ガチャで爆死したら異世界転移しました

ひやし

人竜戦争 ⑦ 証明


「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

その場には、しばらくの沈黙が満ちた。

(うん。まぁ、こうなるよね・・・)

リーナはいつもの優しげな顔のまま硬直し、カイルもまた、少し間抜けな顔をして硬直している。
あまりの静けさにレインも喋り出せずにいた。
しかしこのままではしびれを切らした竜族達がいつ侵攻を始めてくるかわからない、レインは早々に口火を切る。

「・・・うん。まぁ信じられないと思うから、無理に信じようとはしなくていいよ。でもそうだな・・・この戦いを任せてくれるくらいには信用してもらいたいから・・・何をすればいいかな?」

「・・・あ・・・ああ、うん。俺は君のことをすべて知ってる訳では無いけど、君はそんな大それた嘘をつく人ではないとわかってはいるよ。けど・・・うん。じゃあ分かった、俺と模擬戦をしてみようか。その結果によっては、もうこの戦いを君たちに任せるよ」

レインの問いかけによって復活したカイルは、驚きを隠せないながらも条件を提示する。

「分かった。じゃあ早速やろっか、武器は・・・」

「あぁ、武器なら天幕に木刀と小盾があったから、それを使おう」

そう言ってカイルはまたもや天幕へと戻って行った。

「主様、我々はもう戦いの準備を始めていてもいいでしょうか?」

これからの勝負の結果が既に確信できてしまったメアが言う。

「うーん・・・うん。カイルには悪いけど、もう支援魔法とかは掛け始めてしまって大丈夫だよ」

模擬戦をする前から勝利を前提として話を進めるのは、カイルからしたら良い気分にはならないだろうが、負ける気が全くしないレインはそれを躊躇わない。一刻も早くという訳では無いが、レイン慎也は日本でも、面倒くさい事は早めに終わらせる主義であった。




少しすると、カイルが天幕からレイン達の方へと戻ってきた。

「すまない、待たせた。少し報告を聞いていてね。どうやら竜族達軍の編成がもうすぐ終わるらしい。そこで模擬戦は、一本勝負にしたいんだが、いいかな?  」

「うん。構わないよ。じゃあ、先に相手に真剣だったなら確実に殺せる一撃を入れた方が勝ちってことで」

「あぁ、分かった」

レインはカイルから木刀を1本貰い、距離をとった。小盾は要らないのかと聞かれたが、レインにとって盾など邪魔でしかないので貰わなかった。



「じゃあ、俺がこの子石を投げて、地面についた瞬間に試合開始ってことで」

「了解。じゃ、始めよう」

木刀をだらんと下げたレインと、しっかりと構えを取るカイルは、約5メートルほど離れたお互いを見つめあう。
ちなみにリーナはといえば、カイルが天幕から戻ってきた辺りで息を吹き返し、今は2人の戦いの行方を見守っている。

「「「・・・・・・」」」

いつの間にか集まった数人の野次馬も、この国の勇者の戦いが見れるとあって緊張で物音ひとつ立てない。

そして、カイルが持つ小石が投げられ・・・・・・地に落ちる。

ヒュン

・・・と同時に、木刀とは思えないほど鋭い風切り音が響いた。




「・・・・・・・・・ま、参ったよ。まさか、君がこんなにも強いとは・・・人は見かけによらないとは、まさにこの事だね・・・」

冷や汗を流すカイルは、いつの間にか自身の首筋ギリギリに突きつけられていた木刀を見ながら言う。文字通り、何も見えなかった・・・・・・・・。小石が地面に落ちるところを視界の隅で捉えた瞬間にカイルには、木刀と、レインの被るとんがり帽子の広いつばから覗く、その真紅の瞳しか写っていなかったのだ。
勇者であるカイルでさえこれだ、周りの野次馬冒険者など、何が起こったかも分からないだろう。

「・・・これで認めてくれる?」

今自分がしたことが何でもないことだというようにレインは、カイルに確認する。

「・・・あぁ、完敗だよ。約束通り、この戦いは君に一任する。第一、俺達が全員でかかっても竜族達には勝てなかっただろうしね」

「おーけー。じゃ、ちょっと行ってくるね」

レインは木刀を地面に刺すと、街の南門へと踵を返し、歩き出す。

「・・・あ!ちょっと待ってくれ!あとひとつ聞きたいことがあるんだ」

カイルの呼び止めに、レインは振り返る。

「なに?」

「さっきの質問でも言ったが、なぜ君たちだけなんだい?俺はこれでも勇者だ、全く役に立たないという訳では無いと思うが?」

カイルの言うことももっともだが、レインにはちょっとした思惑があるため、カイル達と一緒に戦うわけにはいかない。それに、せっかく・・・・生き返らせた・・・・・人達にまた・・・・・死なれる・・・・のは気分が・・・・・悪いから・・・・

「うーん・・・・・・ちょっと意地悪な言い方かもしれないけれど・・・・・・犠牲は無い方がいいでしょ?」

レインはそれだけ言って、また歩き出す。
カイル達は、その背中を黙って見ていることしか出来なかった。


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