選ばれし100年の最弱剣士~100年前まで最強でしたが今や最弱採取係です~

海野藻屑

第25話 地底の天変地異

ライは一歩、また一歩と徐々にモンスターに迫っている。
高速移動を使う気は感じられず、それを疑問に思ったようにモンスターは出方を伺ってじっとしていた。

モンスターが間合いに入るまであと5m、
そこでライは足を止めた。

沈黙の睨み合いが訪れる。
それは数秒続き、その後、ライはおもむろに今まで下げていた剣先を上へ向ける。
そして一瞬視線を外し、再び今度は明白な殺意を宿した目を、眼光をモンスターへ放った。

その威圧に抗うように、第二ラウンドの開始を告げるゴングーー咆哮をモンスターは轟かせた。


先に動いたのはモンスターだった。
距離があるのを考えてか、大口を開けてブレスを放つ。
ただでさえ暗いダンジョンの中でもはっきりと分かるほど黒いそれは、真っ直ぐライを狙って空間を貫くように駆けた。

ライは避ける素振りを見せず、ただじっとしていた。
このままでは当たってしまう。そう思ったとき──

ブレスに一筋の光が走り、彼女を避けるように2つにわかれた。
そのまま、2つになったブレスはガガガガッと音を立ててダンジョンの壁を抉っていく。

ブレスの分かれ目に立つライが斬ったのだろう。剣はいつの間にか下に振り下ろされていた。

彼女の眼光は、未だモンスターを捉えている。その眼光が細くなるのと、彼女の口角がカッと上がったのは同時だった。

霹靂の剣舞ラヨ・エスパルヴィア

彼女の向く方向に、一直線の稲妻が走った。
雷鳴と共に、それは闇のブレスを消滅させ、最後にはモンスターを貫く。

モンスターの体を雷が駆け巡り、それに耐えかねたのか、口からはキィという弱々しい鳴き声が漏れる。
その赤い目はほんの一瞬だけ、戦意を無くし敗北感を宿した。

ライはそれを見逃さない。
一瞬の隙に間合いへ踏み込み、モンスターに斬りかかる。
肉が裂かれる音に遅れて、雷鳴が轟いた。
追い撃ちの如く、裂けた傷に雷が落ちている。
──否、剣を振り下ろせば落ち、横へ薙ぎ払えば貫き、切り上げれば下から突き上げる。

肉を裂く快音と切った部分を正確に刺す雷の轟音、そしてその度に漏れる弱々しい悲鳴。
それは旋律を成して1つの曲を奏でているようで、光景とは裏腹に安らぎを感じてしまう。
その真ん中には踊るように剣を振るう黄色い髪の美少女。
彼女はただ純粋に剣舞を楽しんでいるらしく、その表情は明るかった。
旋律に身を任せ、脚をあげたり華麗なターンを見せたり。
その動作1つで画に赤が増える。
噴き出す血さえ、彼女の晴れ舞台を祝福する薔薇のように見えて、凄まじい勢いで増える傷も喜ばしく思われた。


傷の数は数百に到達し、心なしか曲も終盤に差し掛かったよう。
そこで終にモンスターはドサッと倒れて動かなくなった。

今度はライも一切油断せず、倒れたモンスターの首に剣を突き刺した。
快音の後、曲を締めるように轟音が響き渡り、試合の終了を告げた。

「今度は大丈夫そうだな。」

イールはライに歩み寄り、笑顔で言う。

「これでホントに掃除完了!みんなのとこ行こーぜ!」

返り血を浴びた彼女の顔は半分ほどが赤く染まっていて、向けられた笑顔は傍から見たら狂気に満ちていたかもしれない。
だが、イールはその頭に手をおき、「ありがとうな」と口にした。
その後、モンスターに視線を移して、

「ちょっとコイツ剥ぎ取っていいか?」

「まあいいけど、早くね?」

「はいはーい」

テキトーな返事をし、イールはモンスターの爪を何本か入手した。

「よし、じゃあとりあえずユキのところ行くか。」

「アンタ、それだけでいいの?」

ライは爪を訝しげに見ていたが、イールが頷くと「あっそ」と言って歩き出した。


                                    ***

隠し部屋が見えたところで、凄まじい冷気が二人を襲った。
それは冬の朝を思わせる、切れるような痛みを伴う冷たさだ。
その原因は、どうやら隠し部屋から放たれているらしい。

二人は同時に顔を合わせて頷くと、その入り口へと走った。

「ユキ!」

イールは白い冷気が漏れる入り口を覗くも、焦点が合わなくなるほどのそれに視界を奪われ、思わず立ち止まってしまう。
だが、彼女を心配する気持ちが再び彼の脚を動かした。

肌が痛むのを擦ることで誤魔化しながら、足場があるのを確認して歩を進める。

三歩歩くと、その白の中に人影が現れた。

影がイールに気付いて、黒い髪をふわりと浮かせて振り向く。
それと同時に、重苦しかった冷気は一気に消え去っていった。

「任務完了」

控えめな笑みを浮かべながら、それでも満足げにユキは言った。

彼女の後ろには、吸い込まれるような白銀の世界が広がっていた。




長い長い一日ですね…笑
日記感が気になりつつ、
自分には描写力がないと改めて自覚して、ため息まじりに書きました。
難しいですね(;´д`)
次はユキの方を書こうかと思いますが、ライほど長くはなりません(多分)
是非ご覧下さい。

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