東方疑心録

にんじん

お兄ちゃん 中編

「な、なんでいきなりそんなことを?」

剣は戸惑っているのか思わず聞いてしまう。

「だって剣、こいしちゃんにお兄ちゃんって呼ばせてるでしょ、自分のこと」

「いや、それはこいしが勝手に呼んでるだけで呼ばせてるわけじゃ…」

「よ ん で る よ ね ?」

「……はい」

フランの剣幕に押されついうなずいてしまう。先程まで天使だったフランがいつの間にか小悪魔になっている。

「こいしちゃんだけずるい!私もお兄ちゃんがほしい!だから1日剣には私のお兄ちゃんになってもらうよ!」

「それは決定事項なんですかね…」

「断ったら…わかるよね?」

フランの目からハイライトが無くなる。それを見た剣は本能的に悟った、逆らったらいけないやつだと。

「わかったよ。今日は1日だけフランのお兄ちゃんになってやる」

「ほんと!?」

「ああ、本当だよ」

「やった!」

無邪気に喜んでいるフランを見ているとこっちの頬がつい緩んでしまう。

「それじゃ、霊夢に話してくるよ」

「なんで?」

「実はこのあと霊夢と情報収集に行く予定だったから、あらかじめ言っとかないと後で何されるかわからないからね」

「わかったよ、早く戻ってきてね」

「ほーい」

剣はフランの部屋を出て霊夢の所へ向かっていった。







「剣!!あれ美味しそう!」

剣とフランはいま人里に来ていた。霊夢を説得しに行った剣だったが案の定、色々文句を言われたりした。理由についても聞かれたがそこは適当にはぐらかしておいた。
そして、フランはというと始めは紅魔館の中で遊んでいたがどうやら飽きたらしく外に行くことになったのだ。

「そうだね、食べる?」

「うん!」

「わかったよ」

フランが指さしていたのは少し前に行った茶屋である。そこで売っているスイーツに目が行ったのだろう。

「おじさーん!こんにちはー!」

「おう?おお!いらっしゃいませ、どうしました?またこんなところに?」

剣が呼び掛けるとスイーツを作っていたおじさんがこちらを見るなり驚いた表情を浮かべ聞いてくる。

「いや、今日は普通にお客ですよ」

「なるほど、」

おじさんはチラリとフランを見ると

「そちらのお嬢ちゃんは?」

「ああ、こっちはフラ…いてっ!」

言いかけていた剣の足をフランが踏みつける。

「なんだよ?」

剣が抗議の目を向けると不服そうなフランがボソッと呟く。

「……妹」

「え?………あっ…」

そういえばと剣は思い出す。今日1日はフランのお兄ちゃんだったっけ。

「あー、えーと、こっちは妹のフランです」

「兄ちゃん妹いたのか?!」

「え、ええ、まあ」

「そうかい、まぁそこに座っといてくれ。いまスイーツ出すから。この前のやつでいいかい?」

「はい、お願いします」

「お嬢ちゃんもそれにするかい?」

「うん!」

「わかった、ちょっと待ってな」

そう言うと店主は奥に戻っていった。スイーツが来るまで時間があるのでずっと気になっていたことを聞くことにした。

「そういや、フランは吸血鬼だろ?日光とか大丈夫なのか?」

「うん、そこはパチェの魔法でなんとかなってるよ」

「そうなのか」

その後も他愛もない話をしているとスイーツが出てきた。

「へい!お待ち!」

「ありがとうございます」

「美味しそう!」

いただきます、と言って二人はスイーツを食べ始める。
やはりここの抹茶あんみつは格別である。そうして食べていると店主からぼそぼそとあることを聞かれる。

「なぁ兄ちゃん、知ってるか?ここ最近ここいらで起こっていること」

「ん?起こっていること、ですか?なにかあったんですか?」

「実はな…」

深刻そうに話す店主の表情に剣の目も真剣なものになる。

「最近ここいらで人が突然いなくなることが多発してるんだ」

「いなくなる?」

「いや、すまない。これは俺の言い方が良くなかった。正確にはいなくはなるけど次の日には戻ってくるんだ。しかしそのいなくなっていた間の記憶がないらしい」

「それは…」

なんとも奇妙な話である。いなくはなるけど次の日には戻ってくるなんて。

「しかもなぜか若い女の子ばかりがこの被害にあっているらしい」

その一言で剣の謎はさらに深くなった。
誰かがやっているとしてもそんなことになんのメリットがあるというのだろう。

「知らないならいいんだ。ただ、うちの娘になにかあったらなと思っただけで」

「そうですか、力になれなくてすみません」

「いや、兄ちゃんが謝ることじゃないって!とりあえず、食事の邪魔して悪かったね」

そして店主はまた奥に戻っていく。

「………」

剣が考えている横では、フランがあんみつを美味しそうに、幸せそうに食べていたのであった。

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