選ばれし100年の最弱剣士~100年前まで最強でしたが今や最弱採取係です~
第21話 問題の核は脆く固く
兄に流されるようにイール宅へ入ったエイナは、玄関に向かってきたハルを見るやいなや事情を説明した後、ソファに座りながら申し訳なさそうに出された紅茶に口をつけていた。
「美味しいです。ありがとうございます。」
一口飲むと、彼女はカップをテーブルに置いて頭を浅く下げる。
「すみません。お時間取らせてしまって。私が会わせたい人がいるって言ったのに。」
「いいのよ。私たちも用事は無かったし。ゆっくりしていってね。」
正面で紅茶を飲んでいたレイが笑顔で答える。
その姿はエイナの目には何よりも美しく映った。
あまりに凝視していたため、レイは疑問を投げかける。
「な、何?」
「あ、いえ、あまりにも綺麗なものですから。」
急な問いに本心が漏れるエイナ。
その正面で思わず表情が緩むレイ。
どちらの顔も紅潮していた。
「ええん。そんな事言ってるとお姉さん妬いちゃう~。」
やけにテンションの高いライがそんな事を言いながらリビングに入ってきた。
「ねぇ、双子だしアタシも綺麗でしょ?ねえ?」
ライに迫られてエイナは苦笑して視線をそらす。
喉まで来ていた言葉を押し戻すように、一口紅茶を含んだ。
「ら、ライさんは何と言うか~、わ、わんぱく系?元気?あ、可愛い系!?」
「なんで全部疑問形なの!?っていうかアタシは綺麗じゃないんだ!」
前のめりになってライは激しくツッコミを入れた。
本を読みながらそれを横目で見ていたユキが何かを企むように少し口角を上げる。
「ライ、頭悪そうって思われてる。」
「え!?」
涙目でライがユキの方を向く。
それを見て焦り始めたエイナがソファから立ち上がった。
「ち、違います!そんな事は微塵も思ってないです!思ったことないです!」
「そこまで言われると逆に怪しいよ!」
その後も暫くユキによるライいじりが続いた。
この家にこれほどの賑やかさがあるのは珍しいことだった。
目の前の少年の真っ直ぐな目は、やはりゾッとする何かを孕んでいる。
頭の中が真っ白になり、額に汗が滲み始める。
「銀髪でしかも不老なんて、イールさんくらいしかいないんじゃないですか?」
その質問だけに、一旦集中する。
何を返すべきか、何を返せば無難に終わるのか、それだけがイールの頭を渦巻いている。
「いや、さすがに他にもいるだろ。ほら、お前だって不老のやつを全員知ってるわけじゃないだろ?」
「ええ、そうですが、もちろん少しは調べましたよ。でも、少なくともこの年に生きていた不老の人の中には、イールさん以外に銀髪はいませんでした。」
イールが必死に考えた返答は、あっさりと青年にかわされてしまった。
こうなるともう、思考の袋小路を彷徨うほかない。
「いいじゃないですか、認めても。」
青年はイールを導こうとしている。
イールもそれが楽な選択だとは分かっていた。
しかし、それを認めさせない何かがあった。
その正体を、イール自信は理解している。
だから今自分が折れても、1つ保険をかけておきたかった。
「…誰にも言わないか?」
「ええ。」
イールはため息と共にプライドを吐き捨て、記録には記されていない事実を打ち明ける決意を固めた。
「俺には、魔法やスキルの源となる魔力を生み出している魔力核が無い。いや、自ら壊したんだ。」
                                 ***
「つまり自らの魔力核を破壊し、それによって短時間で全魔力を暴発させたから、あのヘルヘイムを倒すことができたと。」
エイルが顎を擦りながら頷く。
その顔に疑いの色は伺えずやけに納得しているので、イールを内心で驚かせた。
「そういうことだ。魔力核はまだ研究中だったから、治療法が確立されるまで100年かかると言われたんだが、結局今も何も分かっていない。だから俺は本当に魔法やスキルは使えないんだ。」
お昼時になって客が集まってきたこともあり、彼らの会話は小声になる。
2つのカップ、何枚かの皿、そのどれにも何も入っていない。
かなり長い時間が経過したように感じる。
「なるほど。でも、どうして他人に知られたくないんですか?」
「そりゃ、誰も信じないし、陰で『頭可笑しい』とか言われるの嫌だからに決まってるだろ。」
イールは窓の外を眺めるために視線を外した。
人の数は先程よりも増えているように思われる。
「そうですか。僕は信じますけどね。」
「みんながみんな、お前みたいな性格じゃないし、そもそもその記録を読んでないだろ。」
「まぁ、そうですね。あ、僕お手洗いに。」
イールの適当な返事を聞くとエイルは席を立ち、入り口前のトイレへ向かった。
 焦点の合わないイールの目には、人の移動がとても速く見えた。
他人の会話を雑音として受け取る耳には、外へ出る客へ向ける店員の声が煩く聞こえた。
人混みの真ん中を切るように歩く青い髪が、一瞬だけ彼の視界に入った。
「イールさん、あんたは何も見えてない。」
変わらない雑音が響いていた。
プチコーナー
店員「お会計、銀貨12枚になります。」
