔王へ、近づいている。終焉ノ時も既に目の前にある。

そう予言したのは、地図にない孤立した島。そこには1人の予言者がいた。
その予言者はもう一つの予言を下した。

海希と秀義はどちらかが死ぬ。魔王が死んでも勇者が死んでも意味は無い。刻は止まらず動き、存在を無にし、終焉が始まる

と…………。

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