異世界でスペックをフル活用してみます!とりあえずお医者さん始めました!

ぴよ凛子

彼の名は

「落ち着いたかい?」
私が泣き止んだのを見計らって彼は声をかけてくれた。
実を言うと、人前で泣いたことが久しぶりすぎて落ち着いた途端、恥ずかしくなってしまい、どうすればいいのか分からなくなっていたのだ。
「…急に泣いたりしてごめんなさい。」
「ははは、君はもっと人に甘えるべきだな、お嬢さん笑」
「…今までそんなこと誰にもできなかったもの」
「今までは、だろ?これからは僕がいる。改めて言おう、僕は君の癒し手、つまりパートナー。
そして、君の" 家族 "になりたいんだ」
まっすぐな目で見つめられる。
「家族……?」
「そうさ、君が人の命を救うように僕は君の心を救いたいって思った。だから君の癒し手を志願したんだぜ?だからどうか僕の家族になってくれないか?」
家族という彼の言葉の響きはとても懐かしくて少し寂しいと思った。
私にはとうの昔に失ったものだったから。
でももしまた、家族という存在を求めてもいいのなら…
「…私の家族になってくれますか?癒し手さん」
そういうと、彼はまるで花が咲いたかのような笑顔を私に向けた。
「もちろんさ、僕の可愛らしいお嬢さん。さぁ、僕に名前を付けてくれ」
「………あなたの名前は…」
目を閉じてこれまでのことを考える。
私は彼に名前を与えればもう帰れない。
そんな確信めいたものをなぜだか感じていた。
前の世界に未練はなかった。
毎日医者としてやるべきことはしてきた。
まだ治療途中の患者さんもいたが、みんな完治に近く、あとは様子見くらいのものだったからきっと大丈夫だ。
もし私が前の世界になにかあるとすれば…
1つの心残り。
でもそれももう終わったこと。いつまでも後ろは見ていられないのは分かっている。
この世界に私が召喚されたことに意味があり、意味を感じてくれて期待してくれる人がいるのなら、私はその期待に応えたい。
そんな思いが圧倒的に私の胸を占めていた。
そう、最初にこの世界に来て決めたことと変わらない決断。
私はここでも医者をやる。
なら、会ったばかりの私をこんなにも受け入れ、家族になろうと言った彼に私はついて行こう。
でも最後に一つだけ許されるのなら。
あの人を思い出させてくれた彼に私が与えたいと思ったものを。
私が生きる上で一生忘れてはいけないから。
たとえ異世界に来たとしても。
だから決めたの。あなたの名前は…



目を開けて息を吸い込む。そして











「あなたの名前は"  シグレ  " 」





私は彼とこれから生きていこう。


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