選ばれし100年の最弱剣士~100年前まで最強でしたが今や最弱採取係です~
第7話 終わった後も大変です。
「はい。首の傷は治ったよ。」
オスティンとの試合で首に少し切り傷をおったイールは、治療室でレイの治癒魔法を受けていた。
「あの時、気を抜いてしまった…。今回は初手を乗り越えたって、完全に安心してしまった…。」
先ほどの試合で負けたのがかなり悔しかったようで、試合終了からずっとこんな感じだ。見兼ねたレイがフォローを入れる。
「まあ、元気出して。今までは初手に反応できなかったじゃない。今回は、毎日の努力が報われたんじゃないかな。神様もイールを見てるんだよ。」
俯いたイールの頭をレイはよしよしと撫でる。まるで母親のようだ。
「神様、か。」
ボソッと呟いたイールの声は、レイには聞こえていなかったようで、変わらずイールの頭を撫でている。
少しして、他の3人が飲み物を持って戻ってきた。落ち込むイールを見て、最初に口を開いたのはハルだった。
「イールさん。お疲れさまでした。えと、ナイスファイトでしたよ。」
明らかに落ち込んでいるので、ハッキリと負けたとは言えなかった。彼女の優しさがそうさせたのだろう。
だが、やはり空気を読めない者が一人、いや、二人いるようで。
「イール!なーにうちの可愛い妹に甘えてんだよ!それでも男か!?」
そう。まずはライである。落ち込んだ相手にお説教とはまさに、泣きっ面に蜂である。
「レイ、お母さんみたい。」
そしてユキ。まさかのイールをスルー。彼女の目にはイールとレイの二人が1つの作品のように見えているのだろう。
「お母さんって!おい、ユキ!それじゃあアタシはイールのオバサンじゃねえかよ!」
この二人の「おかげ」というか「せい」というか。ともかくその場の緊張は緩んだ。二人を見て、イールもニヤけ、そして思わず少し吹き出した。
「そしたら本当にババアって言えるな。」
冗談を言う余裕が出てきたようだ。レイも今回に関しては見逃すようで、一緒に笑っていた。
「さて、帰りますか?それとも観戦しますか?」
ハルが四人に尋ねた。空気読めない組はどっちでも良いらしく、レイは帰りたいと言っている。
「イールさんは?」
「俺も帰りたいかな。スキル、魔法バンバン使ってたら、何も学べないからな。」
「じゃあ、帰りますか、みなさん。」
そうして五人は会場をあとにした。
グラディオから帰ってきてから3日間、特に何もせず過ごしていた五人だったが、遂に今日、地中の塔第281層に足を運んでいた。
「このエリアは紫のピラーンが多そうだな。とりあえずファイアボールでも撃っとけば死にそうだけど。」
珍しくライが攻撃魔法を使う。火属性が苦手なピラーンは、火属性の基本魔法でも即死する。
ピラーンは体長1mくらいの緑の芋虫である。浅い層では糸を吐いたり噛んだりするくらいしかしない雑魚モンスターであったが、この層のそれは毒霧を吐く。ユキいわく、当たったら猛毒に陥り、手当て無しでは5分で死に至る程の毒らしい。
「でも私ほどの毒じゃない。」
どうやらユキは自分が毒属性だと分かっているらしい。別の意味の毒だが。
285層まで、ピラーン層が続いた。慣れない魔法を使ったハルとライは少し安心していた。
「やっと終わったみたいですね。次のモンスターは面倒じゃないといいのですが。」
彼女らの目には、今までよりもよりゴツゴツした岩肌が見える。
ここは第286層。次の日のために一層下へ下りてきたのだ。
キリも良いので第1層へワープしようと考えていたところだった。
「今日はとりあえず終了しますか。指紋認証しちゃいましょう。」
そう言ってハルが認証板に人差し指を置こうとしたとき。
「ねえ、何か聞こえなかった?」
レイが不思議なことを言い出した。
誰一人、その「何か」を聞いた者はいない。
「何かって?」
気になったイールは聞いてみた。レイが冗談でそんな事を言う人ではないのを知っているからだ。
「うーん。何て言うか。悲鳴、みたいな。」
それを聞いて他の四人は再び顔を合わせる。しかし、皆きょとんとしていて、やはり誰にも心当たりは無いようだ。
「モンスターの鳴き声とかじゃね?」
ライがそれっぽい答えを出した。
結局、その答えに全員が賛成して、上がることにした。
例によって、イールはギルドへ報告を済ませた。一応レイの聞いた悲鳴のような音のことも伝えた。
そして、またまた例によってユキがファンクラブに絡まれているのを見たとき。
「あれ?」
イールはファンクラブの一人に見覚えのある顔を見つけた。しかし、何処で見たのかは思い出せない。
「まあ、いっか。」
その夜。
ドンドン!
