東方疑心録
殺意
刹那、アーデル達の視界から剣の姿が消えた。
そして、ドチャッ、と、それなりに質量のある何かが落ちる音がしたと思うと、剣が現れる。
しかし、消えた前とは違い、腰に差していた木刀は血塗られていて、フランを抱えていた。
それではフランを捕まえていたノイレはというと、
「おい…いつの間に嬢ちゃんを…!?」
と、驚いているが他の二人、アーデルとアッシュは別のことに驚き、目を見張っていた。
「ノイレ…そいつは…」
「お前!腕はどうしたんだよ!?」
「腕ぇ?俺の腕がどうし………は?」
二人がそう言い、ノイレは自分の右腕を見ると肘から下が無くなっていて、すぐ足下にその右腕が転がっていた。
「な、なんだよこれぇ!?」
そう声を荒げるノイレの右腕からは大量の血が流れ出ている。
「痛えぇぇぇぇぇ!!?ちくしょう!なんだってんだよ!?俺の、俺の腕があぁぁぁ?!」
自分の腕が無くなっていたことに気付き遅れて痛みがやってくる。あまりの痛みにノイレは立っていられなくなったのか肘を押さえてうずくまってしまう。
「剣……」
フランが心配そうな目で見てくる。
こんな時でも自分の心配をしてくれるなんて、やはり天使だなと、剣は場違いなことを考えてしまっていた。
「くそったれが!!!てめえだけは絶対許さねぇ!!ぶっ殺してやる!!」
激昂したノイレが落としたナイフを拾い剣のことを血走った目で睨み付けるが、次の瞬間には、また剣は消えていた。
「どこにいきやがっ……ゴフッ!?」
ノイレの言葉が途切れた理由は腹にめり込んだ木刀の柄がものがたっていた。
「お前は寝とけ。無闇に動くと死を早めるぞ。」
そういう剣の目は普段とは違い別人のように冷たかったが、
「フラン、もうちょっと待ってて。すぐ終わるから。」
フランにそう話しかける剣の目は普段となんら変わらない優しい目だった。
「うん…」
フランはそうやって頷くことしかできなかった。
剣の声が心に響いてくる。どこか全てを諦めていた心に希望が戻るのをフランは感じていた。
それは他ならぬ剣のお陰だった。
「すぐ終わる、ねぇ?ちょっと余裕こき過ぎだぞ小僧」
苛々した様子のアーデルが剣に話しかける。
「余裕じゃないさ。事実だからね。本当にすぐ終わるよ」
「それが余裕こいてるっつってんだよ!!」
いつの間にか剣の後ろに回り込んでいたアッシュはノイレのナイフで剣を突き刺そうとする。
しかし、そんな分かりきった攻撃を剣が避けられない訳がなかった。
ひらりと、身を翻し、アッシュの攻撃を避けるとすれ違い様にノイレと同じように木刀を腹に、しかし今度は刀身のほうでめり込ませていた。
「うごっ……こ、このクソガ…キ…」
その言葉を最後にアッシュは静かになる。どうやら気絶したらしい。
「さて、あとはあんた一人だが?」
「くっ…」
剣はそうやって視線をアーデルに向け冷たく言い放つ。
対するアーデルは冷や汗を大量にかいていた。
「そうだ。一つ聞いておくことがあった。お前らがここ最近の人里での出来事に関わっているのか?」
「そ、それは…」
問い詰められたアーデルはしどろもどろになっていた。
「そんなに難しいことは聞いていないはずだが?イエスかノーで答えろ。関わっているのか?いないのか?」
「くそっ!!!ああ、そうさ、その通りだよ!俺らがその事件を起こしていたよ!!」
突然そう叫ぶアーデル。
「……なんのために?」
「俺らはなぁ!全員貧乏なんだよ!毎日その日の食いぶちを稼いでは使い、稼いでは使いの繰り返しでいやになってたころにある男が来たんだよ!」
「ある男?」
「ああ!そいつはこの能力を封じる枷と、能力をくれたよ!能力をやる代わりに実験のためにその能力を使ってデータを集めろってな!
