東方疑心録

にんじん

図書館で その2

「は?それって一体どういう…」

「そのままの意味よ。あなたが何者か聞いているの」

パチュリーからこれまでにないほど真剣な眼差しを向けられる。

「何者って言われても、僕は剣…」

「それはわかってるわ」

言葉を遮るパチュリー。剣がわけがわからないという顔をしているのに気づいたのか、

「これは私の聞き方が悪かったわね。遠回しにせずに言うと、あなたは人間なのか、ということよ」

その言葉を聞いた剣はさらにわけがわからなくなってしまう。

「どういうことだよ…それは……」

「あなたは気づいてないかもしれないけど…」

パチュリーは自分の思っていること、考えていることを剣に話した。

「………わかった?明らかにあなたは人間離れしているのよ」

「………ああ」

「ならもういちど聞くわ。あなたは何者なの剣」

パチュリーにそう言われ剣は黙り込んでしまう。

「(確かにパチュリーの言う通りなら僕は本当に人間なのか疑わしいな。だけど…)」

「パチュリー、いや、皆に話していなかったことがあるんだ」

「なにかしら?」

「実は僕、この幻想郷に来る前の記憶がないんだ」

「えっ?」

パチュリーが驚いた表情を浮かべていた。それもそうだろう。これまで普通に接していた相手が記憶を失っているなんてにわかには信じられないことだ。

「………証拠は?」

やっぱりそうなるよな、と剣は心の中で苦笑しつつも、

「紫さんに聞けばわかる。それか、さとりさんに覗かせてもいい」

「わかった…信じるわ」

「あっさりと信じるんだな」

剣が驚いていると、

「嘘ならそんなすぐにばれるようなこと言わないわ」

「それもそうか」

「でもそれじゃ、何もわからないわね」

困ったように唸るパチュリー。

「いや、わかっていることならある」

「え、どういうこと?」

剣は少し下を向いてそれから顔を上げ、パチュリーの目を見ると、

「僕の正体が何者であろうと、僕は剣 優介だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

と、強い瞳をしながら言った。
それを聞いたパチュリーはしばらくポカーンとしていたが、いきなり吹き出した。

「なんだよ?人がせっかくキメてるとこなのに」

「あははっ、ごめんなさいね」

そんなパチュリーを剣はジト目で見る。
それからひとしきり笑い終えたのか、パチュリーが、

「まあ、今はそういうことにしといてあげるわ。でも、もし記憶が戻ったら本当のことを教えてね」

と、少し涙目で言ってきた。もちろん笑い涙である。
それでも剣は、

「ああ、約束する」

と真剣な目でそれでいてどこか笑ったような目で答えた。

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