イールは玄関のドアが叩かれる音で目を覚ました。
玄関へ向かうと、既にハルがドアを開けて誰かと話していた。
「ハル、どちらさんだ?」
「おお!イール!ちょうどよかった!大変なことが分かったんだよ!」
そう言ったのは、外にいる必死そうなフラートだった。暑いわけでもないのに汗をかいている。相当急いでここまで来たのだろう。
「第13層に隠し部屋が発見された!」
「なんだって!」
かなり入念に調べたのに見落としたとなると、条件付きの隠し部屋か。
「それだけじゃねえ!その部屋に落とし穴があったらしく、駆け出しの冒険者が一人落ちちまったみてえだ!今のところ、第100層まで捜索したが、見つかってねえ。だからもしかしたら…」
そこまで聞いて、ハルとイールはあることを思い出した。
「「悲鳴!」」
オスティンとの試合で首に少し切り傷をおったイールは、治療室でレイの治癒魔法を受けていた。
「あの時、気を抜いてしまった…。今回は初手を乗り越えたって、完全に安心してしまった…。」
先ほどの試合で負けたのがかなり悔しかったようで、試合終了からずっとこんな感じだ。見兼ねたレイがフォローを入れる。
「まあ、元気出して。今までは初手に反応できなかったじゃない。今回は、毎日の努力が報われたんじゃないかな。神様もイールを見てるんだよ。」
俯いたイールの頭をレイはよしよしと撫でる。まるで母親のようだ。
「神様、か。」
ボソッと呟いたイールの声は、レイには聞こえていなかったようで、変わらずイールの頭を撫でている。
少しして、他の3人が飲み物を持って戻ってきた。落ち込むイールを見て、最初に口を開いたのはハルだった。
「イールさん。お疲れさまでした。えと、ナイスファイトでしたよ。」
明らかに落ち込んでいるので、ハッキリと負けたとは言えなかった。彼女の優しさがそうさせたのだろう。
だが、やはり空気を読めない者が一人、いや、二人いるようで。
「イール!なーにうちの可愛い妹に甘えてんだよ!それでも男か!?」
そう。まずはライである。落ち込んだ相手にお説教とはまさに、泣きっ面に蜂である。
「レイ、お母さんみたい。」
そしてユキ。まさかのイールをスルー。彼女の目にはイールとレイの二人が1つの作品のように見えているのだろう。
「お母さんって!おい、ユキ!それじゃあアタシはイールのオバサンじゃねえかよ!」
この二人の「おかげ」というか「せい」というか。ともかくその場の緊張は緩んだ。二人を見て、イールもニヤけ、そして思わず少し吹き出した。
「そしたら本当にババアって言えるな。」
冗談を言う余裕が出てきたようだ。レイも今回に関しては見逃すようで、一緒に笑っていた。
「さて、帰りますか?それとも観戦しますか?」
ハルが四人に尋ねた。空気読めない組はどっちでも良いらしく、レイは帰りたいと言っている。
「イールさんは?」
「俺も帰りたいかな。スキル、魔法バンバン使ってたら、何も学べないからな。」
「じゃあ、帰りますか、みなさん。」
そうして五人は会場をあとにした。
グラディオから帰ってきてから3日間、特に何もせず過ごしていた五人だったが、遂に今日、地中の塔第281層に足を運んでいた。
「このエリアは紫のピラーンが多そうだな。とりあえずファイアボールでも撃っとけば死にそうだけど。」
珍しくライが攻撃魔法を使う。火属性が苦手なピラーンは、火属性の基本魔法でも即死する。
ピラーンは体長1mくらいの緑の芋虫である。浅い層では糸を吐いたり噛んだりするくらいしかしない雑魚モンスターであったが、この層のそれは毒霧を吐く。ユキいわく、当たったら猛毒に陥り、手当て無しでは5分で死に至る程の毒らしい。
「でも私ほどの毒じゃない。」
どうやらユキは自分が毒属性だと分かっているらしい。別の意味の毒だが。
285層まで、ピラーン層が続いた。慣れない魔法を使ったハルとライは少し安心していた。
「やっと終わったみたいですね。次のモンスターは面倒じゃないといいのですが。」
彼女らの目には、今までよりもよりゴツゴツした岩肌が見える。
ここは第286層。次の日のために一層下へ下りてきたのだ。
キリも良いので第1層へワープしようと考えていたところだった。
「今日はとりあえず終了しますか。指紋認証しちゃいましょう。」
そう言ってハルが認証板に人差し指を置こうとしたとき。
「ねえ、何か聞こえなかった?」
レイが不思議なことを言い出した。
誰一人、その「何か」を聞いた者はいない。
「何かって?」
気になったイールは聞いてみた。レイが冗談でそんな事を言う人ではないのを知っているからだ。
「うーん。何て言うか。悲鳴、みたいな。」
それを聞いて他の四人は再び顔を合わせる。しかし、皆きょとんとしていて、やはり誰にも心当たりは無いようだ。
「モンスターの鳴き声とかじゃね?」
ライがそれっぽい答えを出した。
結局、その答えに全員が賛成して、上がることにした。
例によって、イールはギルドへ報告を済ませた。一応レイの聞いた悲鳴のような音のことも伝えた。
そして、またまた例によってユキがファンクラブに絡まれているのを見たとき。
「あれ?」
イールはファンクラブの一人に見覚えのある顔を見つけた。しかし、何処で見たのかは思い出せない。
「まあ、いっか。」
その夜。
ドンドン!
イールは玄関のドアが叩かれる音で目を覚ました。
玄関へ向かうと、既にハルがドアを開けて誰かと話していた。
「ハル、どちらさんだ?」
「おお!イール!ちょうどよかった!大変なことが分かったんだよ!」
そう言ったのは、外にいる必死そうなフラートだった。暑いわけでもないのに汗をかいている。相当急いでここまで来たのだろう。
「第13層に隠し部屋が発見された!」
「なんだって!」
かなり入念に調べたのに見落としたとなると、条件付きの隠し部屋か。
「それだけじゃねえ!その部屋に落とし穴があったらしく、駆け出しの冒険者が一人落ちちまったみてえだ!今のところ、第100層まで捜索したが、見つかってねえ。だからもしかしたら…」
そこまで聞いて、ハルとイールはあることを思い出した。
「「悲鳴!」」
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