イール「クッソ、エイルのやつ、何も置いていかず帰りやがって。って、12枚!?俺の今月のお小遣いが…。」
「美味しいです。ありがとうございます。」
一口飲むと、彼女はカップをテーブルに置いて頭を浅く下げる。
「すみません。お時間取らせてしまって。私が会わせたい人がいるって言ったのに。」
「いいのよ。私たちも用事は無かったし。ゆっくりしていってね。」
正面で紅茶を飲んでいたレイが笑顔で答える。
その姿はエイナの目には何よりも美しく映った。
あまりに凝視していたため、レイは疑問を投げかける。
「な、何?」
「あ、いえ、あまりにも綺麗なものですから。」
急な問いに本心が漏れるエイナ。
その正面で思わず表情が緩むレイ。
どちらの顔も紅潮していた。
「ええん。そんな事言ってるとお姉さん妬いちゃう~。」
やけにテンションの高いライがそんな事を言いながらリビングに入ってきた。
「ねぇ、双子だしアタシも綺麗でしょ?ねえ?」
ライに迫られてエイナは苦笑して視線をそらす。
喉まで来ていた言葉を押し戻すように、一口紅茶を含んだ。
「ら、ライさんは何と言うか~、わ、わんぱく系?元気?あ、可愛い系!?」
「なんで全部疑問形なの!?っていうかアタシは綺麗じゃないんだ!」
前のめりになってライは激しくツッコミを入れた。
本を読みながらそれを横目で見ていたユキが何かを企むように少し口角を上げる。
「ライ、頭悪そうって思われてる。」
「え!?」
涙目でライがユキの方を向く。
それを見て焦り始めたエイナがソファから立ち上がった。
「ち、違います!そんな事は微塵も思ってないです!思ったことないです!」
「そこまで言われると逆に怪しいよ!」
その後も暫くユキによるライいじりが続いた。
この家にこれほどの賑やかさがあるのは珍しいことだった。
目の前の少年の真っ直ぐな目は、やはりゾッとする何かを孕んでいる。
頭の中が真っ白になり、額に汗が滲み始める。
「銀髪でしかも不老なんて、イールさんくらいしかいないんじゃないですか?」
その質問だけに、一旦集中する。
何を返すべきか、何を返せば無難に終わるのか、それだけがイールの頭を渦巻いている。
「いや、さすがに他にもいるだろ。ほら、お前だって不老のやつを全員知ってるわけじゃないだろ?」
「ええ、そうですが、もちろん少しは調べましたよ。でも、少なくともこの年に生きていた不老の人の中には、イールさん以外に銀髪はいませんでした。」
イールが必死に考えた返答は、あっさりと青年にかわされてしまった。
こうなるともう、思考の袋小路を彷徨うほかない。
「いいじゃないですか、認めても。」
青年はイールを導こうとしている。
イールもそれが楽な選択だとは分かっていた。
しかし、それを認めさせない何かがあった。
その正体を、イール自信は理解している。
だから今自分が折れても、1つ保険をかけておきたかった。
「…誰にも言わないか?」
「ええ。」
イールはため息と共にプライドを吐き捨て、記録には記されていない事実を打ち明ける決意を固めた。
「俺には、魔法やスキルの源となる魔力を生み出している魔力核が無い。いや、自ら壊したんだ。」
                                 ***
「つまり自らの魔力核を破壊し、それによって短時間で全魔力を暴発させたから、あのヘルヘイムを倒すことができたと。」
エイルが顎を擦りながら頷く。
その顔に疑いの色は伺えずやけに納得しているので、イールを内心で驚かせた。
「そういうことだ。魔力核はまだ研究中だったから、治療法が確立されるまで100年かかると言われたんだが、結局今も何も分かっていない。だから俺は本当に魔法やスキルは使えないんだ。」
お昼時になって客が集まってきたこともあり、彼らの会話は小声になる。
2つのカップ、何枚かの皿、そのどれにも何も入っていない。
かなり長い時間が経過したように感じる。
「なるほど。でも、どうして他人に知られたくないんですか?」
「そりゃ、誰も信じないし、陰で『頭可笑しい』とか言われるの嫌だからに決まってるだろ。」
イールは窓の外を眺めるために視線を外した。
人の数は先程よりも増えているように思われる。
「そうですか。僕は信じますけどね。」
「みんながみんな、お前みたいな性格じゃないし、そもそもその記録を読んでないだろ。」
「まぁ、そうですね。あ、僕お手洗いに。」
イールの適当な返事を聞くとエイルは席を立ち、入り口前のトイレへ向かった。
 焦点の合わないイールの目には、人の移動がとても速く見えた。
他人の会話を雑音として受け取る耳には、外へ出る客へ向ける店員の声が煩く聞こえた。
人混みの真ん中を切るように歩く青い髪が、一瞬だけ彼の視界に入った。
「イールさん、あんたは何も見えてない。」
変わらない雑音が響いていた。
プチコーナー
店員「お会計、銀貨12枚になります。」
イール「クッソ、エイルのやつ、何も置いていかず帰りやがって。って、12枚!?俺の今月のお小遣いが…。」
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