それがこの『忘れさせる程度の能力』だよ!」
「なんだと?能力を…くれた?」
「そうさ!!だからこうやって里で女を拐ってきては金品盗って、犯して、跡がつかないよう記憶を消して戻すんだよ!!」
半ばやけくそといった感じでそう言うアーデル。
「能力をくれた…か。そこはあとで聞くとして、お前…」
「あ?なんだよ?!」
アーデルの話を聞いて剣には、これまでこいつらに対して抱いていた憎悪は無くなっていた。しかし、その代わりに全く別の感情が剣の中では渦巻いていた。
それは、
殺意。
全てを呑み込んでしまうような深く、そして黒い感情だった。
「つまり、これからフランを犯そうとしていたと?」
剣はそうやって声を絞り出した。そうでもないと今すぐにでもこいつを殺してしまいそうだったから。
「……お前さえいなきゃ、いつも通りお楽しみだったのによ」
だが、そんな剣の努力も意味を成さなかった。
アーデルの言葉を聞いた瞬間に剣のなかの感情が爆発した。
一瞬でアーデルとの距離を詰める。あまりの速さにアーデルは腰を抜かしてしまう。
そのアーデルを見下ろす剣の表情は「無」だった。しかし目には明らかに殺意がこもっていた。
「ひっ!?」
そのまま剣は血塗られた木刀を振り上げる。もしそのまま木刀が振り下ろされたらアーデルの頭は真っ二つになるだろう。
「やめろ…やめてくれ!俺らが悪かった!だから…」
そして剣の腕が動き、
「やめてくれえぇぇぇ!!!!」
振り下ろされようとした瞬間、
「剣!ダメ!!」
フランの声が響く。しかしその声も剣が振り下ろした木刀の衝撃音にかき消された。
そして、ドチャッ、と、それなりに質量のある何かが落ちる音がしたと思うと、剣が現れる。
しかし、消えた前とは違い、腰に差していた木刀は血塗られていて、フランを抱えていた。
それではフランを捕まえていたノイレはというと、
「おい…いつの間に嬢ちゃんを…!?」
と、驚いているが他の二人、アーデルとアッシュは別のことに驚き、目を見張っていた。
「ノイレ…そいつは…」
「お前!腕はどうしたんだよ!?」
「腕ぇ?俺の腕がどうし………は?」
二人がそう言い、ノイレは自分の右腕を見ると肘から下が無くなっていて、すぐ足下にその右腕が転がっていた。
「な、なんだよこれぇ!?」
そう声を荒げるノイレの右腕からは大量の血が流れ出ている。
「痛えぇぇぇぇぇ!!?ちくしょう!なんだってんだよ!?俺の、俺の腕があぁぁぁ?!」
自分の腕が無くなっていたことに気付き遅れて痛みがやってくる。あまりの痛みにノイレは立っていられなくなったのか肘を押さえてうずくまってしまう。
「剣……」
フランが心配そうな目で見てくる。
こんな時でも自分の心配をしてくれるなんて、やはり天使だなと、剣は場違いなことを考えてしまっていた。
「くそったれが!!!てめえだけは絶対許さねぇ!!ぶっ殺してやる!!」
激昂したノイレが落としたナイフを拾い剣のことを血走った目で睨み付けるが、次の瞬間には、また剣は消えていた。
「どこにいきやがっ……ゴフッ!?」
ノイレの言葉が途切れた理由は腹にめり込んだ木刀の柄がものがたっていた。
「お前は寝とけ。無闇に動くと死を早めるぞ。」
そういう剣の目は普段とは違い別人のように冷たかったが、
「フラン、もうちょっと待ってて。すぐ終わるから。」
フランにそう話しかける剣の目は普段となんら変わらない優しい目だった。
「うん…」
フランはそうやって頷くことしかできなかった。
剣の声が心に響いてくる。どこか全てを諦めていた心に希望が戻るのをフランは感じていた。
それは他ならぬ剣のお陰だった。
「すぐ終わる、ねぇ?ちょっと余裕こき過ぎだぞ小僧」
苛々した様子のアーデルが剣に話しかける。
「余裕じゃないさ。事実だからね。本当にすぐ終わるよ」
「それが余裕こいてるっつってんだよ!!」
いつの間にか剣の後ろに回り込んでいたアッシュはノイレのナイフで剣を突き刺そうとする。
しかし、そんな分かりきった攻撃を剣が避けられない訳がなかった。
ひらりと、身を翻し、アッシュの攻撃を避けるとすれ違い様にノイレと同じように木刀を腹に、しかし今度は刀身のほうでめり込ませていた。
「うごっ……こ、このクソガ…キ…」
その言葉を最後にアッシュは静かになる。どうやら気絶したらしい。
「さて、あとはあんた一人だが?」
「くっ…」
剣はそうやって視線をアーデルに向け冷たく言い放つ。
対するアーデルは冷や汗を大量にかいていた。
「そうだ。一つ聞いておくことがあった。お前らがここ最近の人里での出来事に関わっているのか?」
「そ、それは…」
問い詰められたアーデルはしどろもどろになっていた。
「そんなに難しいことは聞いていないはずだが?イエスかノーで答えろ。関わっているのか?いないのか?」
「くそっ!!!ああ、そうさ、その通りだよ!俺らがその事件を起こしていたよ!!」
突然そう叫ぶアーデル。
「……なんのために?」
「俺らはなぁ!全員貧乏なんだよ!毎日その日の食いぶちを稼いでは使い、稼いでは使いの繰り返しでいやになってたころにある男が来たんだよ!」
「ある男?」
「ああ!そいつはこの能力を封じる枷と、能力をくれたよ!能力をやる代わりに実験のためにその能力を使ってデータを集めろってな!
それがこの『忘れさせる程度の能力』だよ!」
「なんだと?能力を…くれた?」
「そうさ!!だからこうやって里で女を拐ってきては金品盗って、犯して、跡がつかないよう記憶を消して戻すんだよ!!」
半ばやけくそといった感じでそう言うアーデル。
「能力をくれた…か。そこはあとで聞くとして、お前…」
「あ?なんだよ?!」
アーデルの話を聞いて剣には、これまでこいつらに対して抱いていた憎悪は無くなっていた。しかし、その代わりに全く別の感情が剣の中では渦巻いていた。
それは、
殺意。
全てを呑み込んでしまうような深く、そして黒い感情だった。
「つまり、これからフランを犯そうとしていたと?」
剣はそうやって声を絞り出した。そうでもないと今すぐにでもこいつを殺してしまいそうだったから。
「……お前さえいなきゃ、いつも通りお楽しみだったのによ」
だが、そんな剣の努力も意味を成さなかった。
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一瞬でアーデルとの距離を詰める。あまりの速さにアーデルは腰を抜かしてしまう。
そのアーデルを見下ろす剣の表情は「無」だった。しかし目には明らかに殺意がこもっていた。
「ひっ!?」
そのまま剣は血塗られた木刀を振り上げる。もしそのまま木刀が振り下ろされたらアーデルの頭は真っ二つになるだろう。
「やめろ…やめてくれ!俺らが悪かった!だから…」
そして剣の腕が動き、
「やめてくれえぇぇぇ!!!!」
振り下ろされようとした瞬間、
「剣!ダメ!!」
フランの声が響く。しかしその声も剣が振り下ろした木刀の衝撃音にかき消された。
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